◆クインティ◆
仁義なき兄と妹の大抗争



発売日:1989年6月27日   発売元:ナムコ   ジャンル:PZG
値段:4900円   おすすめ度:3.5(意外とあっさりいける)


1989年、この時機のファミコン業界は、一時的な不況に見舞われていた。こうなってしまった理由は2つ。

1つは、FCのライバルの成長が著しかったこと。 この年に誕生したゲームボーイ、その前年に誕生したメガドライブ、さらにその前年に誕生したPCエンジンは、 最初はあまり地味な印象を受けたものの、サードパーティーの参入やハードの性能を最大限に生かしたおかげで、FCのライバルいやそれ以上の実力を持つようになった。

特にGBの成長はすさまじく、この年に発売された任天堂の『テトリス』と『スーパーマリオランド』は、 400万本以上の売り上げを記録し、1989年はGBの一人勝ちという印象を与えた。

2つは、ライバルハードが出すゲームソフトに対し、FC側はそれに対する有効な人気ソフトがなかった。 それでも、コナミの『悪魔城伝説』やカプコンの『WILLOW』、任天堂の『MOTHER』や バンダイの『ガチャポン戦士2 カプセル戦記』など、良作と呼べるゲームは結構あった。

しかし、『ドラゴンクエスト』や『ファイナルファンタジー』や『スーパーマリオブラザーズ』といった、 著名なシリーズがなかったために、この年に発売されたFCソフトは、わりかし地味な印象を受けてしまった。

この2つの理由は、ゲーム業界にとって避けて通れない壁なのだが、FCはこの年にぶち当たってしまったといえる。 この年のナムコはどうしていたかというと、FCはもちろんのこと、アーケードや色んなハードでゲームを作っていた。

そのFCだが、やはりサードパーティーのナムコも、大きな壁にぶち当たっていた。 『ワギャンランド』や『マッピーキッズ』、『ドラゴンスピリット 新たなる伝説』や『ファミスタ’90』といった良作を出す一方、 『マインドシーカー』や『デビルマン』といったクソゲーやつまらないゲームを出すといった、苦しい展開を強いられていた。

しかし、ナムコが有能な下請け業者に恵まれていたことは唯一の救いであり、これからレビューするゲーム『クインティ』もまた、下請け業者により開発されたゲームであった。


ゲームのルールは、画面内に出てくる敵をカーペットやじゅうたんのように、画面全体に敷き詰められたパネルをめくって敵を吹き飛ばした上、壁にぶつければ倒すことが出来る。 そういったやり方で敵を全滅させると、クリアとなる。

全100面あり、1エリアごとに10ステージが用意され、10ステージには必ずボスがいる。 ただし順番どおりではなく、最初の8つのステージだけは自由に選ぶことが出来る。 そして8つすべてのステージをクリアすると、順番どおりにステージを進むことになる。

一応敵の攻撃パターンは、体当たりだけなのだが行動パターンが豊富で、転ばせると2人に分裂したり、 ジャンプしながら移動したり、プレイヤーの動作を真似たりなど様々である。どっちにしろ、敵に触れると1ミスになる。

とりあえず敵を全滅させるとクリアになるのだが、それではあまりにも淡白すぎる。 これを防ぐために用意されたのが、アイテムパネルの類である。

主な種類としては、パネル全部をめくってアイテムパネルを出した上にたいていの敵を倒すことが出来るサンパネルや、 プレイヤーを弾き飛ばすことによって敵を倒せるアタックパネルなどある。

その中でもスターパネルは、登場頻度が高いために、いつもお世話になる。 1つ集めると、プレイヤーのスピードが1段階増し、100個集めるとプレイヤーの数が1つ増える。 また、エリア内にあるスターパネルの数が残り1枚になると、そのパネルが輝きだしそれを手に入れると、スター10個+一万点が手に入る。

ほとんどのプレイヤーは、間違いなくスター集めに躍起になるに違いない。しかし制限時間があるので、のんびりとスター集めをすることが出来ない。


制限時間が切れると、敵のスピードが速くなってくる上に、プレイヤーに迫ってくる。さらにステージが進むごとに、敵の行動パターンが複雑し、敵の種類も増えてくる。 その上、アイテムパネル以外のパネル、通称お邪魔パネルなるものもプレイヤーを悩ませる。

お邪魔パネルは3種類あり、めくれないロックパネルや敵が湧き出るエネミーパネル、敵に落書きされてめくれないイラストパネルがそれに該当する。 後先考えずに適当に行動すると、こういった三重苦に悩まされる。これをクリアするには、敵の自爆も戦略の1つといて考えたい。

敵の中には、パネルをめくる敵もいるので、敵が乗っかっているパネルを別の敵がめくると、当然敵も転倒&移動し、 場合によっては壁に激突して倒すことが出来る(その場合、転倒や倒したときの得点は手に入らない)。 そのためプレイヤーは、アイテムを優先するか、敵を倒すことに優先するか悩んだに違いない(特にステージ後半)。

それと2人プレイがあり、交互プレイと同時プレイの2種類が存在する。 前者はともかくとして後者は、一応協力プレイということにはなっているのだが、 最後の1枚のスターパネルを相手に奪われたり、不意にエネミーパネルを出したりと、相手の本性が見え隠れする。


ゲーム画面を見てみると、結構キャラがかわいくなっていて、CMもなかなかにコミカルなのだが、ストーリーがあまりにもすさまじい。 そのストーリーとは、プレイヤーのカートン少年が、ジェニーという恋人を手に入れてから、3人の兄と1人の妹と過ごした平和な家庭は崩壊。

3人の兄はジェニーを横取りしようと考え、妹のほうは「大好きな兄を取られてしまう」という勝手な思い込みから4人は一致団結し、ジェニーを連れ去ってしまう。 そこでカートンは、親友のパートンとともに、ジェニーの奪還と3人の兄と1人の妹を叩き潰すために立ち上がるというもの。

ストーリーの内容からして、完全に昼ドラの泥沼の関係を表したといえる。 しかもクインティの場合、たった1人の女の子をめぐって血みどろの争い(そこまではいかないが…)に発展する上に、兄や妹も殺意を持ってカートンを亡き者にしようとするのだから恐れ入る。

このどろどろのストーリーをコミカルなゲームに仕立て上げたのは、ナムコの下請け会社の1つである『ゲームフリーク』によるもの。 ゲームフリークは、クインティが初めてのゲーム作品である。その代表取締役が、後にポケットモンスターで巨万の富を手にした田尻智氏。

田尻氏は、クインティ発売の数年前、仲間と共にAC版『ゼビウス』の同人誌を制作していた。 そして第2弾の同人誌『ゼビウス一千万点の解法』は、同人誌としては珍しく一万部以上の売り上げを記録した(ただし田尻氏達は、オフセットだけ関わっていた)。

ゲームフリークの初期メンバーは、田尻氏とその仲間達で構成された。 それからまもなく、ゼビウス星のうわさを聞いた田尻氏は、色んなゲームセンターを回った。

しかしそれは逆にうわさを広める結果となり、このうわさを聞いたゼビウスの制作者遠藤雅伸氏は当然激怒。 制作者の発言により、事態は収束に向かったが、田尻氏はこれによりゲーマーとしての権威は失墜し、ゲーム仲間から仲間はずれにされてしまった。

この数ヶ月後、孤立した田尻氏を見かねた遠藤氏は、ゲーム仲間と共に田尻氏と仲直りを果たすことに成功。 このあたりは、本人の自叙伝である『パックランドでつかまえて』がくわしい。

田尻氏は、1989年にゲームフリークを設立、代表取締役に就任。ほどなくして、ナムコから『クインティ』を発売。 これは、ナムコとかかわりの深い遠藤氏と早く会えたことが、クインティをナムコに介して発売することが出来たのだろう。


私は、一番思い出に残ってるのはこのゲームのCMである。 カーペットをひっくり返されて、その上に乗ってた子供がすってんころりんとする様は、結構ほほえましいものがあった。

しかし今になってこのゲームをレビューする際(リクエストに漏れましたが…)、このゲームのことを調べていたら、このゲームのストーリーはかなりどろどろとしていた。 ほのぼのとしたゲームという第一認証を強く植えつけたCMはすごいが、泥沼のストーリーを元にコミカルなアクションパズル仕立てなゲームにしたゲームフリークには、ただただ脱帽するばかりである。

個人的な評価としては、まあまあ面白いのだが、スターパネルを集めることを考えると、エンディングまでに相当な時間がかかる。 それにプレイヤーの足がかなり遅い上に、アイテムパネルはちゃんと中央に乗らないと効果を発揮しないので、パネルに乗っただけで効果を発揮してほしかった。

それ以外では、ムーンパネルによるスターパネルの取り放題や、光るアタックパネルことスペシャルパネルを使ったボーナスステージなど、 楽しみは尽きなかった(ボーナスステージに行けばクリアしたも同然だし)。

ボス戦の場合、一応行動がパターン化してたので、動きを見切ればあっさりと倒すことが出来たのもいい。 もちろんラスボスではそうはいかなかったが、ほとんどのボスはあっさりと片付けた。

クインティって誰と思う人がいるかもしれないが、実はラスボスの名前で、さらにいえばカートンの実の妹である。 妹のクインティが、兄のカートンにジェニー誘拐の非を詫びないばかりか、実の兄を殺そうとする様は、いがみ合ってるというより殺しあってるといったほうがいい。 クインティを倒しても、結局謝らなかったのだから、もし続編が出た場合、また泥沼の戦いが繰り広げられるかと思う。

ともあれ、クインティはそこそこヒットし、2年後に任天堂で発売される『ヨッシーのたまご』に受け継がれている。 ヨッシーのたまごの大ヒットにより、ゲームフリークは任天堂にも友好関係を築くのだが、それはまたのお話で…。



本日のまとめ



兄貴、討ち取ったりぃ〜!

(06/5/15レビュー)
伝説のスターブロブ2への掲載:2019年4月18日
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