プロレス
FC初の本格的なシングルマッチ



発売日:1986年10月21日   発売元:任天堂
ジャンル:プロレス   値段:2500円   Disk:片面
オススメ度:3.5(後のヒューマンスタッフの本気)


任天堂が出すスポーツゲームのひとつだが、同年7月に発売した『バレーボール』までメジャーかつ一般的な人気があったジャンルだったのに、いきなり年代層での人気の差が激しいジャンルにシフトしている。

売り上げも、最高の約246万本の売り上げを得た『ゴルフ』から最低の約153万本の売り上げを得た『サッカー』まで、必ず100万本以上の売り上げを達成できたのに対して、 プロレスは100万本にも満たない(書き換えも含めれば約142万本になるが)。 わざわざ、層の人気が激しいジャンルにシフトしたのは、任天堂的に次に出すスポーツゲームが思いつかなかったのか、それとも当時のプロレス人気に刺激されたのかどちらかだろうか。

『タッグチームプロレスリング』のレビューでも書いてあるが、80年代はプロレスの人気がテレビ中継はもちろんアニメや漫画など人気があり、児童でもプロレスごっこをするほど児童層に浸透していった。 このゲームが登場した当時でも、テレビアニメの方の『キン肉マン』は終了したものの全体的なプロレス人気はまだ安定していて、プロレスの売り上げや書き換えの頻度がそこそこだったのは、そういった事情も関係してくるだろう。

もっとも、翌年の『スマッシュピンポン』や1988年の『アイスホッケー』といったマイナースポーツを出したことを考えると(『エキサイトバイク』も、 題材となったモトクロスこそマイナーだが売り上げが約157万本売れたのは、システムに人気が集まったためなのだろう)、 この頃の任天堂はすべて提供するソフトはディスクカードにするという目標を立てたりとかなり挑戦的であることがよくわかる。

加えて、いずれ他のメーカーが題材にしたがるジャンルを出すよりは、まだどのメーカーも開拓していないジャンルにいち早くこちらが開拓して、ユーザーの関心の目を引こうと考えたのかもしれない。 いずれにせよ、任天堂の出すスポーツゲームの多くが他のメーカーを追従させることになり、野球では『ファミスタ』シリーズや『実況パワフルプロ野球』シリーズ、 サッカーでは『ウイニングイレブン』シリーズにゴルフでは『みんなのゴルフ』シリーズなど、任天堂がFCで出したジャンルが他のメーカーで発展し長くプレイヤーに支持され続けてきたといえるだろう。

プロレスは、先にタッグチームプロレスリングを出されてしまっているがこれはACの移植なので、FCで製作された初の本格的なプロレスといえば、 任天堂のプロレスといえるわけだ(『キン肉マン マッスルタッグマッチ』は初のプロレスゲームだが、色々な要素により本格的でない)。


しかも、このゲームはFC初のシングルマッチであり、既にタッグマッチ方式のゲームが2つ出ているだけあって、 シングルマッチが先に出なければならないはずなのにようやくシングルマッチ方式のゲームが出るというのは、ある意味奇妙といえるのだが。

しかし、ファミコンそれもディスクシステムの性能を生かして作られた初めてのシングルマッチ方式ゲームであり、基本を忠実に守る任天堂だからこそ、 演出もルールも面白さを前提にして作られているので、プロレスゲーム黎明期ながらもよいつくりに仕上がっている。

それでも、ファミコン内でプロレスゲームの人気は他のゲームと比べてそれほど高くないので、基本がしっかりして通常の売り上げと書き換えの合計が100万本以上達成していても、 当時のゲーム雑誌のレビューアの心を動かすのは難しかったのだろう。 一応、当時のゲーム雑誌は名作クソゲー問わず平均にレビューしていたのだが、それでもプロレスゲームに立ちはだかるファミコンの壁は厚かったといえる。

とはいえ、任天堂の新たな挑戦としてはもう十分といえるはずで、雑誌のレビュアーよりユーザーの声のほうが信頼性が高い場合もある。 選べるレスラーは6人で、能力も一緒ならば顔と肌の色以外の体格も一緒、されど技は共通のも多いもののレスラー専用の技も多くなっている。 顔と肌の色を除き体格を全員とも同じにしたのは、容量を有効に活用したに他ならない。


実はこのゲーム、今はなきヒューマンの設立スタッフが開発に参加していて、ヒューマンの著名シリーズ『ファイヤープロレスリング』シリーズのレスラーの体格を見ればなるほどと思うはずだ。 後に、任天堂から独立してヒューマンを設立するのだが、会社の人気シリーズの元が任天堂のプロレスであったことを考えると、 PCエンジンからスタートしたシリーズとはいえそれ以上に歴史があり、ヒューマン在籍前のスタッフの苦労がよくわかる。 まさに、任天堂のプロレスがなければファイヤープロレスリングシリーズもなかったわけで、任天堂のチャレンジ魂があってこそのファイヤープロレスリングといえるのかもしれない。

任天堂のプロレスが、ファイヤープロレスリングシリーズの原型に近い存在なのは、各レスラーの独自の技の多さや体格もさることながら演出が凝っているということだ。 タイトル画面で、スタートを押さずにそのままにしていると登場レスラーの紹介が出てくることがひとつで、試合ではわからなかった各レスラーのアップとプロフィールが紹介される。

体格が同じなのに、アップでかなりイメージが違うのも面白く、演出と同時に容量の都合で見ることができなかったレスラーの素顔をここで見れるのはうれしい。 面白いのが、日本語のプロレス技を英語に訳すのではなくわざわざローマ字に直すものがあり、これについても一種の演出だと思われる。

大技をかける場合でも、観客の声を思わせる甲高い音が演出のひとつで、大技をかけて相手に大ダメージを与えさらに声援が送られるというのは気分がいいものだ。 なお、ザ・アマゾンの専用の技に噛み付きと凶器攻撃があるが、中でも後者は反則行為をやってレフェリーかチェックされるものの本人はやっていないというジェスチャーをするという、 これも演出のひとつながらも結構笑えるものがある。

ただ、このゲームに凶器はなくそれ自体アマゾン専用の技であって、タッグチームプロレスリングではそれがあったのに本格的であるこのゲームではないのが残念。 これは容量の都合というより、幅広い世代のゲームを作りつつも特に児童を中心としたゲームを作ることを旨とする任天堂ゆえに、 多くのレスラーが凶器攻撃することは否定的だったのだろう(アマゾンの専門の技とはいえ威力が低いこともその理由か)。


終わりがないゲームが多い中で、当時としては珍しいエンディングで終了となっているこのゲーム、最初に自分が選んだ以外の5人のレスラーに勝ってF.W.Aのチャンピオンになり、 そこから防衛線を2回ほど行えばラスボスであるグレートプーマーとの対戦となり、そこで勝利すれば彼が守っていたF.W.Fのチャンピオンの座につき、2つのチャンピオンとなってエンディングとなる。 それだけに、そこまでたどり着くまでには実力を身につけることもそうだが、エンディングを見るために合計3周しなければならないということだ。

既に、『魔界村』では2周エンド方式が採用されているが、それ以上の周回それもファミコンでやるというのは、チャンピオン任命、防衛戦、 もうひとつの団体F.W.Fにおける新たな戦いという事情もあるのだが、やはり3周エンドというのは当時ではかなり斬新である。 しかし、ディスクゲームなのにディスクセーブがないこのゲームでは、魔界村のFC版のように裏技でステージセレクトもできないので、 このあたりは2つの団体のチャンピオンという名誉を手にするには、長時間のプレイが最大の強敵となるわけだ。

もちろん、対戦相手のレスラーも強敵であり、周が進むごとに相手のスタミナやテクニックなどの上昇という難易度の高さも厄介だが、 当時のプロレスゲームの枠に当てはまるということで、連射パッドでの攻略がしやすいのが幸いである。 だが、3周目になるとその連射パッドの恩恵が受けられにくいほど難易度が上がるので、最後に控えるラスボスの強さを考えると連射パッドという小ざかしいものの脱却、 および最強の相手との今までの総決算という感じをさせてくれる。


そのラスボスはグレートプーマ、F.W.Fのチャンピオンでプレイヤーが選ぶ6人のレスラーの技をすべてマスターしている恐るべき強敵で、 まさに3周してここまでたどり着いたプレイヤーのご褒美だが、その強さはもはやご褒美とのんきなことを言ってられないほどのレベルである。 もっとも、一周目に連射パッドを使っても相手のスタミナがある場合で大技をやっても返されるので、ボディースラムといった小技で地味に相手の体力を削っていって、 大技の連続で体力を奪っていってフォールするのが基本になっている。

このゲーム、体力の表示はないがレスラーの肩の動きでどのくらいスタミナがあるか把握されるが、体力ゲージも設定されているゲームが主流だった当時は斬新である一方で、 このような設定というのはプレイヤーにはわかりにくかったかもしれない。 そこで、プレイヤーの残り体力が少なくなるとその具合によってチャイムが鳴るようになっているので、ゲージの排除をチャイムと肩の動きに差し替えたといえる。 ファイヤープロレスリングではそれが主流なので、ヒューマン設立前のスタッフにとっては今までより新しいプロレスゲームを作るという気迫があったと思われる。

任天堂のスポーツゲームのように、基本に充実で派手さはないが地味に楽しめる。 それだけに、このゲームに対する不満もいくつかあったわけで、絞め技によるギブアップがないし場外に降りる時、リングの正面南しか出入りできないのがつらいが、 相手を技で場外放り出した場合に限りプランチャ・スイシーダで左右のリングから場外にでて、相手にダメージを与えることも可能に加えてその技自体かっこいいので、これをやってみるのも面白いだろう。

後者については、相手にもその不利益をかぶっているわけで、リングアウトになる前にリングに戻らなければならないがリングの左右から戻ることができないため、 リングに戻るまでの時間が大幅にロスされてしまうのがなんともつらいところだ。 ただ、うまくいけばこちらがリングアウト勝ちを収めることが可能で、戦法次第ではグレートプーマにリングアウト勝ちを収めることができるわけで、 そのあたりは卑怯ながらも基本を忠実としたこのゲームでは、これも基本中の基本の戦法といえるのかもしれない。


私とて、てれびくんやファミコン関連のムックなどでディスクゲームをいくつかしっていたし、プレイについても友達やいとこの家などで結構プレイしていたが、このゲームについては数年前に大手ファミコンサイトで初めて知った。 同じ頃、別のレトロゲームサイトでもこのゲームのレビューが載っていて、その内容に思わず見入っていたもののディスクカードということに加えて、特に面白みがなさそうだということでプレイを見合わせていた。 この後、いとこから大量のディスクゲームを頂きこのゲームも含まれていたのだが、やっぱり他のディスクゲームに夢中でこのゲーム同様まだ一度もプレイしていないもしくは興味がないゲームは、プレイすることなくそのままおかれていた。

それが今になってプレイしたのは、突然に近いと同時にいずれレビューしてみようかという考えにあったからだ。 マッスルタッグマッチをレビューして、かつて初めてプレイしたファミコンのプロレスゲームに興味を持った私は、これを境に他のプロレスゲームをプレイしたりレビューしたいという気持ちになっていった。 そして、タッグチームプロレスリングをレビューしている最中にそのゲームのことをネットで調べていたら、昔のプロレスゲームはボタン連打で技を決めることになっていたことがわかり、 連射パッドを持っている私にとって何か面白みがあるのを感じた。

 そしてこのゲームをプレイした時、地味ながらも本当はかなり熱いゲームだということに気づいた。 相手のスタミナを小技で消耗させ、大技の連続でフォールして勝利を奪うという基本ながらも心にぐっと来たし、 ゲームに流れるBGMもディスクカードならではのものが出てタッグチームプロレスリングとは違ったファイトあふれるものになっていた。

残念ながら、BGMの種類は少ないものの質で凌駕していて、これがディスクゲームのBGMなのかとディスクゲームを数多くやっている中で、 こういうことにいまさら気づいた自分がある意味情けなかったりする(コナミ作品のサウンドの質のすばらしさは前々から知っていた)。


さて、私は登場キャラをすべて使ってみたが、その中でもすべての面ですばらしかったのはスターマンだった。 デザインが、キン肉マンのペンタゴンにそっくりな上に技の多くがどれもこれも使い勝手がよかったが、特にフライングチョップはラリアットよりも攻撃範囲が思いのほか広く、 これをやっているだけで相手のスタミナを徐々に消耗させてくれるのがうれしかった。

それだけに、他のキャラのほうはフライングチョップがスターマンの専用技ゆえに、全員ラリアットでやらなければならないのがスターマンに慣れた私としてはかなりつらく、 全員にも基本的な攻略もあれば能力も同じなので、技だけで使い勝手が違うのには驚いた。 ラスボスを除けば、スターマンこそが最強のキャラだと思っているわけで、同キャラ対戦ができないというのはプロレスゲームでは当たり前ゆえに、 対戦でフライングチョップにひどい目にあった人は果たしてどれほどいるのだろうか。

スターマン以外で興味のあったキャラは、40代のオヤジレスラーのキーン=コーン=カーンだ。 元ネタは言うまでもなくあのキラー=カーンで、顔を見ても間違いなくそっくりなのだがなぜか出身がモンゴルではなく韓国というのは謎で、 『ワールドヒーローズ』シリーズで初代登場のドラゴンが続編で名前をキム=ドラゴンに改名し出身を韓国にさせたあたり、 ドラゴンがブルース=リーであるという肖像権の問題が数年前にも任天堂のプロレスで問題になっていたのではと考えている。

後のファイヤープロレスリングでも、実在のレスラーのオマージュが多数見えているので、当時性能が低かった据え置き機で実在のレスラーのオマージュをいかようにしてわかりやすくするのか、 それは任天堂のプロレスから始まったのではないかと思う。


本日のまとめ



CONGRATULATIONS!

YOU ARE
F.W.A  F.W.F
CHAMPION!
(09/6/16レビュー)
伝説のスターブロブ2への掲載:2020年3月15日

◆目次に戻る◆




inserted by FC2 system