◆松本亨の株式必勝学U◆
一層狂乱するジャパニーズドリーム



発売日:1989年3月31日   発売元:イマジニア   ジャンル:SLG
値段:9800円   おすすめ度:2.5(前作よりまともだが…)


1988年の2月に発売された、『松本亨の株式必勝学』の続編で、前作同様株で儲けることを主旨としている。 このゲームは、経済評論家の松本亨氏(故人)のアドバイスを元に制作され、囲碁や将棋といった大人向けの遊びとは違った、いわゆる大人向けのテーマを題材にした初めてのゲームだった。

大人向けのテーマのゲームといえば、殺人事件を題材にしたAVGもそうで、株式必勝学発売の前年にはそういったゲームも発売されていたのだが、 あくまでAVGという子供達にはある程度わかりやすいジャンルのゲームだったので、まだFCに浸透していなかったSLG、 それも株といった子供には程遠いものを題材にしたゲームという点では、株式必勝学が初だった。

その前作は、株よりも不動産で儲けやすくなっており、結果的にゲームオーバーになるケースが相次いだ。 また、株の売買に関するヒントもあまり有効的でなく、色々なアドバイスを出す松本氏にしても、何らかの用事で外出していたり、 忙しいために秘書に門前払いを食らわされるなど、要は自分の勘でどうにかするしかなかった。 この他にも、株が現実以上に乱高下したり、先に書いた不動産で儲ける方法も、準備があまりにも簡単なために、株で儲けるという本来の目的が捨てられる格好となった。

こういった荒削りな内容により、一般ユーザーからクソゲーの声が高まったが、株の売買にはまった人達には大いに好評があり、 金儲けの他にも己の体調管理や、家族との絆に注視しなければならないなどといったスリルも楽しめるといった声もあった。

同じくして、FCにおける株や不動産を売買して大金持ちになるというゲームの元祖は、ここから始まったといっても過言ではなく、 株式必勝学発売から4ヵ月後の8月には、ソフエルから『ザ・マネーゲーム』が発売された。

そして、前作発売から翌年の3月、再び松本氏のアドバイスを元に続編が発売されるが、好評よりも不評のほうが高かったにもかかわらず続編が発売されたのは、 いまだバブル景気が続いており、前作のような破天荒も許容範囲内と考えたものだと思われる。


今作は、前作とストーリーがつながっており、既に結婚もしており子供も授かっている。 その妻は、おそらく前作のお見合いに登場したOLらしく、前作で登場した子供は(ゲームの世界で)6年の歳月が流れているためか、すっかり成長している。 また、前作のエンディング後に松本氏の門下に入っており、いわば松本氏がプレイヤーにもう一度試練を課すものとなっている。

早い話、前作同様株を売買して、大金持ちになることが目的となっているが、それを固めるシステムが前作と比べて大幅に変わっている。 まず1つ目は、全てがリアルタイムで行われていないこと。 なんといっても、前作で全ての取引にかかった時間が止まるので、急がず焦らずに取引を済ますことができた。

このため、トイレや電話などといった、ゲームから離れることが容易になった。 売買後の所持金の変動にしても、前作と違って一瞬で変動後に変わり、物件売買後での所持金の変動中に株の取引が終わることはなくなった。

2つ目は、株の売買におけるレベルの上昇が明確になってきたこと。 前作でも、株の売買をすることでレベルが上昇するのだが、どこまでいけばレベルが上がるのか示すものは何もなかった。

続編では、株の売買で得た利益が経験値(出来高)となり、一定の利益が得られればレベルアップする形に決められた。 つまり、まずはどういう形で出来高を増やすのか、明確な目標を出すことができた。


レベルアップすると、様々なステータスが上がっていくのだが、そのステータスに新たな要素が加わったことが3つ目となる。 前作のHPとLPに加えて、IPとDPが新たに登場し、どちらも0になると行動不能となる。

IPは知力でDPは精神力を指し、4つとも株の売買をしたりハプニングサインでのイベント、妻と子供の間柄をよくするためにも消費される。 妻の間柄は『機嫌』、子供の間柄は『よい子』で表しており、前作同様金儲けに奔走すると離婚されることになってしまい、子供は家出することになる。

4つ目は、4つのステータスを回復できる手段が、大幅に変わったこと。 特に、前作にあったレジャーがなくなり、代わりに電車で東京近郊を歩くことになるが、それが新たに東京近郊の街が3D迷路になったことが5つ目の要素である。

迷路には、様々な施設があれば、道端に落ちているアイテムも見つけることができる。 なお、家族を連れ出して散歩することも可能となり(妻だけや息子だけでも可)、施設によっては妻と子供の間柄を回復する手段もある。

5つ目は、操作性が大幅に改善されたこと。 前作では、アイコンが画面下に配備され操作もかなり鈍かったのだが、Aボタンで全てのアイコンが出るようになった上に全て真ん中に一まとめされている。 これにより、操作はかなりスムーズになり、他の株価を見たいときには、十字キーの左右で操作できるようになった。

これ以外にも、情報を入手する手段の1つであった新聞の購入費がただになり、前作と比べてプレイのしやすさは格段にアップしたといえよう。 前作と同じ容量で、キャラデザインも変わっていないのに、こうも雰囲気や快適感が全く違うのは、いかに前作が荒削りだったことを物語っているともいえる。


ただ、前作と比べれば荒削りではないが、他のゲームと比べればやはり荒削りな雰囲気であることには違いない。 1つに、4つのステータス回復手段が、あまりにもありえないものだということ。 IPを回復する手段の1つに、違法ドラッグが普通に存在していたり、DPについては怪しげな店に入れば回復できることなど、ほぼ現実離れしている。

HPを回復する手段にしても、愛人と付き合うことがその1つとなっているが、愛人自体2つ目のありえない要素となっている。 不動産で購入したマンションや一戸建ては、主に資産を増やしたり家族の新居に利用するが、もう1つ街で口説いた社長秘書や女教師を愛人にして、そこに住まわすことができる。

愛人のおねだりも半端でなく、愛人の住居に行くたびに必ず起こるため、HP回復を除けば間違いなくマイナスイベントでしかない。 つまり、プレイヤーがごく平凡なサラリーマンであることが、愛人所有ということに突っ込みを増大させているのである。

3つ目は、その街自体が3D迷路になっていること。 多摩センターや錦糸町という名前の街が、複雑な迷路な上に壁自体真っ白いだけの寂しいもので、 道しるべになるものすらないので、完全に迷いやすいものになっている。 マップも何もなく、施設の内容も入ってみなければわからないものばかりである。


4つ目は、妻と息子との間柄の回復方法だが、その一番効果的な方法がありえないということ。 妻には『なぐる』、息子にはエロ本とヨットスクールに放り込むもので、そのヨットスクールもかつて(今も)大事件を起こした実在の組織そのまま登場させている。

にもかかわらず、何故かよい子度が一気に回復するという、プレイヤーにとってはありえない要素に挙げられるほどの1つとなった。 ちなみにその息子の顔は、未就学児にもかかわらず、メジャーリーグのパイレーツ選手である桑田真澄選手にほぼそっくりとなっている。


5つ目は、エンディングの目的の1つにある目標所持金が何と70億で、それも2年の間に稼がなければならない。 前作で、2年間で1億円を稼がなければならないこと自体大変なのに、続編ではその目標額が70億に増えるのは、 バブル期のことを考えてもありえなさすぎるもので、突っ込みどころの中で一番有名なものである。

なお、前作で稼いだ1億円はどうしたのかということも、このゲームの突っ込みどころの1つなのだが、 ストーリが前作から6年が経過しているので、その間家族の生活費によってほとんど消えてしまったものだと思われる。 他にも、ハプニングサインの点灯に起こりうるイベントの大部分もそうなのだが、前作のことを考えればこれは一応許容範囲ではないだろうか。

その一方で、金の稼ぎ方は前作と比べてかなり堅実になっている。 前作にあった、物件を高額で売り飛ばすやり方はできなくなっている(不動産屋から「いくらなんでもムチャです」と言われるため)。

これは、前作で使えた土地転がしがクリア条件にならないという意見を、イマジニアを介して松本氏に伝わったものと考えられる。 松本氏も、前作の二の舞をプレイヤーに踏ませたくないことでの処置だったのかもしれない。


結局、70億円の大部分を株で稼がなくてはならず、大部分のプレイヤーはあきらめた人も多かったことだろうし、 何とかやり遂げたプレイヤーにしても、再びプレイしようとする気力はほとんどなくなってしまったものと思われる。

まかりなりにも、70億という膨大な目標を設定した理由には、この時期の株価が常に最高値を更新していたことにあったのではないだろうか。 だからこそ、2年間における株の売買だけで、70億を達成できることは決して不可能ではないと、松本氏ら経済評論家達は考えたのだろう。

『株式必勝学U』発売の年には、ソフエルの『ザ・マネーゲームU』やヘクトの『株式道場』が発売され、日本列島バブル景気に発生した投資ブームに沸いていた。 しかも日経平均株価が、その年の暮れに4万近くになるという、証券取引所史上最高値を更新し、日本列島が楽観一色に染まっていった。

だが、このゲームのストーリーの2年後には、70億を達成してのハッピーエンドになるのに対して現実は、平成不況の始まった年に該当する。 ここから十数年間、日本はバブル時代のツケに苦しみ、就職氷河期や銀行の不良債権などを生み出すことになった。 89年の株価史上最高値と、91年の平成不況の始まりというギャップは、さすがの松本氏も計算していなかったらしく、それが70億という目標に現れている。

ただ、翌年に第3弾が発売されていないばかりか、89年から2007年6月7日にカプコンから『株トレーダー瞬』の登場の間に、 株で儲けるゲームが発売されていなかったのは、株で儲けるゲームを作った会社や経済評論家達が、近いうちに不況が来ることを考えていたのかも入れない。 事実その翌年の10月には、株価史上最高値の半分にまで落ち込んでいたのだから。

実際のところ、株や不動産による大もうけは、ただの夢物語であることを改めてプレイヤーに認識させ、 平成不況の末期には株式必勝学シリーズの第1作が、レトロゲームのムックに紹介された際、『バブル時代のあだ花』と揶揄された。

操作方法が、前作よりもスムーズになり、株の売買も条件次第で2度目以降もできるようになったが、 周りを固めた要素の大部分が突っ込みどころの多すぎるものばかりだったために、やはりいい評価は得られなかった。


このゲームもまた、前作同様発売から2年ほどで、その存在を知ることになった。 もちろんプレイしたのは、レビューを書く前後だったものの、その直前まで前作をプレイしていたことと、 内容が前作とほぼ同じだという思い込みもあって、プレイしてしばらくは平常心を保っていた。

しかし、妻と息子の間柄の回復の仕方や東京近郊の3D迷路、愛人を作ったり自分のステータスの回復方法の突っ込みどころの多さに、 前作のギャップを突きつけられた私は、一時プレイを中断ししばし呆然とするしかなかった。

特に、2年間で70億を達成することと、その手段が主に株の売買でしかないこと、土地転がしが事実上不可能になったことや、レジャーがなくなったことはかなりのマイナスではないだろうか。 前作より、買える株の種類が大幅に増えたことや、プレイ操作の快適感といった要素が健闘しているのに、どうもマネーゲームの理不尽さを感じ得ないものだった。

では、前作のほうが面白かったのかといえば、その前作も突っ込みどころが多すぎたため、どっちが素晴らしいのか私には決めかねる。 両方とも、つまらないと言ってしまえばそれまでだが、土地転がしを堪能してそれで得た大金で、レジャーといった娯楽を楽しむのなら前作が、 あくまでも株で堅実にかつ快適にプレイするのなら続編が、それぞれいいのではないのだろうか。 ちなみに私は、エンディングを確実に見られるということで、Uがいいかなと思っている。

BGMも、メンデルスゾーンやバッハの曲が、資産売買の雰囲気を盛り上げており、スムーズな所持金変動もあわせて、 ゲームの中とはいえあたかもそれらしい雰囲気をプレイヤーに与えてくれている。 あとどのくらい稼げば、次のレベルになることができるかや、資産購入時は時間が経過しないなど先に書いた良点もあわせて、わずかだがUのほうが面白いかと思う。


どうでもいいが、タイトル画面に出る選択肢に『暗号』があるが、これは当時の週刊誌に書いてあるパスワードを入力すると、 松本氏直々その時代の経済状況を詳しく教えてくれるものなのだが、発売から既に18年が経過している今では完全に無意味でしかない。 むしろ裏技で、怒っている松本氏の意味不明な台詞を拝見することが、本来の目的のようになってしまっている。

結局、このゲームをプレイしてわかったことは、株による大もうけはただの夢物語だということを、認識する結果になった。 何とか、2年で70億と達成したとはいえ、2度目のプレイ以降はマジメにプレイするよりも、改造コードでやってみようかと考えている。

それに私は、株でばくちを打つよりも、仕事で堅実にこつこつと貯めたほうが性にあっていると思ってもいる。 アメリカ同時多発テロのように、いつ株価が暴落するかわからないので。



本日のまとめ



ウリ! ウリ!

(07/5/26レビュー)
伝説のスターブロブ2への掲載:2019年5月14日
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