◆ウィザードリィ 狂王の試練場◆
PCのダンジョンRPG、FC初登場



発売日:1987年12月22日   発売元:アスキー   ジャンル:RPG
値段:5800円   おすすめ度:3(ダンジョンに潜む死の恐怖)


全世界におけるRPGの代表の1つで、日本でも有名なRPGの1つになっている。 第1作目は、1981年にアメリカのパソコン用として発売され、2007年現在でもシリーズが発売されている。 ウィザードリィ(以下Wiz)が目指したものは、世界的に有名なテーブルトークRPG(以下TRPG)ダンジョン&ドラゴンズ(以下D&D)であった。

TRPGとは、プレイヤーキャラクター(以下PC)がTRPG用のシナリオの登場人物(冒険者ともいう)になりきって、 シナリオの世界をつかさどるダンジョンマスター(以下DM)のルールに従いながら、1つのゲームで複数の参加者が行うようになっている。 同時に、両陣営の攻撃の命中率や、シナリオに仕掛けられたトラップなどを、DMの補足を足し合わせてダイスで行うようになっており、 ドラクエやFFといった現在のコンピューターRPGと違って運の要素が多分に盛り込まれている。

D&Dは、世界観は中世で冒険の舞台がダンジョン、なおかつなれる種族や職業が豊富に存在し、それでこそ人間の戦士といった一般的なものから、ドワーフの魔法使いというような変り種も作ることができる。 能力の設定は、20面のダイスを使うことで体力なり知力なり色々と設定でき、オーソドックスに素早さが桁違いの盗賊はもちろん、力自慢の僧侶というアンバランスなキャラを作ることもPCの思いのまま。

WizやD&D共に外国産で、D&Dは1974年に誕生し、日本語版は両方とも1985年に登場した。 どちらも、世界中で著名な作品だったにもかかわらず、日本語版の発売が大幅に遅れた(D&Dの日本語版は、11年後にようやく発売)のは、TRPGの世界観が当時の日本に馴染めなかったものと思われる。

しかし、日本語版登場前から、熱狂的なファンがいたことも事実で、英語版であるにもかかわらずそれにはまっていた人もいたほど。 Wizについては、文章以外を英語のままにしていたので、これは翻訳不足と言うよりこれこそが、Wizの魅力の1つといえるだろう。 もちろん、コンシューマーのRPGに慣れた人がプレイすれば、まず間違いなく混乱しただろうが。


D&Dを参考にしている以上、冒険の舞台はダンジョンで、キャラのメイキングからパーティ編成、ダンジョンでの探索や戦闘の果てに、 最深部に待ち構えるダンジョンの主と戦い、これを倒して王からご褒美をもらう手はずとなっている。 ただ、TRPGではなくコンピューターなので、メイキングや戦闘などは乱数表示で行われる。

メイキングは、ボーナスポイントのみとなっているものの、最低が5で多くても8か9程度。しかし、『ア』と入力するだけで、最大15ほどのボーナスポイントを獲得することがある。 名前は変更できるので、最初に『ア』だけで名前入力するプレイヤーはほとんどだった。

職業は、能力はもちろん性格で決まるのだが、性格は善・中立・悪の3種類。 善のキャラと悪のキャラを、パーティに混合させることはできず、あくまで善と中立もしくは悪と中立という編成で臨むしかなかった。 裏技で、既にダンジョンに入っているパーティと合流(後述)することで、善と悪が混合するパーティ編成ができる裏技があったが、一般的に善と悪を分けるのが普通だった。

ダンジョン内部は、パソコンゲーム黎明期とあって線画のみで、モンスターの絵も貧弱だったため、プレイヤーは己の想像力で補完するしかない。 モンスターの中には、友好的な場合もあるので、戦わずにそのまま立ち去ることもできるが、『友好的なゾンビ』というように現在のRPG感を考えれば、かなりシュールではあるのだが。 武具の名前も『けん+1』や『よろい+3』程度だったことや、キャラの性別もなかったので、自分自身によるストーリーが構築された。

戦闘は、先頭から3番目までのキャラのみが直接攻撃できるので、そのほかの3人は魔法による援護が主となるため、RPGのパーティ編成の基礎もここで誕生した。 ドラクエシリーズやFFシリーズも、4人パーティの最後尾は攻撃を受けにくい特性があったが(FFTは、反比例して攻撃の命中率が低下)、 FFシリーズのUから前列と後列に分類されたので、例え最後尾にいても攻撃を受ける可能性が大きくなった(逆もまた然り)。


戦闘自体、かなり運の要素が強く、様々なモンスターによる無数の特殊攻撃が話題となり、特にクリティカルヒットによる一撃死が、プレイヤーを恐怖させた。 一般のRPGにおけるクリティカルヒットは、ただ単に与えるダメージがいつもより倍以上となるのだが、Wizは敵しか持っておらず、 ザコでも序盤でそれを所持しているタイプもいるので、例え序盤の戦闘でも決して気を緩めることはなかった。 なにしろ、方向転換するだけで敵に遭遇することもあるのだから。

ダンジョンには、様々なトラップが用意されているが、序盤に体験するトラップといえば、敵が落としていった宝箱に仕掛けられているものだろう。 一般のRPGでは、敵が落とした宝箱は中身はどうであれ、トラップは一切なかった。

だがWizでは、序盤のモンスターが所持している宝箱ですら、悪質なトラップを施されており、忍者か盗賊でなければトラップを外すことはもちろん、その種類すら特定できない。 しかも、トラップを外すことができないこともあれば、引っかかることもある。 もちろん、トラップがない場合もあるが、確率的に仕掛けられているほうが高い。

その内容も、毒針(毒を食らう)や爆弾はもちろんだが、特にプレイヤーを恐れさせたのは、テレポーターの別の場所への転送。 その場所も、ダンジョンの壁に転送されることがあり、そこに転送されたら最後、『いしのなかにいる。』というメッセージと共にパーティ全滅となる。 マロールという移動魔法でも、座標指定ミスにより壁に埋め込まれることがあり、何気ないところでも常に気を配る必要があった。


壁に埋め込まれる以外にも、通常戦闘で全滅することがあるが、その場合はパーティ共々ダンジョンに置き去りにされ、 冒険前の訓練所でキャラを作りながら、ギルガメッシュの酒場でパーティを編成し、前のパーティの捜索に向かう。

だが、救出に向かう以上、いつもより数を減らしてのパーティ行動となるため、最大6人までの冒険より難しくなる。 救出しても所持していたアイテムは失われ、もたもたしていると怪物に食われることがある。

壁に埋め込まれたり、怪物に食われたキャラは『ロスト(lost)』扱いされデータ、つまり存在そのものが抹消される。 このため、それを利用して善と悪のパーティを作ったり、強力なパーティを作ることもできたが、データが消えるので蘇生はできない。

蘇生の手段にしても、カント寺院や魔法で蘇生できるのだが、失敗することも当然あり、その場合は灰になる。 灰になったキャラの蘇生に失敗すれば、怪物に食われるなどと同様ロストになる。


一般のRPGでは、必ず復活することになり、成功率が低い魔法でも灰になったりキャラがロストされることはない。 宝箱のトラップと共に、蘇生も一般のRPGでは安全が当たり前だが、WizではD&Dをベースにしているため、総合的に生きること自体が命がけなのだ。

もっとも、レベルが高くなればなるほど、全滅はもちろんキャラの死亡の可能性は大幅に低くなるが、レベル上昇は一定以上の経験値を得ると自動的に上がるのではなく、 一定以上得ている経験値に加えて、宿屋に泊まることで上昇するようになっている。

宿屋は1人しか泊まれず、種類によって回復量や値段が違うのだが、プレイヤーはそれ以外の要素である滞在日数に注目していた。 所持金は、パーティ共有ではなく個人所有なため、アイテムの購入も1人でやることになる。

一般のRPGでは、1日宿泊でHP・MP全回復できるが、Wizは馬小屋だけ1泊で、そのほかは1週間滞在することになっている。 実は、50歳を過ぎたあたりから能力が下がり始めるので、長くプレイしたい人は僧侶1人を馬小屋に泊まってMPのみ全回復させ、 仲間に回復魔法をかけてから、また馬小屋に泊まるの繰り返しを一般常識としていた。

いずれにせよ、一般のRPGと比べれば難易度は高い部類に入るが、それでも多くのファンを獲得した要因は、D&Dの要素をゲームに組み込んだだけでなく、 キャラメイキングや戦闘が敵の絵1枚と文章のみなどにおける想像力も、シリーズの人気を上げることになった。


FC版は、PCの日本語版発売から2年後に発売されたが、FCというハードとこの時期に起こったRPGブームであるため、難易度が大幅に下げられている。 特に、壁に埋め込まれる形での全滅はロストにならず、パーティの死体が城に転送させるようになったため、テレポーターの恐怖におびえることが少なくなった。

全滅時でのリセット技も、毎回の戦闘時にオートセーブされる仕組みを逆手に取ったもので、全滅時に墓標の画面が出たら即リセットするだけで、前の戦闘まで時間が巻き戻される。 はまったプレイヤーは、外部記憶装置のターボファイルを使って、仮にロストした場合でもそれの前のデータを所持することで、全滅の確率を大幅に下げた。

もっとも、最下層に近づくにつれて、残りMPやアイテムの所持数などが少なくなったりするため、全滅の危険性が高くなるので、やはりパーティの能力を注意深く見守ることが必要だったが。 そもそも、PC版のシステムのほとんどは、FCにそっくりそのまま移植したので、FC版でも高い難易度は維持されることとなったのである。

もう1つ、FC版における重要な点は、グラフィックを末弥純氏が、BGMを羽田健太郎氏が担当したことにある。 末弥氏の描いたモンスターは、リアルで恐怖を全面的に押し出しており、初めてゲームのBGMを担当した羽田氏による重厚な音楽は、 ダンジョンの不気味さと合わさって、どちらも非常に評価が高く、WizにBGMを付加したこと自体、PC版をプレイしたプレイヤーにも大いに歓迎された。

ゲーム開始前での、ゲームの単語や文章の言語や、ダンジョンのグラフィック(線画か普通の画面)を変更できることの他にも、 アイテム名の変更(『剣+2』から『切り裂きの剣』など)もまたプレイヤーの想像力を、大いに膨れ上がらせるのに一役買った。 操作性も、FCに移植する以上コマンドを英語で入力するのではなく、一般のRPG同様カーソルで選択するので非常に高かった。

かくて、内外からの評判を得たFC版は、PC版のシリーズを次々とFCサイズに移植され、どれも高い評価を得ることになった。 同時にアスキーは、『Wizシリーズ』という大きなブランドを手にすることになり、同年発売された『覇邪の封印』とあわせて、 一気にFCのそれもRPGのアスキーの知名度を上げることにつながった。


Wizシリーズ自体、FC版登場から3年後という早さで知ることとなり、時代が下るごとにそれの最新作をゲーム雑誌で垣間見るようになり、内容もある程度理解できた。 にもかかわらず、初めて初代をプレイしたのがレビューを書く現在なのは、洋ゲーのにおいが強かったことに加えて、この手の3DダンジョンRPGは苦手の部類に入っていた。 ならばなぜ、3Dダンジョンがメインのメガテンシリーズをかなりやりこんだのかというのは、Wizシリーズよりもシステムがやさしかったためである。

早速初代をプレイした私だったが、箱説明書なしで購入したため、キャラメイキングでの職業設定や、レベル上昇の方法がわからなかった。 このため、最初は「何だこのゲームは!?」と怒りをあらわにしたが、様々な攻略サイトや自分の勘のおかげで、ようやくこのゲームの内容がわかるようになった。 このゲームの攻略も、サイトや雑誌に書いてあった通りに進み、馬小屋を最大に活用したり、全員の所持金を集めて1人だけ強力な装備を買ってあげたり、全員平均的な武具を身に着けさせたりなどやった。

とはいえ、身近に感じる死の恐怖を始めとして、一般のRPGでは当たり前のことがWizでは通用しないことを思い知らされた。 レベルが上がるほど簡単に、かつ面白さが増していくのだが、先に書いた死の恐怖がそれを阻んでいった。 クリティカルの一撃死はもちろん、テレポーターのトラップやバンパイアのエナジードレインでのロストなど、事あるごとに私を悩ませた。


ただ、『ゆうこうてきながいこつ』といった文章は、想像しただけでも笑いが出てくる。 常に緊張が続くダンジョンに、こういったシュールさがあると、何故かほっとするのは私だけではないと思う。 その場合は、必ず立ち去ることで戦闘を回避していた(あまり死に急ぎたくないので)。

とりあえず、高い難易度は置いといて(おすすめ度が3なのは、これによるため)、Wizの面白さをこの歳になってようやくわかってきた私は、いずれ続編以降の作品をプレイしてみたいと思った。 やはり、キャラメイキングに数時間もかかったのだから、続編ではそれを複雑にさせるプレイヤーにとっていい悩みが増えると思っているからだ。

なお私は、全ての文章や単語を日本語にしたが、それは私がWizマニアではないことと、 何よりも英語が苦手だったので、続編以降をプレイするときは必ず日本語でプレイしようと考えている。 単語が英語では、さすがに想像力を働かせるのは無理なので。

それにしても、英語のサブタイトル『Proving Grounds of the Mad Overlord』を、 『狂王の試練場』というすさまじい邦題に訳した日本語版スタッフは、別の意味ですごいと思う。



本日のまとめ



いてっ!

(07/5/31レビュー)
伝説のスターブロブ2への掲載:2019年5月16日
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