◆松本亨の株式必勝学◆
バブル時代に咲いたあだ花



発売日:1988年2月18日   発売元:イマジニア   ジャンル:SLG
値段:9800円   おすすめ度:2(ジャパニーズドリームとは…)


今から20年ほど前の1980年代後半は、日本全国好景気にあふれていた。 日本製品を発売すれば飛ぶように売れ、何気ないアイデアを出せばそれ1つで会社が大きく発展した。 文化も同様で、アイドルやタレント、テレビ番組、それにゲームなどもバラエティ豊かになり、何かを出せばそれだけで人気がでることになった。

だがそれ以上に、日本の好景気を持続させたのは、日経平均株価であった。 2007年5月下旬現在、平均株価は1万8千円近くまで持ち直しているが、80年代終わりの頃には何と倍以上の4万近い値がつけられた。 一般人が1株買えば、数百円程度の株の値段が一気に数千円まで値上がりしたり、人気の銘柄ではそれがさらに値上がりの加速につながった。

同じ頃、土地や物件の値段も、一日で数百万ほど値上げすることもあった。 これも、株価上昇の余波であり、安い土地や物件を買ってそれらを高く売ってくれる不動産屋に売り払うという、いわば土地転がしを行う人間や企業も現れるようになった。

これが『地上げ屋』であり、彼らは銀行から多額の融資を受けながら、しばしば強引なやり口で広大な土地を買い占めていたので、一般市民から蔑視の対象となった。 地価上昇により、マイホームや土地を買えない一般人は、車やレジャーといった娯楽などに目を向けるようになり、地上げ屋の行為が景気を後押ししていると考えていい。

だが、狂乱的な株の買い付けや強引に土地を買い占める地上げ屋の行為は、やがてツケとなって現れる。 80年代後半から続いていた景気は、91年のはじめごろに終わりを告げ、一気に株価は値下がりした。 年を追うごとに、株の値段は下降し続け、2001年に起こったアメリカ同時多発テロ直後の平均株価は、何と1万円を割り込んだ。

つまり、日本の最高平均株価の4分の1にまで、約10年という短い間に下落してしまったのだ。 この、80年代後半から91年初頭までの好景気を『バブル景気』と呼び、バブル後の十数年間にもわたる不景気を『平成不況』と呼ぶ(現在の景気は回復傾向にある)。


このバブル時代に、まさにそれを象徴するものが、FC界に登場した。 『松本亨の株式必勝学』は、バブル時代の株の売り買いをFCに再現したもので、株の売買は現実と同じ証券取引所(おそらく東京証券取引所)で行われ、 売られている株も架空の会社ではなく現実に存在する会社の株となっている。 したがって、東宝やビクターといった大企業の株が、当時ではどのくらい株価が高かったのか、いかほど会社の調子がよかったか容易に想像できる。

奇しくもこのゲーム発売当時、ファミコン通信(ファミ通のことではない)がごく一部のFCユーザーで流行りだしており、 設備も専用の通信アダプタを使い電話回線を介してオンラインをするという、初期のインターネットに先駆けて実施されていた。

さらに内容は、株式必勝学同様FCで株の売買をするのだが、唯一違う点はそれが現実に行うことができることである。 野村證券の『ファミコントレード』がそれであり、他の証券会社でも同様の構想を練っていた。 もっともパソコンでも、既にパソコン通信が行われていたので、ごく一部とはいえネットワークの基礎が築かれていったことは間違いない。

さてゲームの内容だが、ゲーム内で株や不動産を売買していくのだが、ただ単にそれをこなすだけではなく、それを利用して大金持ちにならなければならない。 しかも、2年の間に100万円を元手に、最大1億まで稼がなくてはならない。

今でこそ、ジャンボ宝くじやサッカーくじのBIGなどで稼ぐことは可能だろうが、よほどの運がなければ一億を手にすることなど不可能。 このゲームでは、資産を売買して持金を増やすのだが、これも現実的に考えればきわめて難しいことで、たった2年で100万円からではなおさら馬鹿げている。

おまけに、現実の証券取引所同様、リアルタイムで株の値が変動するのだが、取引や銀行の融資などを受ける間でも時間が進んでいく。 このゲームにおける、1日の時間は数分程度で、のんびりやっていればどの銘柄が注目を浴びるのか見逃すことが多いため、 常に目を凝らして株の動向をチェックするといった、現実差ながらの駆け引きを味わえる。


ちなみに、この世界での株の取引時間は午前9時から午後3時までで、そのうちの午前11時から午後1時までは昼休みのため一時取引停止となっており、これも現実と同じとなっている。 ただし、取引自体は1回しか行えず、ある銘柄を購入した場合他の株を売ることはできないし、購入単位は会社によってまちまちなので、現実のように再現されていない箇所がある。

ゲームを始めようにも、株のことなど全く知らない子供達が、いきなり百万から1億を手にすることなどほぼ不可能。 そこで、プレイヤーと同じく株を購入する人達や証券取引所の関係者、業界紙や日経新聞、果ては『まつもととおるなる(以下松本亨)』人物に、金儲けのヒントを得ることになる。 一部、金がかかるものがあるが、大金持ちになれるのならその出費は安いものだ、その情報が正しければだが。

その松本亨とは、一体いかなる人物なのか当時の子供達には大いに疑問がわいた。 『信長の野望』然り『たけしの挑戦状』然り、この時期までに登場したゲームタイトルを冠した有名人は、子供達でも知っているほどだったが、松本亨は子供達の間ではマイナーな存在だった。

松本氏は、日本を代表する経済評論家の1人で、主に株関連の本を多数出版し、経済新聞にも多数の投書を出し、日本投資新聞社の社長も務めた。 松本氏は、1997年に死去したが、この時期は平成不況の真っ只中だったため、松本氏にとってさぞ無念の死だったことだろう。

話を戻すが、ゲームも中盤に差し掛かり、だいぶ株の売買で金を稼げたかはずだが、続いて目指すのは土地や物件といった、不動産を使っての土地転がし。 株と同じく、安い不動産を買って高く売れる不動産屋に売り渡すという繰り返しで進むわけだが、違いはそれにかかる費用が株購入より高いということ。

高い株を多く買っても同じように見えるが、不動産の価値の乱高下が株価より激しいため、2千万円ほどで購入した土地が、翌週には一気に一千数百万程度に値下がりしたり、 あるいはその逆になったりなど、まさにハイリスクハイリターンを思わせている。 これも、現在ではとてもありえない話だが、バブル期は不動産の価値が一日で数百万円ほどに値上がりしたこともあり、このゲームはそれにあやかる地上げ屋を、生々しく体験できる。


早い話、株や不動産の値をじっくり見れば、多少なりとも金を稼ぐことはできるが、そう簡単に1億を達成させてくれない。 まずプレイヤーのステータスに、『HP(体力)』と『LP(生命力)』の2つが存在するが、株や不動産の売買によって減少し、どれか1つでも0になればゲームオーバーになる。

これを回復させるには、レジャーやスポーツなどをすることによってできるのだが、注目株の動向を知りたいのに、HPやLPが少ないためにしぶしぶレジャーに行かざるを得ず、 戻ってきたときにはその出費によって注目株が買えなかったり、株自体の注目度がなくなってしまったなどといったジレンマを抱えることになった。

もう1つは、画面下の『!』マークにおけるハプニングサインの存在。一言で言えばイベントのことで、日付が変わる時に点滅することがある。 その内容は、給料発生といった定期イベントから、病院にいくといった突発イベントまで千差万別。 その突発イベントが問題で、主に出費関連のイベントが多く、イベントを終わらせないと資産を売買できないので、ハプニングサインが光りだす時に「またか…」とため息つく人はいただろう。


その中でも有名なのが泥棒イベントで、現在所持している現金全額盗まれるというもの。 特に、資産を高値で売ったおかげで、1億達成まであと少しというあたりにこのイベントが発生してしまい、また初めからやり直しというケースに陥ったことも珍しくなかった。

このため、一般の泥棒のイメージに殺意を抱いたばかりか、本気でテレビを叩き壊そうと考えた人も少なからずいたはずだ。 その他の出費イベントも、泥棒に比べれば少ないほうだが、それでもプレイヤーの頭痛の種であることに変わりはなく、 HPとLP回復に使う食事代が4万だったり、オーディオ買うのに60万もかかったりするが、バブル期の物価は景気によるインフレにより高かった。 もっとも、一部誇張している物もあるが、バブル期らしいインフレ額ではある。

さらにもう1つ、ゲーム途中に発生する結婚も、落とし穴の1つとなっている。結婚中にゲームを進んでいると、突然妻から離婚を宣告されることがある。 妻のおねだりを無視したり、家族とレジャーやスポーツに付き合わなかったり、要するに金儲けに走りすぎると、手痛いしっぺ返しを食らうことになるという、 現実の家庭崩壊につながる典型的な一例であり、これもゲームとはいえ生々しいものである。


極めつけは、過剰な土地転がしはご法度ということ。 一般のプレイヤーは、株である程度儲けた後に定期預金で金を預けてから、銀行で金を借りて不動産に手を出すわけだが、 このゲームに慣れてくるとゲーム開始直後に元手全額預けてから銀行に借り、定期を解約してから借りた金とあわせて預け、 そしてまた銀行で借りるという手口を繰り返し、不動産を買えるまでに貯まったらお目当てのものを買って、 それをすぐにとてつもない値段で売りつけて、その金で借金を返済するというやり口をやっていた。

つまり、最初に大金持ちになれば後は何もしなくてもいいということだが、これが思わぬ落とし穴で、 当然エンディングだと思っていたプレイヤーを待っていたのは、松本氏に見捨てられるという形でのゲームオーバーであった。

これはどういうことかというと、このゲームのエンディングを見る条件は、持ち金を1億に増やすと同時にレベルを25までに上げることの2つなのだが、 ステータスにあるレベルというのは株の売買によって上がっていくもので、地上げ屋的なやり口ではレベルは上がらないのだ。


事実、平成不況の原因の1つに地上げ屋の存在があり、地価暴落により地上げ屋は破綻、同時に地上げ屋が銀行から借りていた金も返済不能になり、 そのままそっくり不良債権となって銀行に重くのしかかり、中には倒産した銀行もあった。 地上げ屋風の稼ぎ方がダメなのは、松本氏がいずれ地上げ屋が不況のきっかけを作ることになると予想したものだと考えられる。

結局、株の売買で地道に1億を目指さなければならず、先の裏技で痛い目を見たプレイヤーや株の世界がわからない人達から、クソゲー呼ばわりされることになった。 だが、一度株による儲け方がわかれば中毒に等しいほどにはまり、現実の証券取引所よろしく「売り!売り!」と叫び、そんな子供の将来を案じる親もあったことだろう。 また、難しい株の世界を面白みのある絵でわかりやすくさせ、序盤で元手を増やせる裏技と相まって、この時代の経済の勉強にも少しは役立った。

もっとも、好評を得たのは一部のカルト的なプレイヤーだったが、この少数の人気を受けながら、翌年に続編が発売される。 やはりこの時期も、バブル時代の真っ盛りで、資産の売買における阿鼻叫喚の地獄絵が拡大していくのだが、この時点で続編を語るのはまだ早いので、次回に持ち越したい。


私は、このゲームの存在を発売から3年ほどで知ったが、購入するまでにはいたらなかった。 理由は簡単、株の世界や知識が全然わからなったためで、バブル期の地上げ屋に関する知識も全くなかった。

大学生になって、既に株の知識はある程度身についたが、それでも現実同様に儲からないと思い込み買わなかった。 在学中に、アメリカで同時多発テロが発生し、直後に起こった世界株価の同時安によって、それがさらにこのゲームのプレイ意欲を失わせた。

結局プレイしたのは、ゲームレビューを書いている現在で、サッカーくじのBIGに影響されて購入することになった。 つまり、一気に一攫千金を得られるという夢と、どんな手段でもたちまち大金持ちになれるというバブル時代という遺産が合致した結果だと思う。 プレイ前にも、ある程度このゲームに関する情報を仕入れていたので、株の動向を見れば簡単に1億を突破できるかと思っていた。

だが、現実はそう甘くはなく、刻々と変化する株の動きについてこれず、いきなり大損する羽目に陥った。 何とか、株で儲けるコツをつかんでも、なかなかに自分の思うような値になれず、 気付かぬうちにHPやLPが0になってゲームオーバーになることもザラではなく、クソゲー認定にしようとまで考えていた。


しかし、このゲームの攻略をネットで調べていたら、バブル時代の地上げ屋のやり方をゲームで再現できる方法がとあるサイトに載ってあり、 逸る気持ちを抑え早速実行してみることにした。すると、一気に数億円を軽々稼げるところを見て、わかっていたとはいえ簡単に大金持ちになれた時は正直驚いた。

同時に、これが地上げ屋が栄えていた事実を垣間見ることになった。 もちろん、株ではなく不動産で稼いだので、2年後にゲームオーバーになってしまったことも、参考にしたサイトに載っていたので、わかっていたとはいえこれは非常に残念だった。

裏技を使用しての評価だが、このゲームは株で儲けるというより地上げ屋になりきって、様々なレジャーやスポーツなどの娯楽を楽しむためなのかと考えている。 したがって、土地転がしを散々やった挙句に松本氏に見捨てられる様は、後の平成不況に警鐘を鳴らすもので、恐ろしいまでの現実を突きつけられた感があり、 箱説明書なしで800円ほどで購入したソフトが、プレイしてみるとやけに重く感じるようになった。

なお、やたらと文章が多めになっているが、これはこのゲームのレビューを書く前の段階で、当時の経済関連を調べたことによる。 今まで知らなかった、地上げ屋の存在や株の深い世界、家庭と金儲けの両立の難しさなどが、バブル時の様々な経済情報を仕入れてきたおかげで、何となしにわかるようになった。 いずれ、続編もプレイしてレビューも書きたいが、続編はさらにバブルの狂乱度が増しているらしい…。



本日のまとめ



カイ! カイ!

(07/5/24レビュー)
伝説のスターブロブ2への掲載:2019年5月13日
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