◆闘人魔境伝 ヘラクレスの栄光◆
データイースト初のRPG



発売日:1987年6月12日   発売元:データイースト   ジャンル:RPG
値段:5300円   おすすめ度:2(こんな荒い作品でも人気があった時代)


古代ギリシアでは、世界を作った神々と、人間や動物達が共存していた。 その世界は、地上に降り立った一部の神々と、人間達により成り立っており、人々は一日の暮らしを神々に感謝した。

神々もまた、人間達の信仰に報いるべく、世界の発展のために、様々な助言などを施した。 この、人間達と神々による、持ちつ持たれつの世界はすこぶる平和であり、この平和は永遠に続くかに見えた。

だが、冥府をつかさどる神、ハデスによる地上支配の野望が、少しずつ人間の暮らしを脅かし始めた。 ハデスの差し向ける魔物が、地上支配の手始めとして、地上を荒らし始めたのだ。

海は、海の魔物により大荒れになり、大地は陸の魔物により、農作物が食い荒らされていった。 その結果、人々の生活を支えてきた八百屋と魚屋は次々と潰れてしまい、ギリシアにある町や村でそれらが残っているのは、ギリシア一を誇る大都市アテネだけだった。 さらにハデスは、ガイアの町を滅亡させた挙句、美の女神ビーナスをも連れ去った。

これを知った、オリンポス十二神の王であり、ハデスの弟であるゼウスは、英雄として人々から目された、我が子ヘラクレスに兄ハデスの打倒と、女神ビーナスの奪回を命じる。 また、ハデスの仕向けた魔物によって荒らされた、地上の復興の手助けも命じられた。 かくて、ゼウスの子ヘラクレスは地上に降り立ち、ハデスの魔物と闘いながら、ビーナスの奪回と地上の平和のため、その命をささげるのだった。


1987年1月16日に発売された、ドラゴンクエストUの影響は、瞬く間に日本列島を熱狂の渦に巻き込んだ。 アクション系やシューティング系といった、主に指を動かすゲームと違って、頭を使うことを前提としたRPGは、 指を動かすゲームが苦手な人はもちろん、その手のゲームが得意な人も、次第にRPGの魅力にとりつかれた。

同じ頃、ドラクエUのすさまじい人気を目の当たりにしたゲームメーカーは、RPGがユーザーの人気を得ると考えたのは言うまでもなかった。 そして、ドラクエを参考にしながらも、会社独自の要素を盛り込んだ、様々なRPGが誕生した。

『女神転生』や『ファイナルファンタジー』などといったゲームがそれであり、ドラクエUに端を発したこの年は、RPGブームとまで言われるようになった。 反比例的に、今までユーザーの支持を得ていたアクション系やシューティング系は、徐々に人気を失っていった。

そんな中、あらか様にドラクエの二番煎じとも呼ぶべきゲームが登場した。 その名は、データイーストの『闘人魔境伝 ヘラクレスの栄光』。


昔のゲーム雑誌の読者の印象といえば、発売前と発売後におけるゲーム画面やシステム等の急激な変更だろう。 なんといっても、開発段階でのゲーム画面は、ドラクエTとほぼそっくりに作られていたのだ。

戦闘画面はもちろんのこと、フィールド画面までほぼドラクエTに似せてあった。 かろうじて、店に入るときに主人の顔が出るところが、ドラクエと似て非なるものになった。

だが、製品版の内容は、開発版のそれと大幅に異なるものだった。 開発版の画像を見続けたユーザーは、購入した製品版の画像を見て、2つの画像のギャップに驚いただろう。 おそらく、ドラクエTと画面構成があまりにも似すぎたために、(エニックスからの抗議を恐れてか)変更を余儀なくされたと思われる。

同時に、メッセージの改変や、開発版のみにあった要素(防具を複数所持)が削除された。 数度に渡って発表された、発売延期の報が、それを物語っている。


ドラクエのそっくりさんと評された、ヘラクレスの栄光は、数度にわたる発売延期の中で、ゲーム独自の要素を追加していった。 まず、町とフィールドの一体化が挙げられる。 つまり、一般のRPGのように、フィールドに点在する町のマークに入ると、画面が町の画面に切り替わるのではなく、フィールドの中に町の画面が存在しているのである。

もっとも、町は外壁で囲まれており、町から出ることで敵と遭遇(エンカウントが発生する)する仕組みとなっている。 ちなみに、町と町との間は、ご丁寧にも舗装された道路が敷いてあるし、その道中には通行人がいて、もちろん話すこともできる。

もう1つは、武器や防具の耐久力の設定。普通のRPGでは、武器や防具を装備したら、それを外すまで一生使い続けることができる。 しかしこのゲームは、それぞれの武具に耐久力が設定してあり、耐久力が0になると壊れてしまう(なくなってしまう)。

これを防ぐには、アテネの町にいるヘスパイトスという鍛冶屋に頼んで、耐久力を回復させる(もちろん料金は払う)。 強い武器でも、使い続ければいつかは壊れるというリアリティを、このゲームは他より先んじて導入したことは、 後のゲームに大きな影響を与えた(『ファイアーエンブレム』シリーズや『Sa・Ga』シリーズがその代表)。

同時に、武器の片手持ちと両手持ちの存在も、高評価を受けた。 片手持ちは、攻撃力が低い分盾を装備できるため、受けるダメージは少ない。 一方両手持ちは、攻撃力が高い代わりに盾を装備できないので、受けるダメージも大きい。

ただし、武器自体は3つまで道具とは別に持ち歩くことができるので、状況に合わせて装備を選ぶことができるのである。 もっとも、防具をしっかり装備できれば、レベルが低いといったよほどのことがない限り、ダメージを最小限に抑えられる。


その状況は、ヘラクレスのHPが主だが、敵の属性もその状況の1つといえる。 例えば、海にいる敵に対しては、剣よりも矛で攻撃すると、より大きなダメージを出すことができるなど、攻撃だけが敵を倒すことではないことを表している。 これもまた、後のRPGに大きな影響を与えたことは事実で、特にFFシリーズが主である。

これ以外にも、一度行った町へ一瞬で行けるアイテムも、他のRPGよりも先んじて登場した(ドラクエUにあるキメラの翼は、最後に復活の呪文を聞いた場所でしか戻れなかった)。 RPGに付き物のウィンドウは、会話ウィンドウと共に画面下半分全て使用しているなど、ドラクエに似せた開発版とは大きく異なっており、数度の発売延期の中で、 ドラクエに似せぬ画面構成などの修正が、スタッフの苦労を偲ばせているではないだろうか。

また、主人公がしゃべることもポイントが高いといえるだろう。 とはいえ、「かくごしろ!」とか「しぶといやつめ!」と言うところは、台詞の回りくどさでも有名なこのゲームの特徴と言うべきか。

台詞の回りくどさといえば、ヘラクレスが死んだメッセージもかなり回りくどい。 『○○は しんでしまった!』とだけ出せばいいのに、『おびただしい りゅうけつ!〜えいえんの ねむりに ついた』といった回りくどい説明が入るのは、やはりRPG黎明期なのだろうか。


しかし、データイースト初のRPGゆえか、様々な欠点も出たことも事実。 ヘラクレスが、横向き後ろ向きができて、武器防具の装備で服装の変化が出るのに、なぜか一般キャラは前向きのみでかに歩きしかしないということ。

キャラを配置する町も、入れる建物とそうでない建物がごっちゃ混ぜになっており、どこが入れる建物なのか混乱するプレイヤーが続出した。 その入れる建物は、ピンク色は武器屋や道具屋だが、黄土色の建物は一般RPGのダンジョンと区別がつかないものとなっている。

ストーリーの背景も、問題が目立った。このゲームは、ギリシア神話を基にしているものの、人々の会話にはどこかしら現代的な節が見受けられる。 それをよく表しているのが、アテネにある八百屋と魚屋の存在。

店に入るや、「へーい!らっしゃーい」と、明らかに場違いな台詞である。もちろん、古代ギリシアには、それに近い店があったのだろうが。

魔物については、ほとんどが神話に全く関係のないものばかりである。 神々のほうも、本当に神なのかと疑わしい部分もある。

特に軍神と呼ばれたアテナは、「あーら ヘラちゃん(ヘラクレスのあだ名)」と言う始末である。 しかも、バーの女将さんをやっており、ますますギリシア神話の世界観を壊しているといえる。


アイテムのほうも問題があり、一度行った町に戻れる旅の翼は、人と話す際に町の名前を聞いておかなければならないことと、一度使うとHPが4減るといったマイナスがあった。 アイテムも、中途半端に重要なものがいくつもあり、どれを捨てなければならないのか、処遇に困るものが多かった。 中には、船までも道具欄に納まっており、プレイヤーに「?」を思わせる内容が目立った。

このゲームのポイントである、武具の耐久についても、修理状況や回数などによっては、購入費が修理費より安いという珍現象がみられ、 5000Gでヘスパイトスを雇うと、戦闘で減った耐久力を、戦闘終了後に自動的に全回復できるので、完全に意味を体さないものとなってしまった。 もっとも、雇うと道具欄に入るので(「かじや」と表記される)、道具欄を取るか耐久力を取るか、プレイヤーはその判断を迫られた。

ストーリーの進行については、キャラクターと会話しないと発生しないイベントフラグが多く、それをすっ飛ばした挙句冒険に行き詰って、プレイを放棄した人もいた。 会話のほうも、的を得ているものが乏しく、これもプレイ放棄の要因の1つともなった。

主人公のヘラクレスも問題がありすぎで、敵が魔法を使えるのに対し、こちらはそれができずただただ攻撃だけであった。 当然、回復の手段は道具のみで、それも魚や野菜は一桁しか回復できず(生で食うためなのか)、もっぱら薬か宿屋に頼るしかなかった。

ドラクエUのローレシアの王子も、魔法は使えなかったものの、パーティ制の導入でそれ程問題はなかった(魔法を使えるキャラが2人いたため)。 だがヘラクレスは、終始1人旅なので、その問題が即座に湧き出た。

脇役やパーティ制導入ならともかく、主役でそれも1人旅では、プレイヤーの不満が出るのも当然といえるだろう。 幸いなことに、全ての宿屋の料金は一律20Gと良心的だった。


これらの欠点が噴出したゲームは、現代の場合間違いなくクソゲーの部類に入るが、当時はそれなりにヒットした。 その理由はただ1つ、ヘラクレスが発売された当時はRPGブームだったのだ。 ドラクエUの大ヒットは、RPGブームのきっかけになったが、V発売までの間は1年と長く、プレイヤーはVが発売されるまで、他のRPGをプレイするしかなかった。

このRPG飢餓の中で、各ゲームメーカーはできるだけ早く、プレイヤーの飢えを満たそうと躍起になった。 そして、ヘラクレスの栄光がドラクエUの2番手として登場した。

もっとも、『ディープダンジョンU』が先に発売されていたのだが、ディスクゲームだったことと3Dダンジョンだったために注目度は低く、 結果的にカートリッジで2Dマップのヘラクレスが、RPGブームの2番手として登場することができた。

ヘラクレスのヒットは、Wまで生み出すシリーズの原型となったが、あまりの荒削りなTはSFC世代(Vからプレイ)にとって、クソゲー呼ばわりされることとなった。


私がこのゲームの存在を知ったのは、発売当時のファミマガによる。 ただし画像は、発売前の開発バージョンではなく、製品版だったのだが(ウル技を読んだことを覚えている)。

そのときの私の印象は、ちょっと面白そうで、絵も結構きれいと思った。 当時の私は、一昔前のアクションやシューティングをプレイしていて、絵もどこかしら汚かった。

だから、ヘラクレスの画像を見たとき、私がプレイしているゲームより絵がきれいで、同時にちょっとプレイしてみたいと思ったのだ。 しかし、金銭の管理は親に任されていたので(私が子供だったので)、結局プレイする機会はなく、そのまま20年近くが過ぎた。

そして現在、暇つぶしという形で近くのゲームショップで購入(箱・説明書なしで500円)。 昔プレイできなかった悔しさを晴らすべく、早速ゲームをプレイした。

だが、スタートを押すと突然アテネの町に放り出された時、思わず唖然となった。 それに加えて、古代ギリシアにおいて場違いな八百屋と魚屋の存在、アテナ神の性格の豹変など、別の衝撃を通り越して苦笑してしまった。


私は、ヘラクレスの栄光シリーズ自体、数年前にプレイしたことがある。 ただしそれは、SFC(VとW)でのことであって、それ以前のシリーズは全くプレイしていなかった。

SFC版の思い出が残ってた私は、SFCのように近いシステムに期待して、肩透かしを食らってしまったといえるのかもしれない。 攻略サイトがなければ、間違いなくプレイを放り出していたかもしれない、そんな考えが頭の中を駆け巡った。

そんなゲームを、当時のプレイヤーたちは我慢して受け入れた、その精神を私はほめたい。 システムが便利になった時代に、私はRPGの素晴らしさにようやく目覚めたほどの人間なので、 昔のRPGが不便だと思うのは仕方ないとはいえ、この時期にRPG好きになっていればと後悔の念が消えない。

いずれ、続編もプレイしようと思っているが、続編はドラクエそのままのような作品らしいとのことなので、Tほどは楽にプレイできるのかもしれない。



本日のまとめ



へーい! らっしゃーい とりたての やさいの おおやすうりだよ

(07/3/10レビュー)
伝説のスターブロブ2への掲載:2019年4月30日
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