「・・・探し物があったんだけど」 「さがしもの・・・?」 「でも、ミュウツーがこれだけのポケモンを手に入れたなら、ボクたちも対等になるしかない」 「え・・・?」 ミュウは、ケミカの後ろに飛んでまた両肩を引っ張った。 ケミカは浮き上がり、水槽から少し離れたところに着地した。 それと同時に、水槽の下の部分が光り水槽の中に入っていたポケモンたちが次々と出てきた。 「わっ・・・!?こ、コピーがいっぱい出てきた・・・!」 「・・・・・・。」 ミュウは機械の上に飛んでいった。 しばらくじーっと眺めていたが、突然謎の青白い光を出して機械に穴を開けてしまった。 「?!」 ケミカが驚いている間に、コピーたちはどんどん部屋から出て行ってしまう。 最後の1匹が部屋から出て行き、機械仕掛けの扉は閉まってしまった。 「ミュウ!?なにしてるの!?」 「・・・みんなをここから出す。キミのポケモンもいるんでしょ?」 「い、いるけど・・・いるけど、ちょっと待っ・・・」 ドカン、とまたミュウが放った攻撃によって機械が爆発音を上げた。 コピーを作る機械は、あちこちから黒い煙を吐き出し始めた。 そして、ついに一際大きく爆発して、完全に壊れてしまった。 「・・・あーあ」 壊しちゃった、とケミカは思わず目を逸らした。 爆発した機械から、ミュウツーが出した大量の黒いボールも飛び出してきた。 「・・・あ!」 地面に落ちると、中から次々にポケモンたちが出てきた。 「ポロニウム!フランシ!」 「あ・・・ご主人様!」 「マスターケミカ・・・!」 出てきたポケモンたちは、みんなケミカに駆け寄ってきた。 フィジカやマリカ、エレメのポケモンたちも、一同に集まった。 「ケミカ・・・!」 「よかった、ホウソ・・・つかまっちゃった時は、どうしようって思ったよ・・・」 「ああ・・・ありがとな・・・」 再会を喜んでいたが、みんなが宙に浮かんでいるミュウに気づき始めた。 「・・・え?何だ、このポケモン・・・」 「伝説のポケモン、ミュウだよ」 「ミュウ・・・?!」 ミュウは全員を見下ろした。 「ボクはミュウツーと戦うことになる。きっと、ミュウツーもそれを望む。みんなも力を貸してほしい」 「えっ・・・?」 ポケモンたちにどよめきが起こった。 どうして?どうやって?と疑問の声が飛び交った。 「ボクはミュウツーを止めにきたんだ。みんなで、一緒に戦おう」 ミュウがそう言うと、ポケモンたちはお互いに頷いた。 そして、ミュウが先頭になって飛び、後ろから全員がついていった。 その様子を、ケミカは不安そうに見つめていた。 「・・・みんな・・・」 「ケミカ?どうしたんだ・・・?」 「・・・う、ううん、みんな・・・その・・・ミュウを、助けてあげて・・・」 「・・・・・・分かった」 ホウソは集団の一番後ろからついていった。 そして、ケミカも後からついていこうと歩き出したその時。 「うわっ!」 床の出っ張りに躓いて転んでしまった。 「・・・今日なんか、吹っ飛んだり転んだりしてばっかりだなあ・・・」 そう言いながら、膝をさすった。 立ち上がろうと床に手をついたその時、両手の下にあった床のタイルがそれぞれ光り輝いた。 「・・・え?・・・わあ・・・なんだろうこれ・・・」 ケミカが躓いた床が、突然左右にずれ始めた。 そして、その下には長い長い階段が見えている。 「・・・・・・入ってみて・・・いいかな」 帽子をかぶりなおして、ケミカは恐る恐る階段を下り始めた。 10段ほど降りたところで。 「わあ!!」 階段が3段ほどいきなりひっくり返った。 ケミカはとっさにさらに前に跳んで、階段の下の穴には落ちずにすんだ。 「罠・・・?あ、危なかった・・・」 そう言った瞬間、今度はケミカの頭上の1メートル四方ぐらいの天井が落ちてきた。 その気配に気づいたケミカは、大慌てでさらに前に駆け下りた。 鎖がついたその天井は、階段にドン、と落ちた後またするすると天井に戻っていった。 「・・・やっぱり、やめておこうかな・・・死んじゃうかも・・・」 いつもの笑みを絶やさなかったが、ケミカの頬には冷や汗が伝っていた。 「人間たちよ、命まで取ろうとは言わない。さっさと帰るがいい」 両腕を広げて、ミュウツーはそう言った。 ミュウツーと、マリカ、フィジカ、エレメの3人だけが広い会場に残っていた。 ミュウツーの声に反応するように、会場の出口の扉が開いた。 そこからは、いまだ荒れ狂う海と時折光る稲光が雲の間から見えている。 「・・・あの嵐の中を、帰れればな」 ミュウツーは挑戦的に笑った。 「・・・俺は帰れる」 「そりゃ、フィジカは帰れるだろうけど・・・」 マリカとエレメは肩を落とした。 「俺たち二人はどうすりゃいーんだよ」 「己を鍛えておかなかった代償だ」 「どんなに鍛えたって普通の人間は荒海を泳いでは渡れねえよっ」 外に向かって歩き出すこともできず、3人は小声で言い合いをしていた。 「・・・あ、あれは・・・?」 マリカとエレメからの抗議を受けていたフィジカがミュウツーを見遣って、声を上げた。 「ホノオグマ、シェルミウ、アメリシ・・・タンタル・・・!」 ミュウツーの足元から、何匹ものポケモンたちが先ほどのバトルのときのように出現した。 自分のポケモンを見て、マリカは思わず駆け寄った。 しかし、ミュウツーの念力で数メートル後ろに吹っ飛ばされてしまった。 「な、なんだよ?!俺のポケモンだぞ、返せっ!!」 「・・・これは、お前のポケモンではない」 マリカを見下ろしながら、ミュウツーは静かに言った。 エレメとフィジカも、自分のポケモンたちを確認して駆け寄ってきた。 「どういうことだよ!?俺から全部のポケモン盗ったくせに!!」 「これは、お前たちのポケモンから私が作り出した「コピー」だ」 「・・・コピー・・・!?」 3人に、衝撃が走った。 「元のポケモンの細胞があれば、いくらでもコピーなど作り出せる。これは、限界まで能力を高められた、遺伝子を改造したコピーたちだ」 「遺伝子を、改造・・・!?」 「そんなことが、許されると思っているのか?!」 フィジカも声を荒げた。 「私のルールは私が決める」 「ふざけるな!俺のポケモンたちはどこだ!?とっとと返せ!!」 「そうだっ!俺が大事にしてきたポケモンなんだぞ!早く返せ!!」 マリカはミュウツーの目の前に立って叫んだ。 「・・・大事にしてきた?よくそんな綺麗事が言えたものだ」 「なっ・・・?何がだよ、俺のポケモンは、俺はみんな大事にしてきた!家族みたいなもんだ!」 「家族?笑わせるな」 ミュウツーはマリカを見下ろして笑った。 「人間は、ポケモンを利用する。だが、ポケモンも人を利用する」 「は・・・?」 「一緒にいること自体が間違いだ。所詮、人間もポケモンもそういう関係でしかない」 「な、なに言ってんだよ・・・!」 反論する言葉を探して、マリカは首を横に振った。 「俺とポケモンは、信頼し合ってる!強い絆があるんだ!!俺のポケモンを、返せ!!」 「マリカ!!」 マリカは、ミュウツーに向かって突進した。 しかしミュウツーは片手を上げ、念力でマリカを吹き飛ばした。 素早く起き上がったマリカは、ミュウツーの後ろにいるポケモンたちに向かって叫んだ。 「プロトア!シェルミウ!!」 「・・・・・・?!」 マリカは自分のポケモンの名前を呼んだ。 しかし、ミュウツーの後ろにいるポケモンたちは互いに顔を見合わせるだけだった。 「アメリシ、タンタル!ホノオグマ!!俺が分からないのか?!」 「無駄だ、姿は全く同じでもコピーは記憶を受け継がない。コピーたちは、お前を知らない」 「・・・なっ・・・ちくしょうっ・・・!!」 マリカは両手を握り締め、ミュウツーに向かって再び走り出した。 「・・・許さねえっ!ミュウツー!!」 「マリカ、やめろっ!!」 ミュウツーはマリカの目の前にまた手を出した。 マリカの動きは止まり、そしてそのまま後ろに猛スピードで吹き飛ばされた。 「うわあああーっ!!」 「マリカ!」 「危ないっ!!」 斜め上に飛ばされ、バトルフィールドの壁に向かってマリカは吹き飛んだ。 しかし壁に叩きつけられる、と思った瞬間、マリカはふわっとした感覚に包まれた。 「な・・・なんだ・・・これ・・・?」 マリカは、薄いピンク色のシャボン玉ような物体の上に乗っていた。 「なに?」 ミュウツーも驚いて声を上げた。 すると、どこからともなく、ミュウが現れてマリカをじっと見つめた。 「なんだお前・・・?」 マリカはシャボン玉の上で、呆然とミュウを見つめた。 ミュウはマリカを見つめたまま空中でくるりと一回転した。 「お前は・・・!」 ミュウを見てミュウツーは表情を変えた。 そして、ミュウに向かってシャドーボールを放った。 「あっ!!」 ミュウが吹き飛ばされてしまった。 マリカはミュウを必死に目で追った。 しかし、ミュウは空に向かって飛ばされたが雲の中から無事に飛んで戻ってきた。 「そっちか!」 別の方向へ逃げたミュウに、ミュウツーは再びシャドーボールを投げつけた。 しかしそれもミュウはあっさりとかわした。 いくつもシャドーボールを放つが、ミュウは素早く避け続ける。 シャドーボールが当たったバトルフィールドの観客席の部分は、轟音を立てて破壊されていった。 ミュウは軽い身のこなしで空を飛びまわり、ついにミュウツーの前まで飛んできた。 近くに来たことでそのポケモンを確認したエレメが声を上げた。 「・・・ミュウだ・・・!」 「ミュウ?エレメ、知っているのか?」 「じーさんから聞いたことがある・・・伝説のポケモンだって」 マリカは、ミュウが出したシャボン玉からフィールドに向かって飛び降りてきた。 「・・・よっと」 「マリカ・・・大丈夫だったか?」 「ああ、へーき。なあ、あのポケモン・・・エレメのポケモンに似てないか?」 「俺の?」 エレメのカバンをマリカは指差している。 「・・・ボラックスに?そういや・・・尻尾の形は似てるような・・・」 ミュウと対峙し、ミュウツーはミュウを睨みつけた。 「ミュウ・・・」 「・・・ミュウツー、はじめまして」 ミュウはミュウツーを見下ろしながら少しだけ頭を下げた。 「・・・確かに私は、お前から作られた・・・しかし、強いのはこの私だ」 「・・・・・・。」 静かにミュウはミュウツーを見つめている。 後ろで、マリカがフィジカとエレメに歩み寄りながら呟いた。 「・・・ミュウから、ミュウツーが作られた・・・?」 エレメはマリカの言葉に頷いた。 「ああ、昔グレン島に大規模な研究施設があって、そこで遺伝子の研究をしてたって・・・」 「ミュウの遺伝子を何らかの方法で入手した人間が、ミュウツーを作り出したということか」 フィジカはそう言いつつ腕組みをした。 「私はお前より強く作られているはずだ。生き残るのは私だけだ!本物は、この私だ!!」 ミュウツーはそう言って、突然ミュウに向かっていった。 しかし、ミュウは上に飛んで逃げていった。 ミュウツーは猛スピードでミュウを追いかけた。 そして何度もシャドーボールやエネルギー弾を放ったが、ミュウはそれをことごとくかわしていく。 海に向かって落ちたミュウツーの攻撃が、いくつも大きな水柱を立てた。 距離をとって振り返ったミュウに、ミュウツーも空中で立ち止まった。 「なぜ私から逃げる?逃げるのは私が怖いからか?」 「・・・・・・」 「私と戦え!私がお前より強いことを証明してやる!!私は、お前のコピーではない、私が本物だ!!」 ミュウツーが放った今までよりずっと巨大なシャドーボールが、ミュウに正面から衝突した。 「!!」 地上から空を見ていた3人は、思わず息を呑んだ。 しかしミュウは、バリアーを張ってそのシャドーボールを跳ね返した。 不意をつかれたミュウツーは、シャドーボールにぶつかってそのままものすごい勢いで観客席に叩きつけられた。 「うわ!!」 マリカたちがいた場所のすぐ上だったので、3人は腕で顔を覆って衝撃に耐えた。 「・・・・・・。」 それを見てミュウは、ふいっとフィールドに降りてきた。 そして、フィールドの後ろの壁を突然攻撃して破壊した。 「あ、あれは・・・!!」 砂煙が立ち込める中、いくつもの影が見えてきた。 それは、オリジナルのポケモンたちだった。 「みんな・・・!」 「俺のポケモン・・・!」 マリカたちは自分のポケモンの姿を見て声を上げた。 ミュウはポケモンたちの前でくるりと振り返った。 それと同時に、ミュウツーが観客席からミュウと同じバリアーを張って飛び出してきた。 「・・・少しは手ごたえがある相手というわけだな」 広いフィールドに、オリジナルのポケモンたちとコピーのポケモンが数十メートルの距離を置いて対峙した。 飛んで戻ってきたミュウツーと、ミュウも空中で向かい合った。 「どちらが本物か、決めるのはこれからだ」 「・・・・・・。」 「ミュウと私のどちらが強いか、元のお前たちと私たちのどちらが強いか・・・」 ミュウツーがそう言うと、コピーのポケモンたちはオリジナルのポケモンたちに向かって意識を集中させた。 オリジナルのポケモンたちも、負けじと睨みかえした。 「我々は、限界まで能力を高めて強くなるよう作られている。私たちが負けるはずはない」 「・・・そんなことない」 ミュウが、口を開いた。 「本物が負けるなんて、そんなことあるはずがない。どんなに能力を高くして作られても、ボクたちは絶対に負けない。 お互いの素質だけをぶつけ合って戦えば、本物はコピーに負けたりなんかしない!」 するとミュウツーは、またミュウに向かってシャドーボールを放った。 十分に距離があったため、ミュウはそれを軽々と避けた。 「・・・言ってくれるな。いいだろう、どちらが本物か「わざ」を使わずとも決めてやる。」 ミュウツーは自分の下にいるコピーポケモンたちに向かって言った。 「強いのはお前たちだ!行け!!」 コピーポケモンたちは、本物のポケモンたちに向かって走り出した。 同時に、本物のポケモンたちもコピーポケモンたちに向かって駆けて行った。 「お、おい・・・!」 自分の横を他のポケモンがどんどん追い越していき、ホウソは慌てた。 次々と本物とコピー同士で戦いを始めていく中、ミュウとミュウツーも空中で戦い始めた。 お互い、身の周りをバリアーで包んで何度も激しくぶつかり合っている。 「な、なんなんだよこれ・・・・・・あ・・・!」 他のポケモンたちの熾烈な戦いの横を走っていると、ホウソの目の前に一匹のポケモンが立ちはだかった。 「・・・・・・俺・・・・・・?」 それは、ホウソと姿かたちが全く同じの、ピカチュウだった。 |