◆ウィザードリィV ダイヤモンドの騎士◆
PC版UのアレンジにおけるWizシリーズ初心者用



発売日:1990年3月9日   発売元:アスキー   ジャンル:RPG
値段:6500円   おすすめ度:4(PC版より経験値が約2倍!)


FC版Wizシリーズの第3弾だが、移植されたPC版はUであって、PC版VはFC版Uに移植されている。 これの経緯については、FC版WizUのレビューを見てもらうとして、Uを飛ばしてWを移植するよりも、Uをプレイしたいという熱狂的なユーザーの意向を反映したものと思われる。

同時に、外伝的存在の意味合いが強いWよりUを移植して、Tから続いているプレイヤーが制作したパーティ主役の物語を、できるだけ完結させたいという思惑もあったのかもしれない。 何しろFC版Vの移植は、何とAppuleU版登場の8年後という遅さなのだから。

もっともPC版Wについては、日本人ではわからない北欧・西欧の神話や、V以前より難解かつ意地悪な仕掛けが施されているため、 PCの日本語版は翌年にリリースされたものの、2007年現在日本のハードに移植されているのはPCエンジンとPSのみで、FCやSFCといった任天堂系のハードには移植されていない。

それにWの主役も、Tのラスボスであるワードナーであり、悪が主役のRPGというのは現在においても数が少ない。 FC版WizV発売時における、日本のRPGの価値観から言えば、正義の味方が悪の親玉を倒すという勧善懲悪主義が基本だった。 これについても、FCでのW移植を手控えた理由の1つになったのだろう。

いずれにせよ、FCにPC版Uの移植が決まったことにより、Wizのストーリーがようやくつながった。 ただPC版Uは、Tのデータを転送しなければクリアできない代物だったので、当然レベル1からはじめれば間違いなく全滅させられるのが関の山。 事実、移植元のアスキーもそれはわかっており、移植に加えて大幅なアレンジを加えざるを得なかった。

FC版の、T・U共に評価は高かったのだが、FC産のRPGから見れば難易度は高く、仲間の蘇生や敵の落とす宝箱などといったRPGの常識が、 RPGの基礎誕生前に登場したゆえに通用しないため、FC産RPGに慣れたプレイヤーにとっては理不尽とも取れる内容だった。

もちろん、FCユーザーにも大いに好評があったのだが、ドラクエやFFなどと比べれば人気や売り上げも小さかった。 だからこそアスキーとしては、FCユーザーにふさわしいアレンジをすることで、WizシリーズをFCにおける著名RPGの一角にのし上げたかったものと考えられよう。


では、FC版Vにおける大幅なアレンジは何かといえば、それはWizシリーズの要素の1つであった高い難易度を、この作品で大幅に低下させたことにある。 この作品の難易度低下の要因は、なんといっても獲得経験値の増大といっていい。 何しろ、前作までの獲得経験値の約2倍ほどであり、1階のモンスターを倒し続けるだけでも、簡単にレベル上げができるようになっている。

それを象徴しているのが、クリーピングコイン9匹倒したときに手に入る経験値が、何と1000ほどとなっており、 全体攻撃のブレスはきついとはいえ、倒したときの見返りは苦戦しても十分おつりが来るほど多すぎるものとなった。

Wizシリーズの、経験値稼ぎのカモとされたマーフィーズゴーストは、それ専門の部屋を設けて入るたびに何度でも戦えるので、 先のクリーピングコイン9匹の比以上の、膨大な経験値を獲得することができる。おかげで、短時間のレベル上げにより、前2作以上にあっさりと高レベルが序盤でできた。


2つ目は、コボルトやオークといったWizTのザコキャラが、この作品の序盤で登場したこと。 PC版Uは、例え序盤でもTの終盤に登場したモンスターが大挙登場するので、マーフィーズゴーストも1階にある専門の部屋に登場している。

当然、PC版Uの1階で登場した強敵は、5階や6階といった深い階層に追いやられている。 このおかげで、レベル1でも十分モンスターに対応できた。

3つ目は、特定の階層に用意された、謎そのものが削除されたこと。 FC版Uでは、重要アイテムの交換で謎解きの代用とされたのだが、Uのシステム自体あまりいいものではなく(属性で入れる階層とそうでない階層が存在するため)、 難しさより面倒さが増したため、FC版をプレイしたユーザーからも不評だった。

このため、属性で可否な階層を廃止と同時に、謎解きも廃止したたことにより、ますますWiz初心者にとって歓迎できるものとなった。 この他にも、前作で2倍だったボルタック商店街の商品の値段も、前作同様の値段に値下げされたことも大きい。


次に、FC版WizVの特徴だが、その有名どころは特性値が種族に関係なく、一律最大18までだったのだが、 この作品では種族によって18まで届かない特性値が存在するようになった。つまり、種族によって得意と不得意の職業が存在することになったのだ。

例えば、人間の場合は信仰心が低いので、例え僧侶になったとしても、通常のレベルで覚える呪文がもっと多くレベルを上げなければ覚えないし、蘇生の確率も低くなっている。 このため、キャラ制作前にどの種族がどの職業につけばいいのかを考えなければならなくなり、Wizシリーズの醍醐味の1つでもある、キャラメイキングにおける想像力が失われる結果となった。

とはいえ、華奢なイメージを持つエルフが、鋼の鎧を装備し幅が広い長剣を装備した、重厚な戦士になるというイメージは、 現在ではあまり沸かないのかもしれない(むしろ魔術師とかアーチャーといったイメージは沸くだろうが)。

ちなみに、人間は信仰心が低いとはいえ、呪文の効力自体は信仰心には関係ないので、レベルが上がれば蘇生の成功率も上がっていき、 結果的に人間もレベルが上がることで信仰心の低さをカバーできる(レベルアップの際、信仰心が上がればの話だが)。 先に挙げた、レベルが上がりやすいことも加えて、やはりやりこむほどにWiz本来のキャラメイキングの自由度は大きくなっていく。

これ以外の特徴は、『+1』といった武具がPC版Uそのままになっていたり、階層によってはWのモンスターも登場している。 呪文についても、Xから登場する魔術師用の呪文に加えて、PC版Uに登場した一部の呪文の内容が変更された。

マップ自体、変更された箇所がいくつかあるが、その中でも地下6階のある場所にいる、ボス的存在のモンスターがおり、倒せば悪魔の石を入手できるのだが、これがかなりの曲者。 戦闘中で使えばロストフェイク(アイテムや所持金と犠牲に、一瞬で城に戻れる)、スペシャルパワーを開放すれば灰になるという、まさにマイナスアイテム以外何者でもない。 このアイテムは、攻略本に載っていなかった曰く付きのもので、このアイテムのトラップに引っかかったプレイヤーは少なからずいただろう。


結局FC版Vは、PC版Uとは大きくかけ離れ、むしろ『ダイヤモンドの騎士』というサブタイトルを冠しただけの、全くオリジナルに近いゲームとなった。 これについて、評価する人もいれば評価しない人もいる。

なんといっても、従来のWizシリーズのシステムが導入されているとはいえ、難易度は大幅に低くなっており、先の難易度低下の要素の他に、 深い階層で入手できる神秘の石というアイテムにより、ロストされたキャラを灰に戻すことができるため、シリーズ最大の特徴である生き抜くこと自体の難しさがほぼ失われた格好となった。

ゲーム雑誌の評価についても、前2作よりも高くないものの、ファミコン通信の評価は相変わらず高かったが、これはゲームの面白さよりも、アスキーソフトびいきの意向が強いと思われる。 もっともこの年は、ドラクエWやFFVといった大作に加えて、数多くのソフトが良作・佳作の実力を持っていたがために、WizVは大作だったにもかかわらず、全体的なゲームの評価から見ればあまり高くなかったのである。 その後、任天堂系ハードにおけるWizシリーズは、FCからSFCへと移っていくことになる。


あえて言うが、私はWizシリーズの中でFC版Vが一番好きだ。 もっともWizシリーズは、今のところFC版のみでしかないのだが、FC版限定で考えればやはりVが一番面白いと考えている。 なんといっても、入手できる経験値がかなり多いため、序盤から楽にプレイできるのがいい。 属性における、最大特性値の変動も、レベルが高ければ余り気にならない。

最初は、オークやコボルトといったザコを倒すだけでも多くの経験値が手に入るので、それだけで満足していたが、 高いHPのくせに弱く入手できる経験値もかなり多いという、マーフィーズゴーストなるモンスターの存在を知ったとき、 そのモンスターと何度も戦える部屋で、多くの政権地を稼いだおかげで、序盤で楽にプレイすることができた。

もちろん、Wizシリーズの特徴である、生きること自体の難しさもあるが、神秘の石のおかげでそれの恐怖も少なくなった。 初めてWizシリーズをプレイして、わずか1週間しか程経ってないが、本来のWizの面白さがVでようやくわかったような気がした。 T〜Vまで、容量は2Mと全く変わっていないのに、こうも内容などが大幅に変わっているのは、ちょっとびっくりしている。

やはりこの作品でも、人間のみのパーティを作ったが、前作のような階層ごとに属性を変える面倒さもなくなったので、一貫して悪を加えず善と中立の混合のパーティにした。 個人的に、エルフやホビットなどといった、人間ではない種族とパーティを組むのは拒絶反応があるので、他のシリーズをプレイしても人間のみのパーティになるかと思う。

最後になるが、Vのレビューを書いているさなか、FC版シリーズのBGMを担当したピアニストの羽田健太郎氏が、 一昨日(2007年6月2日)の11時50分頃に肝細胞ガンにより亡くなられた、58歳という若い死であった。 羽田氏といえば、『題名のない音楽会21』の司会者でもあり、様々なドラマやアニメ、特撮作品のBGMを担当した、日本の音楽会を代表する1人として名が挙げられるほどだった。

羽田氏における、FC版WizシリーズのBGMは、日本のファンのみならず世界中のファンの心をつかみ、ゲームのBGMを手がけるのは初めてとはいえ、 Wizシリーズ発展に大きな影響を及ぼしたのは間違いなく、羽田氏の訃報は様々な音楽業界やアニメ・特撮ファンはもちろんのこと、多くのWizファンに衝撃をもたらすのは間違いない。

この日できた、FC版WizVのレビューを亡き羽田氏に捧げると共に、羽田氏のご冥福を心よりお祈り申し上げたい。



本日のまとめ



きっとおきにめしますよ

(07/6/4レビュー)
伝説のスターブロブ2への掲載:2019年5月16日
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