武田信玄
FC産初の戦国SLG



発売日:1988年3月28日   発売元:ホット・ビィ   ジャンル:SLG
値段:5800円   オススメ度:2(SLGにパスワードという奇妙さ)


今はなきホット・ビィ(当時は『GA夢』というブランド名)の送るSLGであり、FC産では初めての戦国SLGとなっている。 FC初の戦国SLGといえば、これから紹介するゲームの発売から10日前に発売された『信長の野望 全・国・版(1988年3月18日発売)』で、 FC産でその最初の歴史SLGとなるとアイレムの『ナポレオン戦記』となり、どうしてもこのゲームがFC産初というイメージがつきにくい。

この年、『松本亨の株式必勝学』や『砂漠の狐』といった戦略や経営問わず、SLGがFCに次々登場している。 それを考えれば、このゲームの知名度や人気が隠れても仕方がないのだろうが、このゲームにはSLGにはない要素 それも悪い意味での要素があるので、とりあえずは注目すべきところだろう(後述)。

 また、戦国時代上の著名人をタイトルにしたゲームでもあるのだが、早くも信長の野望がそれを実行していてシリーズ化された上に人気も出たためか、 『独眼竜政宗』も厳密にはあだ名ながらも歴史上の人物のタイトル化に追従している。

しかも、これから紹介するゲーム『武田信玄』は今作発売当時に大河ドラマで武田信玄を主役にしていて、 まさにタイムリーな話題であると同時に織田信長と肩を並べるほどの人気を持ち、業績も信玄堤といった堤防を作るなどの民政に力を入れ 信長に引けをとらない(後継者については家中にゴダゴダを残し、これが武田家滅亡のひとつとなっているはず)。

加えて、初代信長の野望の2Pは武田信玄で、まさに2人の人気と実力がプレイヤーとして選ばれたといってもいいだろうし、 史実上信玄の上洛に信長は色々と策を講じたりしたりと性格面や一部の悪行はともかく、当時最強の武田軍団が全国統一をしたらと思うと それだけでも信玄のファンはもちろん戦国時代のファンとしてもそういったifに胸がわくわくすることだろう。


 ただ、FC産初の戦国SLGだけに信長の野望のようにPCからの移植ではないので、FCの性能での戦国SLGの雰囲気になっている。 それはそれで、FC移植の際にスペックが低い機種での移植ゆえに色々と性能を落として出すものとは違うから、FCの性能で勝負をするという形は 決して間違っているわけがなく、先の独眼竜政宗はもちろん『ファイアーエムブレム』シリーズなどもFCの性能に合わせて作られているので、 高性能のPCで作られたSLGの多くが文字やシステムの難解さもあってやさしさで押し立てるFC産SLGといい勝負ができている。

しかしながら、FCに見合ったシステム等を出しておきながら肝心のところで欠点をさらけ出すこともあり、『武田信玄』も前述した悪い意味での要素は もちろんのこと戦国SLGの重要なところも導入されていないというミスも目立っている。

ルールとして、プレイヤーは武田信玄となって甲斐とその周辺国を占領すればクリアとなるが、シナリオが3つそれも章仕立てにあるため間髪いれずに次のシナリオに進む。 戦略自体一般のSLGと変わらず、内政をして国を富まし徴兵をしたり武器を購入して軍備を増強させて、その合間に外交や謀略で周辺国をかく乱させて戦争で領土を増やしていく。

その内政などの実行金額は、パーセンテージで表示されるのだが中途半端に設定が細かく、年貢や税収のことを考えても微妙に足らなかったり 実行しても中途半端な結果になることもあり、このあたりは細かく設定できないFCのSLG初期の定めなのかもしれない。 なお、治水の意味を持つ信玄堤や金山発掘といった甲斐らしい内政があるのがポイントで一揆を防ぐための施しもあり、 このあたりはホット・ビィでの甲斐の内政の価値観なのかもしれない。

 戦争もさして変わらないように見えるが、野戦と攻城戦の2種類が用意されていて、攻める方が野戦で守るほうを破った もしくは相手側が撤退した場合、すぐさま攻城戦で戦うことになるが単なる野戦の延長で、仕掛けもなければ城門を破ることもないので少々さびしい。 その場合、守る側は残っている戦力すべて出して戦うため、野戦で勝利した直後の相手側の豊富な戦力に絶望した人はいたのではないだろうか。

戦力は、足軽、槍兵、鉄砲隊、弓兵、騎馬隊の5つで、足軽を基本とするならば槍兵が若干攻撃力が強い程度で、騎馬隊が唯一2マス動くことができて、 弓兵と鉄砲隊が遠距離攻撃ができて鉄砲隊のほうが攻撃力が高く、足軽以外商人から買うことになっている。

一応、鉄砲を製造することができるのだが商人の到来が結構高い上に、鉄砲製造の資金を多く投資しても少ししか作れず部隊を作るには 武器と同数の足軽がいなければ作れないので、どうしても徴兵で足軽を増やすしかなく徴兵すれば安定度も減るため、 訓練の概念がないゲームとはいえ非常につらく、戦力のバランスの悪さが目立つことになりかねない。


 加えて、甲斐周辺は駿河の今川義元や相模の北条氏康が控えていて、甲斐北部に位置する弱小勢力より強いのは当然で いつ攻められるのかと戦々恐々しなければならず、後に全徳寺の会盟で武田、今川、北条が三国同盟を結ぶことになるが、今の状況は敵同士。

幸い、武田信玄自ら出陣すれば部隊の能力が上がり戦闘も楽になるのだが、多方面に展開する以上 いつまでも信玄頼りにするわけにはいかず、武将の存在もないゲームゆえに物量作戦でいかなければならないこともかなりつらい。

このゲームでは、合戦を行って勝つたびにRPGでの経験値が手に入るのだが、やはり一定以上でレベルアップをして部隊の能力が上がる仕組みになっている。 当然、信玄出陣についても能力値がないのでどういう形で強くなっているのかわからないが、初陣以降しばらくの間 多くの戦力をぶつけたのにがりがり減っていたのに、途中からその割合が減っているのはこちらが強くなった証拠なのだろうか。

 実のところ、ゲーム開始年代が1541年と当時の信長の野望シリーズより18年早いので、北条や今川と友好関係を築いていないことをシミュレートしている。 今では、信長の野望シリーズでも信長元服以前もしくは誕生以前のシナリオが存在するが、このゲームに元服前の年代のシナリオがあるというのは当時としては珍しい。

とはいえ、信玄の誕生年が1521年なのに対して信長は1534年という事実もあるため、信玄の活躍した時代の初めから シミュレートした実情もあるのだが、信長の野望シリーズでの年代に慣れてしまっていたプレイヤーを驚かせることになったはずだ。 なお、この時代にも最初から今川義元と北条氏康がいるため、国力はもちろん能力値は信玄含めた領主全員設定されてないとはいえ、史実の功績を考えれば十分手ごわい。

信長の野望が、この時期同年12月に第3弾『戦国群雄伝』が発売されるなど戦国SLGの定番化しつつある中で、 信長とは違った価値観で偉人的な武将を主役にしたのはホット・ビィらしく、後述する欠点が出ていてもシリーズ化するところもホット・ビィらしいところか。 もっとも、同年放送の大河ドラマのタイアップになっているわけではないのだろうが、当時のプレイヤーからすれば少なからずそう思えたはずだ。

初代信長の野望と違って、所持国はもちろん合戦後に出る信玄の顔や台詞が戦果によって複数出るので、十分信玄が このゲームの主役であることがプレイヤーや信玄ファン(および地元出身者)に認識させているのがうれしい。 ちなみに、その時の信玄の顔は勝利や敗北などで数種類変化する上に顔自体なかなか温かみがあり、肖像画の特徴も少しだがつかんである。


 歴史SLGの基本システムや、主役をタイトルだけでなく存在感を明確にしたこのゲーム、普通ならば及第点をつけてもおかしくないレベル。 しかし、このゲームにはSLGにあるまじき要素がいくつも存在しており、結果的にこのゲームの評価を落としていることになっている。

1年を、四期ではなく12ヶ月すなわち12ターンに設定したのは画期的だし、その分当時の信長の野望より自由に国を運営できるのはうれしい。 なお、所持する属国を1ヶ月につき3つまでそれもひとつの命令しか運営できないのは、このゲームのバランスを考えてのものと思われるが、 信玄がいる領土の運営が終わると間髪いれずに月が変わるので、命令されていない国に対して実行できず運営を忘れて 国を発展させられないこともあるので、そのあたりは属国の運営に大いに困るものだ。

 このゲームの欠点について、まず物資の輸送ができないことで兵士は『しゅっぺい』で実行した国(または地域)の隣の領土に移動できるが、 米や金は移動できず毎年10月の収入を待たなければならない(こちらは年貢率の調整あり)。 戦国時代というより、旧暦の時代は7月が収穫するのが定番で信長の野望シリーズでも踏襲しているが、このゲームのみ10月に収入が入るのが現代の暦を意識したものだろう。

一応、敵国を攻めて勝利すれば金と米は手に入るし、それらは敵国から奪ったものではなくRPGでの金の入手みたいなものなので、 それで国を富ましたり軍備を増強できるのだがそういうことはめったにないため、単なるボーナスと思わなければならないのがつらいところ。

せっかく米を入手して換金しようにも、商人はともかく換金できる量が99までしかなく、大量に米を入手しても99しか換金できないことも非常につらく、 合戦には米を使わずこのゲームの米はあくまで金に対する換金用であるのだが、これは初期SLGならではといえるのだろうか。


 これらの状況になった背景には、このゲームのセーブ方式がSLGによくあるバッテリーバックアップではなくパスワードだったためだろう。 このゲームを再開すると、せっかく集めた戦力や資金や兵糧はまとめて減らされるというより初期値に戻ってしまうので、そのあたりはパスワードゆえといえる。

当然、国力も初期状態になってしまうので手塩にかけて育ててきたプレイヤーにとって見れば、このゲームはまさにクソゲーと決め付けても仕方がないところで、 今後のために貯蓄をしても長時間プレイする人はともかく短時間でプレイする人には意味がない。

だが、初期値に戻ることは他国のデータも初期値に戻るわけで、他国が占領した地域も元の木阿弥に戻されるところについては、 パスワードの功績といえるのかもしれないが、こちらの占領地域だけそのまま維持されるのは地獄に仏といったところか。

そう、このゲームの本当の戦略とはめいいっぱい徴兵をして住民から搾れるだけ金や米を搾り取り、そこで作り上げた強兵で他国を攻め落とすという軍国政治である。 たとえ税率を100%にしても、一揆は服従率にかかわりなく発生するため、こういった軍国政治をやっても別にかまわないので、ある意味SLGの基本方針からずれてしまっている。

前にも述べたように、このゲームではパスワードの関係上物資の移動ができないようで、別に邪道な手段で物資を搾り取っても勝てばいいわけで、 パスワード自体たったの15文字というお手軽さもあり、全力で敵国を攻め取ってパスワードを取ってゲームを再開して 物資を搾り取って…という繰り返しで強国である今川や北条も倒すことが可能。

早い話、このゲームに内政はあまり必要なく攻めて攻めて攻めまくるのが基本で、兵士の経験値やレベルも信玄の領土同様再開しても 初期に戻らないのため、内政不要論者からすれば出るべくして出たゲームだろうが、バッテリーバックアップがあり再開後も 全ての国のステータスがそのまま残る他のSLGでこれをやれば、弱小ならともかく国力に余裕がある地域では反動がくる。


 それを証明するかのように、甲斐周辺13カ国を占領すれば次のシナリオとして上杉謙信との戦い、すなわち川中島の戦いに突入するのだ。 このシナリオは、全てが合戦ゆえに内政の余地などまったくなく、兵種全てあわせた部隊7つでその部隊数同様の合戦を挑むのだが、 要は7戦中1勝でも勝ち越せばそのシナリオはクリアで、6戦引き分けでも1勝すればシナリオクリアになるというこれも極端すぎるものだ。

兵糧の概念がない理由のひとつがこれであり、合戦だけのシナリオでは兵糧などどうでもいいのだろうが、これにより歴史SLGから戦略SLGに様変わりした瞬間といっていい。 謙信勝利後は、近畿をほぼ掌握しつつある織田信長との決戦であり、これも7戦のうち1勝でも勝ち越せばエンディングを拝めることができる。

 やたら戦の部分が多く、SLGの重要要素のひとつを特化させすぎたばかりに、内政好きのプレイヤーには間違いなく不評を買ったであろう本作。 内政が苦手で戦好きのプレイヤーには人気があっただろうが、戦をするにも基本が肝心で戦ができるのは内政が うまくかみ合ってなければできないものなので、戦好きの人でもSLGのバランスが崩れていることは誰もがわかっているはず。 明らかにクソゲーの強い本作、兵士の経験値や1年12ターンなどの画期的な要素があるものの、さすがに信長の野望と比べるのは無茶があるというものか。

歴史、それも戦後SLGの定番といえばなんと言っても信長の野望だと思っている私なので、独眼竜政宗は昔知っていたのはともかく 武田信玄はほとんど知らず、続編のほうは当時のファミマガのウル技に載っていたので少しは知っていた。

それだけに、初代のことを数年前に大手レトロゲームサイトのデータベースで載っている画像と見た時は、こんなに貧相だったのかと ショックを隠しきれず、すでに信長の野望にどっぷりつかっていた私はやる気が失せてしまった。

この後、初代信長の野望の画面を見ることになり初代武田信玄以上のショックを受けることになるが、SLGなのに この貧相さはいくらなんでもありえなかったが、今はなきホット・ビィの作ったゲームならば仕方がないという気持ちにもなった。


 そんなこのゲームも、今になって突然プレイすることになったのは前にレビューした『SD戦国武将列伝』をプレイして、 FC産の戦国SLGに興味を抱いたことで中古のゲームショップで続編とともに購入した。 もう、ゲーム画面が貧相とかそういうことは思っておらず、どういうところが面白いのかじっくりプレイしながら長所と短所を見ていった。

数分後、その気持ちが早速折れかかってしまったがそれはSLGなのにセーブ方式がバッテリーバックアップではなくパスワードになっていて、 たった15文字なのはいいがなぜSLGの定番の流れに逆らうのか理解できなかった。

加えて、再開してもせっかく切り取った領土や兵士の経験値こそ残っているが、国のデータは初期値に戻ってしまっていたので せっかく苦労して育てた私の苦労はとあまりの事実に放心してしまい、やめようかなと少々本気で思ったことがあった。

幸い、他国の国力も初期値になっていたので領土が増えたこともあわせて一からやり直そうという気持ちにはなったが、 さすがに物資の移動もできない状況ではどうあがいてもがんばることは無理だった。

 このため、このゲームを攻略しているサイトがないか調べた結果、あっさり見つかったことにほっとしていると同時に こんなゲームでも徹底攻略していることに驚いたが、このゲームを攻略しているサイトは他にも『シャーロックホームズ伯爵令嬢誘拐事件』や 『たけしの挑戦状』といったクソゲーの徹底攻略していたので、かつてたけしの挑戦状のレビューと攻略をやっていた時このサイトにお世話になったことがあった。

まさか、このゲームも徹底紹介していることは予想できず、それだけに今回もレビューの参考および攻略にかなり役に立たせていただいた。 徹底攻略といっても、このクソゲーゆえにか少々不真面目に攻略しているものの、私には十分すぎるもので内政より軍備増強を謳って一気に攻め込んで、 パスワードを取って再開して軍備を増強して他国に攻め込んでの繰り返しの攻略には笑うしかなかった。

実際、このゲームでは13ヶ国攻略後に川中島の戦いや織田信長との決戦が控えているので、ゲーム終盤に合戦のみになっていることを考えれば 仕方がないとはいえ、明らかに内政をおろそかにしてしまっているといっていい。


 ただ、国の運営が軌道に乗っていければどんなSLGでも面白いし、1年12ターンと1ターンに着き占領した地域3つ自由に運営できる細かさも 当時としては画期的であり、内政を充実させてバッテリーバックアップ方式ならばもう少し面白くなっていたはずと思っている。

もっとも、FC産初の戦国SLGなのでFCのSLG初期において、戦争マニアが喜ぶゲームという無茶振りもある意味一興なのだろうが、 そのために税率や超並立を100%にして他国を侵略するというこのゲームの基本攻略はどうかしている。

続編は買っただけでいまだプレイしていないが、一般のSLG同様セーブがバッテリーバックアップになっているので、 初代のようなめちゃくちゃさがなくなっているか期待したいところ(ホット・ビィだから無理な気もするが)。

ちなみに合戦は、鉄砲隊と弓隊の行動パターンある程度わかったし、騎馬隊は武田の騎馬軍団という異名ゆえに攻撃力や値段も最高だが、 それだけについ最大数の騎馬隊を作ってしまい短期突入させて敵を圧倒する様は圧巻だった。



本日のまとめ


てきもあっぱれだ
このしょうぶは
ひきわけとしよう
(09/9/13レビュー)
伝説のスターブロブ2への掲載:2024年01月12日

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