◆天下一武士 ケルナグール◆
己を磨き一人前の格闘家に…



発売日:1989年7月21日   発売元:ナムコ   ジャンル:格闘
値段:4900円   おすすめ度:4(パンチしかない状況からの成長)


ナムコが発売した格闘ゲームで、多くのプレイヤーは『天下一武士』を取って単に『ケルナグール』と呼ぶことが多い。 多くのサイトやゲーム雑誌の紹介においても、ケルナグールと呼んでいるために『天下一武士』の存在が忘れ去られているような雰囲気があり、 中国拳法を題材としているのに『武士』というのは少々的外れな印象があったのだろう(ゲームでは『拳士』と呼ばれるため)。

もっとも、このゲーム自体知名度がそんなに高くなく、人気が高いのに知名度が低いのは続編が発売されなかったことや、 PCエンジンやメガドライブそれにゲームボーイの台頭が背景にあると思われる。

ゆえに、今でもこのゲームのファンの多くはリメイクして出してほしいという要望があるが、 残念ながら家庭用ハードに登場した作品を限定かつリメイクして出す『ナムコアンソロジー』シリーズに登場できず、 DSやPSPなどの携帯ゲーム機にも2008年現在移植されていない。

このゲームを開発したのは、ゲームスタジオの代表で多くの作品をナムコに提供した遠藤雅伸氏で、 やはりこのゲームも遠藤氏の経歴もあってか(1981年にナムコに入社)ナムコに発売することが早くから決まっていたようだ。

このゲームのタイトルも、内容に当てはまるほどわかりやすいものになっていて、 ジャンルが格闘ということもあってか蹴ったり殴ったりという制作者陣から見れば、あまりにも単純明快にしたかったのだろう。

実はこのタイトル、『戦国魔神ゴーショーグン』のドクーガ3幹部の1人ヤッター=ラ=ケルナグールを由来としており、 それはソフトバンクのゲーム雑誌『Beep(『ゲーマガ』の前身)』で遠藤氏のインタビューにおいて述べている。

遠藤氏自身、ゴーショーグンのファンなのかそれともそのアニメをかなり知っていたのか不明だが、 開発時期に小説でゴーショーグンの新作が登場(『幕末豪将軍』)したことも関係あるのかもしれない。

この時期、現在の格闘ゲームの原型がAC・コンシューマー共に多く登場していて、ACでは『空手道』や『ストリートファイター』など、 家庭用では『カラテカ』や『THE 功夫(クンフー)』などが挙げられ、 アクションの性質が強かったものの敵の動き(パターン)を読んで行動するという、格闘ゲームの原型が年を下りながら少しずつ増えていった。

ケルナグールもまた、そういった格闘ゲームの原型の1つとして登場していて、先にも書いた殴ったり蹴ったりで敵の体力を0にして勝つわけだが、 面白いのは体力を示すものがゲージではなく数値で示されているもので、後で説明するがゲージで確定しつつあった頃にこれは意外だ。


モードは、対戦、対CPU戦、観戦、修行の4種類からなり、修行以外の3つは操作キャラと対戦相手を選んではじめるもの。 Bでジャンプできるあたりは、やはりアクションゲームの性質が色濃く残っているものの、Aで出す攻撃は間合いやジャンプ、 ちょっとしたコマンド(主に十字キーの上+Aぐらいだが)によって異なっている上に威力も異なっている。

それゆえ、どういう形でこちらに有利な間合いを持ち込むか、だんだんと現在の格闘ゲームの戦略に近づきつつあるのがよくわかる。 しかも、攻撃にも相手の姿勢によって威力が変わるので、例えばしゃがみで上段突きをかわせるのに対して蹴りでは倍のダメージを食らうために、改めてこのゲームの戦略は奥が深い。

ただし、登場キャラ全員が拳士という役柄なのか飛び道具で攻撃するキャラはいないし、向きをかえるにしてもジャンプの他に相手と接触していけば自然と転換できる。 キャラによって技の所持数に違いはあるものの、自分の腕次第で勝つことは可能。 ある程度プレイしていればコツはつかめるので、格闘ゲームの難易度としてはそれほど高くない。


実のところ、普通の対戦については単なる添え物程度でしかなく、あるモードの存在によりそれが利用価値をあげることになっている。 そのモードとは修行のことで、プレイヤーがその世界の拳士になって他の拳士達と勝負していきながら、徐々に自分が強くなっていくというものだ。

相手に勝てば最大HPが上昇するので、一部の敵や上昇できる相手でもたまに上昇しないことがあるものの、どんどん勝っていけば自然とHPが上昇するのはうれしい。 しかも、勝敗がどうであれ試合が終われば体力が最大に回復される。

CPU戦や対戦から始めた人は、修行は楽そうに思えるだろうがこれが非常に曲者。 というのは、初期のHPが10ととてつもなく低い上に、所持している技も突きでジャンプも出来なければしゃがみも出来ないという、まさに低レベルこことに極まれりというものだ。

この絶望の中で、どうやって己を強くするかこれがこのモードの醍醐味だろう。 幸い、自宅や大きな町の五重塔ではパスワードがきけるし、勝負に負けてもゲームオーバーにならず強制的に自宅に戻らされるだけで、 自宅周辺で地道に勝負を繰り返していけば大抵序盤で戦えるぐらいのHPを得ることが出来る難易度はうれしい。


技については、主に寺や民家で覚えるのだが、寺から先に技を覚え同時に寺の門弟と対決して勝ってようやく入手できるもので、 普通に戦えば少々苦戦する相手であるものの、HPさえあげていればこちらが勝てる可能性は大きい。

道中で手に入る、スピードと力をアップさせる実も加えれば確立はますます上がり、条件があるものの城にいる拳士に勝てば防御力が上がる拳士の位がもらえ、自分がもっと強くなる。 もっとも、2つの実の位置は固定されているものの、その場所を示すヒントがないために見つけるのはかなり困難だが、手に入れた後での自分の能力には惚れ惚れする。

実はフィールドに出る敵全て、こちらの能力がアップすると敵の能力も上がり、それだけ倒すのが苦労させられる一方で、 技やアイテムを授けるボス格の拳士の強さは据え置かれているので、敵を倒す苦労をすればする分ボスをあっさり倒せるのもうれしいし、 こちらが弱ければボス以外の敵も弱いので、決して上級者をあきさせない絶妙なバランスの難易度を打ち立てている。

しかも、砂漠に出没する『かわりもの』は体力が高いだけで、攻撃力やスピードは低いという体力上げにはまさにカモと言える存在だが、 最大HPが一定以上に達すると今まで体力を上げてくれた敵もそうしてくれる確率が下がり、必ず体力を上げてくれる敵が山賊だけになる。 防御が出来るために、フィールドの敵と比べてかなり強い部類に入るので、この場合は山賊の強さを少し下げるか他の敵におけるHPを上げる確率を上げたほうがよかっただろう。

さて、技の入手の1つに民家で覚えると書いたが、こちらは寺で門弟と戦って勝利すればいいものと違って、町や村で手に入るアイテムを渡して覚えるもの。 いうなればお使いイベントで、入手できる技によってお使いの度合いが違い、簡単なものもあれば何度もお使いしなければならない面倒なものもあるので、 全ての技を習得するまでにはかなり時間がかかる欠点はあるが、自分を強くすると同時にこのゲームのもう1つの醍醐味である。

そういった入手できる技の中で、一番強いのは飛燕脚(ひえんきゃく)ことジャンプキックで、 ゲーム後半だが覚えればもう他の技を習得しなくてもいいくらいかなり強力で、このゲームも全ての技を習得せずともラスボスを倒せばクリアできるのが楽でいい。

でも、自分のキャラを対戦やCPU戦でパスワードを入れることで使用できるので、相手を知らない技の連発であっと驚かせたい、 もしくは全ての技を極めて一人前の拳士になりたい人は、ぜひとも全ての技を習得したほうが面白いと思う。


他に、金を払えば一度行った大きな町に行ける馬屋の存在があるが、多くの人はそれを使わないもしくはただで利用しているだろう。 特にただでの利用は、馬屋の若い者を倒せばただで利用できるフリーチケットを入手できるので、 パスワードで再開するとなくなるものの若い者の強さは序盤で少し強くなれば倒せるほど弱く、お使いイベントが多い中盤以降その頻度は高くなっている。 だからこそ、再開でチケットを消失した上で若い者の強さを大幅に下げているのだが、チケットのためにわざわざやられる若い者がなんとも不憫ではある。

己の修行や技の習得には関係ないが、どこかで見たようなアイテムや名前などが多く見かけるのも、このゲームの面白さの1つである。 『フリオニールのはか』は有名で、その近くにある『ゆうしゃのはかは めぐりめぐる  リンクしかり ロトしかり』という立て札は、 他のゲームに見られた人物の墓のパロディをここでもやっているあたり、面白い要素はどんなゲームにも通用することを表しているのだろうか。

また、ドラクエ2の『じゃしんのぞう』や桃太郎伝説の『ユキのおにぎり』など、他のゲームのアイテムを多く登場させているが、その中でも特に多いのがドラクエ3だろう。 『フナノリのホネ』や『アイのおもいで』など、その数は他のゲームのものより結構多く、 中でも『ちいさなメダル』の存在はVで没になったためにWからの登場となったわけだが、 それより先にそのアイテムを登場しているあたりVの没アイテムの存在がどこから漏れたか、それとも開発終盤になってWの情報を知って土壇場で導入したのか不明である。


ゲームのネタに、他のゲームのパロディを入れるのはゲーム業界で暗黙の了解となっているものの、これだけ他のゲームのパロディを多く入れるのは異常だ。 他のゲーム会社から抗議、最悪裁判沙汰に近い形になるはずなのだがそれが黙認されたのはそういった規制が甘かったと思われ、それは昔のアニメ業界にも同じことが言える。 現在では、そういうお遊び心は同じ会社制作のもの以外は規制されているため、昔のようなお遊び心のサービスは少なくなったのは残念だ。

最後にこのゲームの不満点だが、マップの広さがとてつもないこととそういった内容が多すぎて、勝負時のグラフィックが同じデザインであることの2つだろう。 特に後者は容量の関係なのだろうが、老師でも同じグラフィックなのは少々拍子抜けで、技やイベントを少し減らしてその分の容量をそのグラフィックにまわしてもらいたかった。


このゲームは、当時のファミマガの攻略記事を読んで知ったわけだが、この時はラスボスを倒すための攻略が載っていたらしく、このゲームの本当の面白さがわからずじまいだった。 しかも、この頃の私は金を自由に使える年齢ではなかったため、その頃の私が面白そうだと思ったゲームの多くが買えず、その場合は我慢するか友達かいとこに借りるかしかなかった。

それから14年の歳月が流れ、大手レトロゲームサイトにこのゲームの攻略が画像つきで載っていたので、成長するプレイヤーと強くなるにつれて習得する多彩な技の紹介に思わず見入っていた。 にもかかわらず買わなかったのは、この時期の私はPS2やGBAといった新しいハードのゲームにも夢中になっていたからだ。

初めてプレイしたのが、このゲーム発売から16年後という遅さで、それも『とりあえずプレイしてみようかな』という考えだけだった。 最初に選んだのはもちろん修行のほうで、自分のキャラクターがどういう形で成長するのか少し楽しみだった。 もちろん、初めてプレイする以上どう知ればいいのかわからないとも思ったため、このゲームの攻略記事を利用した。

さて、最初に敵に出くわして戦った時の感想を一言で言うと、「このままで自分が強くなれるのか?」であった。 まさか、自分のステータスが思っているよりはるかに低く、しゃがみも出来なければジャンプも出来ず、 挙句の果てには所持している技がたった1つに加えてスピードも攻撃力も最低レベルという、まさにレベル1という状況ではないことを思い知らされた。

だが、敗れてもゲームオーバーにならず攻略サイトを参考にすれば何とかなると思い、攻略サイトの手順通りに技や能力アップに励んだ。 お使いイベントも、マップが広く町や村が多い分苦労したが、その後に技が伝授されるのはとてもうれしかった。

実はこのゲーム、プレイした年に私がレビューしてほしいFCソフトのリクエストの募集を行った際、リクエストの1つとして出ていた。 その時はこのゲームを選ばなかったものの、クリアしなければレビューをしないということを決めていたので、全ての技を習得した後に体力を最大にしてラスボスのタオ老師と対戦、かなり強かったが見事これを破った。

しかし、せっかく倒してもエンディングがないのに疑問を感じてしまい、その後ぶらぶらときんと雲に乗って再び老師と遭遇、今度はボコボコにされてしまいこの時点で完全にやる気を失った。 レビュー時にプレイしたときに、特定のパスワードを入力すればエンディングが見られるということを検索で発見したのだが、だったらどうして修行モードにエンディングを入れなかったのか全く理解できない。



本日のまとめ



ゆうしゃのはかは めぐりめぐる ロトしかり リンクしかり

(08/7/19レビュー)
伝説のスターブロブ2への掲載:2019年6月29日
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