◆ファミコンジャンプ 英雄列伝◆
ジャンプ黄金時代の黒歴史



発売日:1989年2月15日   発売元:バンダイ   ジャンル:RPG
値段:6500円   おすすめ度:1.5(これがミリオンセラー…)


君は、週刊少年ジャンプの読者の1人であり、毎日ジャンプを読んでいた。 雨の日も風の日も、雪の日も嵐の日も、悲しいときもうれしいときも、君はジャンプを手放すことはしなかった。 例え、親から注意をされても、ジャンプを読むことをやめるなどはしなかった。

そんなある夜のこと、いつものようにジャンプを読んでいると、突然ジャンプから光が発生し、君は光と共にジャンプの中に吸い込まれていった。 気がついた君の光景にあるのは、荒野とそこに立っているワニ男だけ。

彼は、ジャンプのマスコット・キャプテンギャオと名乗り、ここがジャンプワールドと告げられる。 さらにギャオは、ジャンプワールドがピッコロ大魔王をはじめとした、数々の悪役にのっとられようとしていることも告げた。 そこでギャオは、君にジャンプワールドに散らばっている16人の仲間を集めて一緒に戦ってほしいと頼んだ。

最初は、戦うことに不安がる君だったが、ギャオの「君の持ってる、勇気とジャンプの愛ならやり遂げられる。」との言葉に動かされる。 そして、ギャオからロケットパンチとドラゴンレーダーを受け取った君は、ジャンプワールドを救うために16人の仲間を探す冒険の旅に出た。

その後、冒険の旅に出た君は、16人の仲間を見つけるためジャンプワールドをくまなく回り、ようやく全員仲間にした君は、激闘の末ピッコロ大魔王を倒すことができた。 だが、ジャンプワールドに平和が戻ったとはいえず、ピッコロ大魔王より強力な13人の悪人達が、君達に挑戦してきたのだ。

君は、13人が結集した軍団、その名も『13人の反逆同盟』と戦うべく、仲間達と最後の戦いを挑むのだった…。


1969年に創刊した週刊少年ジャンプが、創刊20周年に当たる1989年にあわせて制作された記念碑的作品。 発売日が1989年2月15日なのに、タイトル画面に『1988』と表記されているのは、1988年に20周年企画が始まったことに由来しているため。

この頃のジャンプは、1980年代初めから続いている黄金時代により、週刊漫画雑誌の売り上げが他の週刊漫画雑誌より多く、年間1位も当たり前だった。 黄金時代のジャンプは、人気漫画の連載が終わっても別の漫画が人気を上げて、さらにその漫画の連載が終わっても…というように、 多くのジャンプ漫画とそれを描く漫画家によって、黄金時代を支えてきたのである。

しかも、ファミコンジャンプが発売した年とその前年は、黄金時代の真っ只中にあり、作品の人気や質も安定していた。 だからこそ、20周年記念はもっと盛大に、かつ読者の記憶に残る内容を考えたのだろう。

そこに導き出された結果が、ジャンプのゲーム化であった。 折りしも、この時期のハード業界はFCがトップを独走しており、ジャンプのゲームをFCで出せば人気が出るのではないかと踏んだと思われる。


そのゲーム発売元をバンダイにした理由は、ジャンプ漫画の大部分が映像化(アニメ化・実写化)され、 その制作元のほとんどが東映系(東映本社・東映動画)であり、東映はバンダイとの結びつきが非常に強かったためではないだろうか。

さらに、バンダイは様々なキャラゲーを量産しており、良くも悪くもキャラゲーメーカーのトップ地位を確立していた。 つまり、ジャンプとバンダイが手を結ぶのは、必然的だったのかもしれない。

ともあれジャンプは、創刊から1988年までの間に連載されていた漫画の中から、人気のある作品をチョイスした。 その結果、32の作品が選ばれ、その中で選ばれたキャラは総勢100人。

その32の作品と100人のキャラを、どういう風にして1つのゲームにまとめるか。 そんな問題を、バンダイはあっさりと克服し、『ファミコンジャンプ 英雄列伝』という形となる。


ゲームの舞台となっているジャンプワールドは、5つのエリアに分かれており、さらに現在と過去の2つの時代がある。 プレイヤーは、5つのエリアを回りつつ2つの時代を行き来しながら、共に戦う16人の仲間を集め、 ピッコロ大魔王といった悪役達を倒し、ジャンプワールドに平和をもたらさなければならない。

ちなみに、この世界は雑誌が作り出した世界なのか、平面世界風となっている。 つまり、地球や一般のRPGと違って世界を1周することができず、世界の端に移動すると世界の果てということで押し戻されてしまうのである。

仲間にしたキャラは、仲間にしたエリアでしか活躍できず、別のエリアに移動すると別れることになる(もう1度そのエリアに戻ると、再び行動を共にする)。 仲間にしたキャラは、プレイヤー同様に操作でき(そのキャラを先頭にする)、場合によってはそのキャラでなければ攻略できないこともある。

ただし、仲間になるといってもそう簡単に仲間になるわけではなく、様々なミニゲームやお使いをこなして、ようやく仲間にすることができるものである。 特にミニゲームは、バリエーションがあまりにも豊富で、アクションやシューティング、レースやPKサッカー、さらにもぐら叩き風のミニゲームも存在した。

プレイヤーの能力値は、ハート型の生命と敵を倒すごとに徐々に増えていく努力値(他のキャラではその名称が変わっている)、善と悪の心の3つ。 このうちの努力値は、経験値と同じ役割を果たし、十字架のマークで表される。 多ければ多いほど、敵に与えるダメージが増し、敵から受けるダメージも減る。

その戦闘は、アクションRPGと同じシステムだが、フィールドと町にランダムで現れる敵に接触することにより戦いが行われる。 プレイヤーの武器は、遠距離用のロケットパンチと近距離用のパンチ。 仲間も似たようなもので、遠距離攻撃の名称や形がプレイヤーと違っているだけである。

敵のほとんども、遠距離攻撃をするが、その弾はロケットパンチで相殺できる。 フィールド上に出ている敵は、見た目的に1人だが、2人現れることが多い。


RPGというジャンルなので、ジャンプ関連のアイテムも数多く登場した。 死んだ仲間を生き返らせるドラゴンボール(原作と同じ。使ったらもう1度7つ集めなければならないし、 1人しか生き返らない)や、過去と未来を行き来できるタイムくん、変り種として少年ジャンプそのものも登場した。

効果としては、善の心を1つ上昇しロケットパンチの飛距離を伸ばすものだが、当時としてはその使い道がわからなかった上に、 主人公の善悪の心のシステムもわからなかった人もいた。

イベントアイテムも豊富で、魂のバットやドリームノートといった、作品ならではのものばかり。 その中の1部は、特定の人物を仲間にしたり、仲間のステータスを上昇させるものがあり、ジャンプのヒーローを仲間にし、 そのヒーローが強くなっていく様は、一緒に戦っているんだというジャンプ読者の心をひきつけた。

そして、別の作品の主人公同士が手を握り数々の宿敵を倒す、このシチュエーションも燃えるものがあり、 原作の再現もまたかつて読んでいた漫画を見た衝撃と感動を、読者にもたらした。


しかし、豪華な登場作品と100人もののキャラクターとは裏腹に、ゲームそのものに対する評価は芳しくなかった。 その理由は、大まかに分けて4つで、まずフィールドの移動だが、平地以外のところでは歩く速度が極端に遅くなってしまう。

これは、コンビニで売ってるミニカー(同じコンビニで売ってる電池で動く)で解決できるが、中盤で手に入る筋斗雲により活躍が失われる。 筋斗雲にしても、高い山を越えることができず、そもそも敵をよけていればフィールドの移動の遅さも気にならなくなってしまう。

2つ目は、敵の遭遇について、フィールドや町にも敵が現れるのは前にも書いたが、 その敵の中には一般の住民と同じ扱いのキャラもおり、しかもランダムで現れるので、どれが本当の敵なのか混乱するプレイヤーもいた。 もちろん、ボスキャラや一般住民専門のキャラもいたが、それ以上に敵が圧倒的に多かった。

3つ目は、ミニゲームの豊富な量。原作漫画の再現をゲームに反映させるため、普通のRPGでは効果が薄かった。 そのために、ミニゲームを用意させて数も膨大になったが、それがためにジャンルとしてのRPGの意義を薄める結果となった。 しかもその中には、高難易度のものもあれば必ず負けなければならない理不尽なものまである。


4つ目は、最終エリアのキングキャッスルにおける、13人の反逆同盟との戦い。 今までの戦闘が、アクション主体であったのに対して、こちらはコマンド型となっており、 最後の最後でこのゲームのジャンルがRPGだということに気づいたプレイヤーが数多くいた。

これもまた、ミニゲームに劣らず理不尽なものになっており、16人の仲間から戦う相手を選べるとはいえ、 そのキャラの相性に有利不利があったり、キャラによっては戦うことすらできない。

しかも、途中でやられたりキングキャッスルから出ると、再び1人目から戦わなければならない。 さらに、敵味方共に理不尽な攻撃(一撃で倒せたり攻撃を跳ね返すなど)があったりと、コマンド型というよりジャンケンの要素が濃いといったほうがいい。 相性にしても、その戦うキャラが弱いとその効果がない上に、必殺技も努力値が足りないと使えないので、これも理不尽な要素となった。


このゲームの前評判は、ジャンプの人気や宣伝などの効果もあってすこぶる高く、売り上げも相当数に上った。 だが、先に書いたこのゲームの欠点が次々と露呈されると、数週間後にはゲームショップのワゴンセールで投売りされている光景が見られた。

当時では珍しく、本屋やコンビニでもファミコンジャンプの販売が行われていたが、結果的にそれがワゴンセール入りを加速化したといえる。 『努力・友情・勝利』を謳ったジャンプだったが、このゲームでは逆に『絶望・裏切り・敗北』を謳う羽目になってしまった。

この出来事に対する、ジャンプへの影響はあまり低下せずに、そのまま90年代前半まで黄金時代を続けたが、ジャンプ内の人気コーナー『ファミコン神拳100番』は別だった。 ファミコン神拳は、数々のゲームをコーナーなりにレビューしており、読者に影響を与えた。

しかし、PCエンジン関連ソフトや『ファイナルファンタジーU』などを露骨に酷評する一方、ジャンプ関連のゲームについては、 内容が悪いのにもかかわらず甘めに評価していたので、次第にコーナーのレビューに対する信頼性が疑われていった。

そして、ファミコンジャンプに対する大甘な評価をしたことで、遂に馬脚を現した。

このゲームを購入した読者の怒りと批判は、当然ファミコン神拳に向けられることになり、この出来事を機にファミコン神拳は打ち切り、 新たに『芸魔団』としてリニューアルするも、ファミコン神拳のような影響力を持ち合わせておらず、 逆に『ファミコン通信』や『ファミマガ』といったゲーム雑誌の質が向上し、ゲーム情報を求めるユーザーのほとんどはそちらに向かっていった。

ともあれ、このゲームの粗造りな内容が目立つ一方、32作品と100人のキャラを1つにまとめ上げ、 かつゲームなりの解釈をやり遂げたことについては、ユーザーからも一定の評価をしている。

このゲームを手がけたのは、バンダイの橋本名人。 高橋名人、毛利名人に続く第3の名人として名を上げていたが、一体何の名人なのかわからなかった人も多かった。

この橋本名人、主人公となった『ポケットザウルス 十王剣の謎』の他に、様々なゲームプロデューサーや総指揮者といった重要ホストに就き、スクウェア移籍後も著名ゲームの重役に就いた。 つまり、高橋名人がSTGの連射の名人、毛利名人が指を動かすゲームのテクニックの名人とするならば、橋本名人はゲーム制作の名人と呼ぶべきではないだろうか。


私は、このゲーム発売当時は、コロコロコミック読者の1人で、ジャンプはまばらに読む程度だった。 もちろん、『ドラゴンボール』といった漫画は毎週欠かさず見ていたが(立ち読みで)、それ以外の漫画は見ていなかった。

だから、ファミコンジャンプの大規模な宣伝に対しても、全く影響受けなかった。 それがあって、発売当時に定価で買うようなことはしなかったが。

発売から10年以上経過し、私がまだ大学生活しているとき、私が住んでるアパートの近くのゲームショップで、 偶然このゲームを見かけたが、値段が600円ととても安かったが、個人的に興味がわかなかった。

結局、私がこのゲームをプレイしたのは、それからさらに数年後すなわち現在なのだが、 しばらくの間RPG関連をレビューしてみようということで、色々なRPGをプレイしている。

もちろん、ファミコンジャンプも例外ではなく、なんとなしにプレイしてみたが、私が思っていたRPGとはかなりかけ離れてて、 キングキャッスルでの13連戦におけるコマンドバトルも、普通のRPGというよりジャンケンではないかと思った。


ゲームシステムについても、敵と一般人の区別がわからなかったり、特定のプレイヤーを先頭にしなければ入れない建物があったり、 ミニゲームの難易度が妙に高かったりと、理不尽な要素が多すぎた。

それでも、このゲームが黒歴史にならなかったのは、このゲームが発売した年におけるFC業界の中では最も売り上げが多く、 100万本の大台に乗ったゲームはこの1本だけだったということかもしれない。

しかも、その2年後には続編の『ファミコンジャンプU』、さらにその12年後にはDSで『ジャンプアルティメットファイターズ』が発売され、 どれもかなりの人気を得ることを考えれば、黒歴史にしようにもそれができないのではないだろうか。

最後にプレイして気づいたのだが、様々な作品が登場しているのに、なぜか鳥山明作品関連が多いと思った。 これは、『Dr.スランプ』やドラゴンボールの人気がすさまじかったことに加えて、ドラクエシリーズの人気に伴い、 キャラデザインを手がけた鳥山先生の知名度が、急激に上昇したことによるものかもしれない。

ただ、鳥山作品のキャラやアイテムが多く登場しているのに、肝心のゲーム内容が粗かったことについて、 鳥山先生はどんな気持ちでこのゲームのことを考えていたのだろうか。



本日のまとめ



ここは もう せかいの はてだよ!

(07/2/17レビュー)
伝説のスターブロブ2への掲載:2019年4月24日
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