◆ポートピア連続殺人事件◆
FC初のアドベンチャー



発売日:1985年11月29日   発売元:エニックス   ジャンルADV
値段:5500円   おすすめ度:3.5(ADVの原点にしてどんでん返し)


兵庫県神戸市花隈町、兵庫県警察の捜査一課に所属するベテラン刑事。 通称『ボス』のあだ名で呼ばれた彼のもとに、ある驚くべき事件が舞い込んだ。

「ボス、大変です!ローンやまきんの社長・山川耕造が自殺しました!」

部下である真野康彦、通称『ヤス』のあだ名で呼ばれた若手刑事の話に驚愕したボス。

ローンやまきんといえばサラ金会社で、山川耕造といえば前科こそないものの悪質な経営をやっていた。 それゆえに、人を自殺に追い込むのはもちろん多くの人からも恨まれていたが、まさか自殺するとは…。 だが、ボスはヤスの話がどうしても信じられなかったし、悪徳金融の社長ならなおさらだった。

「しかし、ボス。耕造は完全な密室で死んでいたんですよ」とヤスの話に、詳しく聞かせろとボス。

「ええ、見つけたのは、耕造の秘書の沢木文江って女性なんですが、耕造がいつまでたっても会社にあらわれないので、耕造の屋敷まで様子を見にいき、そして…」

ヤスの話したのをまとめると、こういうことだった。

その日の朝、屋敷に着いた文江は守衛の小宮という老人に中に入れてもらう。「たぶん書斉におるんじゃろ」と、小宮老人。 しかし書斉のドアには鍵がかかっていて、いくら呼んでも返事がなく、おかしいと思った2人は体当たりしてドアを叩き開け、そこで耕造の死体を発見したということだった。

「しかもボス。小宮が気づいたんですが、書斉のドアには内側から鍵が差しこまれていたそうです。」

ヤスの話を聞きながら、煙草を消して考えるボス。果たしてこれは自殺なのかそれとも…。 死因はナイフで首を一突きという即死、それもナイフは自らの右手にあった、そんな不可解な死。 しかし死体は何も教えてはくれず、ボスとヤスの二人は事件が起こった耕造の屋敷に向かう…。


ファミコン最初のアドベンチャーゲームで、もともとはパソコンゲームの移植であった。 後にドラゴンクエストシリーズの生みの親である堀井雄二氏のデビュー作で、 『北海道連鎖殺人 オホーツクに消ゆ』・『軽井沢誘拐案内』と並ぶミステリー三部作の一つにして最初の作品(PC版は1983年に発売)。

同時に、文字をずらりと並べただけでなく、アドベンチャーゲームとしてあるまじきタブーを出した作品でもある(後述)。 また文字がほとんどなくただ操作するファミコン市場に、平仮名と片仮名を本格的に使用したゲームを世に送り出すという衝撃は、 生まれて間もないファミコンに新たな道筋を開いたといえる(何せ、それ以前で文字を出すゲームこそあれせいぜいテーブルゲームや教育ゲームぐらいだった。)


さてシナリオの方だが、事件のシナリオの真実が二転三転するところは、各民放が放送してるサスペンスドラマを連想させるかのごとくで、 (近場とはいえ)いろいろと場所移動するところもまさにドラマを見ている感じにもなる。

やっと真犯人発見かと思いきや、実は別の事件の犯人だったということもあれば、事件とは無関係な人物だったということもある。 さらには、疑いがあった人物が何者かに殺害されていたということも当然ある。 この複雑に絡めている複数の事件の糸を解こうせずに、部下の意見で無関係の人間を犯人と決めつけてしまえば最後、待っているのはゲームオーバーのみ。

移植とはいえ、これほどの重厚なシナリオをFCでやってのける堀井氏の手腕には頭が下がる。 このゲームの主要であるコマンド入力も、右上に置いたうえで文章は下の部分、グラフィックは左上と無理なく収まっている。 残念ながら、BGMはなくSEもほとんど出ないが、それゆえに場面によってはかなりぞっとする演出を出してくれる。

その場面とは耕造の屋敷の地下にある迷路で、ある場面を通過すると突然後ろが閉じるという、プレイヤーを混乱させるもの。 コマンド入力&選択しかなかったPC版から移植する際、新たな要素として登場したこの迷路だが、十字キーで進むとはいえその複雑さは、慣れるまでかなりの苦労と疲労を費やすものとなった。

前述にある扉が閉まるという状況、二度と出られないのではという錯覚をプレイヤーの脳裏に刻み込ませ、終盤もう一度立ち寄らなければならない展開に、「またか…」と思ったことだろう。 この要素、ダンジョンRPGの名作『ウィザードリィ』からヒントに得たもので、迷路の壁の落書きにある怪文章がそれを物語っている。

まさにプレイヤー泣かせの要素だが、もう一つの泣かせる要素として虫眼鏡での捜査だろう。

適当にではなくかなり正確に調べなければならず、相当な時間を費やしたことだろう。 結果、続編のオホーツクで再び虫眼鏡で探す際には、大雑把に調べても見つけられるように変更されてるが、 コマンド選択といい大雑把な虫メガネといい、オホーツクはいろいろとプレイヤーにやさしいシステムを取り入れている。


その昔ADVといえば、パソコンでしか味わえないジャンルであった。 シミュレーションやRPGも、当時としてはまさにそれにあてはまるものだったが、アドベンチャーについては、コマンドをキーボードで打って行動を起こさなければならない代物だった。

80年代前半においてパソコンで人気があったADVは、『デゼニランド』、『スターアーサー伝説(三部作)』、『ミステリーハウス』、そしてミステリー三部作だった。 苦労こそ多けれど、まさにアドベンチャーのだいご味であった。

それがファミコンに移植されるという出来事は、当時のPCユーザーからすれば衝撃もいいところで、この時期のFCのジャンルは、アクションやシューティングがほとんどであった。 まさかファミコン誕生から2年ほどで、アドベンチャーというジャンルに手を出すとはPCユーザーにとっては思ってなかっただろう。

当然ながら、PCとFCの性能差は歴然としていて、PCのような謎解きがFCにできるのか。 一応FCにもキーボードはあるが、それは『ファミリーベーシック』用であって一般的には、コントローラーで操作する代物なだけに、それは明らかに無理と言わざるを得ない。

では、どうやってPCの専売特許であるアドベンチャーをFCに収めたのか。 それはコマンド選択で、当時オホーツクに消ゆのPC版がコマンド選択だったこともあって、家庭用ゲーム機であるファミコンにとってすんなりと受け入れることができた。 しかもコマンド選択は、オホーツクが最初に取り入れたものだが、これ以降瞬く間にPCでも容易に受け入れて入力式が駆逐されていったあたり、PCユーザーも苦労していたことだろう。 一方で、その単純さゆえにクソゲーも多く出てしまった罪な部分も大きいが。

そうでなくても、オリジナルのPC-6001からの移植PC版ですら、半分ほどファンクションキーに割り当てているあたり、エニックスとしても相当苦労しただろう。

この時期、パソコンはまだまだ高峰の華である一方、少年たちが廉価なホビーパソコン(X1やMZ1500など)でゲームに夢中になっていて、 アーケードゲームの多くが移植それもアーケードに近い移植(ほど遠いのもあったが)で、ユーザーを楽しませてた。

結果、マニア向けだったパソコンが徐々にプレイする年齢を下げていき、一般のゲーム機と同様にとっつきやすくなっていったと考えられる。 当然、それはアドベンチャーにも影響したと思われ、そのジャンルのとっつきにくさを間接的に下げたといえるだろう。


ところで、このゲーム最大に証明するネタといえば、なんといっても犯人だろう。 当時のラジオ番組において、タレントがプレイ中それも事件解決してない中で、いきなり犯人をばらしてしまうのである。 その衝撃は相当なもので、ポートピアは知らないけど犯人は知ってるという状況が多く見られ、以降のゲームでもそれをパロディ化してネタを入れるものもあった。

それはヤス、主人公であるボスの部下である。

彼は、ボスに忠実に尽くす若手刑事で、悪は一切許さない正義感あふれる人物だった。 それがまさか二件の殺人を犯すとは、当時のプレイヤーは思ってなかったことだろう。 犯人を探し求めていたら身内にいた、それも捜査中にもう一件殺人を犯したという。

真犯人が身内という手法は、当時はもちろん現在ですら衝撃的で、人気テレビドラマ『相棒』において3代目の相棒がかつて犯罪(殺人ではない)を犯して 逮捕されて幕を閉じる展開も、賛否両論を巻き起こすほどだった。

もちろん単なる犯行ではなく、どちらも犯人に対して同情する過去を引きずったゆえのものであり、それがシナリオにより深みを持たせている。 犯人もまた、反省こそすれ最後ではあるが後悔の念を吐露していて、ポートピアの場合は(FC版のみではあるが)殺人の引き金となった人物が、 罪滅ぼしのために引き続き悪事を重ねなければならないという、どちらに対しても同情の含みを持たせている。

だからこそ、事件が解決してホッとするどころか後味の悪さに誰もが胸を痛めるもので、 もはやどちらにも正義はなく果たしてこれでよかったのかという気持ちともどかしさが、プレイヤーの心の中を駆け巡ったことだろう。

とはいえ、ヤスが犯人ではないかという予感を感じた人もいたと思われ、平田の娘の由貴子の涙ながらに父の自殺の件を聞くとき、彼の感情に変化が表れている。 また、前述にある死体を見つけた際に勝手に犯人と決めつけて、捜査を終わらせるよう進言するあたりも、自分が犯人にされることを防ぐトリックといえる。

そして、最終盤での耕造の日記を読んだメッセージは、明らかに耕造の心境を知って動揺しており、自ら殺したことを後悔する心境を表している (ただ、耕造の詐欺仲間である川村まさじに対して後悔の念がなかったのは、単に彼が悪党だからだと思う)。

だが、この掟破りのトリックと推理はプレイヤーに疑心暗鬼を生じさせ、次作のオホーツクでもヤスと同様に若い刑事を相棒に置くのだが、もしかしたら彼も犯人なのかと疑った人はいただろう。

移植とはいえFC最初の推理アドベンチャーながらも、プレイすればするほどヤスの心境がよくわかるというものである。 ただ、推理フラグに少々穴があるらしく、全部の捜査等をしなくてもゲームをクリアできる。

これを利用してのタイムアタックがまことしやかに行われていたが、先のネタバレから発したゆえの遊びといえるのかもしれない。 むろん、それをやってしまうと耕造の甥の俊之の麻薬関連の捜査と逮捕を捨てなければならず、個人的にはやはり全般的に捜査をしつつ真犯人を探した方が面白いと思う。

バッテリーバックアップやパスワードがないものの、それがなくても一回でクリアできるのだが、小さな事件でもほったらかして先に進むのは衛生上よろしくない。


ところで、二件の殺人事件を犯したヤスのその後だが、一応次作のオホーツクに(PC-8801版のみだが)出演しているらしい。 この時の彼は刑期を終えた後なのだが、(PC版において)ポートピアからオホーツクまでの発売までの期間を考えると明らかに刑期が短すぎる。 スピード裁判を鑑みても早すぎるのだが、それだけ世間の同情が大きかったといえるだろうか(それでも懲役は免れなかったが)。

私にとってポートピアといえば、やはり地下迷路に尽きる。まさか序盤で入らなければならないと思ってなかったから。 発売翌年で地元の床屋でプレイしたのはいいが、興味本意で入ってしまったので、迷路の構図が分からずにただただ移動。 そして後ろの扉がしまって大ショック、そしてリセット&操作放棄となってしまった。

このころにはすでにネタバレが拡大していったが、別にネタバレして怒ることはなかった。 今思うと、どうして相棒がこんな犯罪に手を染めなければならなかったのかと考えることにもなった。 確かに、大事な秘密をばらされた人の怒りはわからなくもないが、それでもなおポートピアに限らずプレイする自分は、お人よしか疑り深いかそれともただのバカか。


そして2000年代、このゲームをレビューするため20年近くの時を経て、久々にプレイすることになった。もちろん攻略ページを利用しながらだが。 既に真犯人は知っているので、真犯人が判明したときはそれほど驚くことはなかったが、プレイしていくうちになぜ犯人がヤスなのかを捜査したくなった。

難関である3Dマップは、攻略サイトのマップで確認してクリアしたが、終盤でまた行くことになるのを知ってげんなりしてしまった。 また、この時はクリアしたいということもあってか、真犯人の実情に迫ったときは「ああそうなのか」という気持ちでしかなかった。

やり直しのレビューとなる2016年、ふとやってみたいという気持ちに駆られて久々にプレイした。 大体のところはわかってはいたものの、やはり3D迷路は慣れればそれほど難しくはないとはいえ、(暗記がものをいうが)それまではつらかった。

一度クリアしてもう一度、さらにもう一度とプレイしたが、ヤスの心情とその過去、元凶である耕造の心情など、非常に胸が締め付けられる思いだった。 同時に、さすがは堀井雄二と感心するしかないほどのシナリオを作ったのは素晴らしいと思う。

それだけに、昔のレビューでタイムアタックがどうのこうのと書いたが、シナリオをじっくり堪能したことでそれが明らかに愚かだった。 そもそもタイムアタックなんて誰が考えたのだろうかと思いたくなるが、アドベンチャーというジャンルが浸透しておらず アクションやシューティングが隆盛を誇っていたことを考えると、それも致し方ないのかもしれない。

最近では、RPGのボリューム問わずタイムアタックが様々な動画サイトで出ているが、レビューでタイムアタック云々言った自分の愚を考えればノーコメントを貫きたい。 これ以降、多くのアドベンチャーゲームが次々と登場するのだが、今までレビューしたしないにかかわらずそれらのゲームをもう一度じっくりプレイしてみたい。



本日のまとめ



ヤス「もんすたあ さぷらいずど ゆう と かいて あります ???

(2016年11月22日修正)
伝説のスターブロブ2への掲載:2019年4月10日
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