◆妖怪屋敷◆
MSXの名作をFCに移植



発売日:1987年10月23日   発売元:アイレム   ジャンル:ACT
値段:3200円   Disk:両面
おすすめ度:3(内容・BGMともに微妙な移植)


ここは、とある町のはずれにある一軒家で、いかにも一年代前を思わせる古い屋敷である。 昔こそ、人の一人や二人程度は住んでいたのだが、今では住んでいるものは誰一人もいない空き家で、 屋敷が古くなっているのも人が住まなくなって以降周辺に住む人達の中で、手入れをするものなど全くいなかったのだ。 今は、毎夜この世のものとは思えぬうめき声が、風に乗って聞こえてくるだけという不気味なものになってしまっていた。

なぜこのような不気味なものになってしまったのかというと、この屋敷が建てられたのは今を去ること数百年前であった。 人が住まなくなってからしばらく後、どこから現れたのかも知れぬ妖怪達がこの屋敷を陣取りその周辺の人々を苦しめていた。 偶然その惨状を目の当たりにした旅の高僧が、彼らに苦しめられている人々を助けるため、百日百夜にわたって念仏を唱えた。

さらに高僧は、屋敷に巣食う妖怪達はもとよりろくろ首やのっぺりといった、日本各地に潜む多くの妖怪達を誘い込むや彼らもろとも屋敷の奥深くに押し込めることに成功した。 その中には、かつて多くの妖怪達を従えた妖怪の総元締めの存在である妖怪大魔王も含まれていた。 そして、入口に強力な結界を持つお札を貼り、妖怪達が二度と屋敷の外に出ることがないように、かつ外の人間達がうっかりお札を取ることもないように、厳重に封印されることになった。

これ以降、妖怪達は二度と屋敷の外から出ることがなくなり人間達による封印の解除も一度もなく、屋敷の周辺は平和になった。 もっとも、封印された妖怪達による恨みとも取れるうめき声は屋敷の外から漏れることとなったが、それ以外は被害らしい被害はなかった。 こうして、高僧が妖怪達を封印してからかなりの年月が経った現在、高僧が命がけで妖怪達を封印させたという伝説は、既に人々の記憶から忘れ去られてしまっていた。

そんな中で、コウジ君とリカちゃんの2人の子供が肝試しということで、お化けが出るらしいとのうわさが立つ屋敷に足を踏み入れた。 この屋敷こそ、かつて妖怪達が封じられている場所であり、あろうことかリカちゃんはひょんな好奇心から扉を封印しているお札を見つける。

封印してから長い年月が経ったせいか、封印を守ったお札はあっさりとはがれてしまい、リカちゃんはその屋敷に吸い込まれてしまった。 コウジ君は、奥深くに閉じ込められたガールフレンドのリカちゃんを救い出すべく、迷宮と化した妖怪屋敷へと足を踏み入れたのである…。


アイレムの出すディスクゲームの1つで、MSXに出ていたものをFCに移植したものである。 タイトル画面にMSX版の開発元がクレジットされているのがその証拠で、アイレムはその会社からFC移植の権利を買い取ったのだ。

MSX版を制作したのは、多くのメーカーがMSX本体制作にかかわっていた中の1つであるカシオ計算機(以下カシオ)で、同時に多くのゲームを輩出していた会社の1つでもあった。 カシオといえば、なんといっても数多くの電卓を開発した会社として有名で、それ以外にも多くの電子機器も開発している。

ただ、カシオがMSXに参入している事実は、MSXのユーザー以外ほとんど知られていない。 理由は前にも書いたように、カシオといえば計算機メーカーの代表格であり、MSXは多くのメーカーによって生み出されたハードであるためであった。

加えて、MSXのゲームを多く開発したといっても、そのほとんどがMSXを支えていたとはいえず、むしろ鳴かず飛ばずの状況を続かせていたといえる。 幸い、コナミといった著名ゲーム会社が名作を連発したおかげで、MSXが早々潰れる危険がなくなり寿命も延びることができた。

MSX2において、MSX時に参加していたメーカーの多くがハード制作離脱したが、カシオもMSX2の際に離脱したのはこういった事情があったのだろう。 もちろん、MSX2のソフトもいくつか制作しているが、MSXのソフトの数よりかなり少ないのはMSXのソフトを多く出しながら、売れ行きが悪かったことと関係があるのかもしれない。 そもそも、多くのメーカーが制作に参加したハードなのだから、特定の会社だけが必死になってソフトを供給する必要はないのだ。


そんな、状況にあえいでいたカシオが唯一MSXユーザーから名作と謳われた作品があり、それが『妖怪屋敷』で知名度もMSXユーザーを中心にかなり高い。 プレイヤーは、主人公のコウジ君を操作しながら屋敷の置く不覚に閉じ込められているガールフレンドのリカちゃんを救い出すべく、 各ステージにある5つの札を集めてそのステージのボスの部屋に入り、ボスを倒して次のステージに進むこととなる。

コウジ君の武器は懐中電灯で、面白いのはその光で敵を倒すようになっていることだが、乾電池のゲージは体力ゲージと共有しているため、 ゲージがなくなった後で敵もしくは敵弾に触れるとミスとなり、ゲージが少なくなるにつれて懐中電灯の光の長さが短くなってくる。 つまり、ダメージを受けると攻略がいっそう不利になるため、いかにしてダメージを少なくすることができるかという、当時のアクションゲームらしからぬシビアさが要求された。

一応、敵キャラの人魂を倒したりアイテムのおにぎりを地蔵の前にささげての体力回復はあるものの、人魂は登場頻度が少なくおにぎりはありつける確率があまり高くない。 それでも、クリア後や特定の敵を倒すとに充電が全回復したりするといった要素はある上に、屋敷の構造も比較的単純だったおかげで(ボスの部屋の位置が丸わかり)、 弱点がある程度はっきりしているボスも合わせて(当てるのは少々難しいが)、全体的に見ればかなり難しいというほどでもなく数回プレイすればエンディングは見れる程度だ。

灯篭や行灯を撃って入手できるアイテムの多くが回復系で、ゲージが1つ上がる電池を取らなくてもクリアは可能であり、懐中電灯とゲージの共有というシビアな要素と、 回復要素が多いという易しい要素とあわせて絶妙なバランスの難易度を保っていることになる。 ここにおいて、ようやくカシオは名作と呼べるゲームを作ることに成功したが、ユーザーから名作と呼べるのがこの作品しかないのはなんとも悲しい。


FC移植はMSX版発売の翌年で、ディスクシステムに移植されることになった。 ディスクシステムとMSXと比べれば、性能的に前者のほうが格段に上で、それも移植作品ならなおさらということでMSX版をプレイした人にとっては期待が寄せたと思う。 グラフィックは言うにおよばず、マップの広さや多くの隠し要素(体力を全回復させたり攻撃するとそれを減少させる妖怪他)など、あらゆる点でMSX版を上回るのは当然といえる。

しかし、国民的ゲームであるファミコンのディスクに移植したために知名度はMSXより高くなく、多くのディスクゲームの名作や秀作の存在もあり、ディスク版ではマイナーな地位に甘んじている。 さらに、容量的にMSX版よりも上なのだが、その使い道を間違ったところにやってしまっている。ステージが広くなりすぎたことが大きな要因で、屋敷の構造はもはや迷宮に近い。

マッピング機能があるのが幸いだが、それがなければ延々とさまよい続けることは必死。 ただ、MSX版にあったリカちゃんの落し物を拾うという要素がなく、単に各ステージにあるお札を5枚見つけるだけでいいので、これも幸いといえば幸いである。

しかも、ボスの居場所がMSX版と違っている上に、その目印のようなものが存在しないため、ボス戦突入は偶然その場所に入った展開が多いだろう。 このゲームでは、『マップの広さ=難易度』が定着しているため、最初のステージでも迷宮に近い構造になっていることにより、最初のステージでもクリアに苦労した人はいただろう。

おまけに、ステージ構成はMSX版そのままを移植しているわけではないので、MSX版をプレイしても迷ってしまう可能性は大きい。 広告には、最初のステージがイラストで紹介されているが、わかりやすいとは言いがたい。


挙句の果てには、隠しはしごを伝ってお札を取ったりボスエリアに行くこともあり、FC前期に見られる理不尽な要素が満載である。 最初のステージのスタート地点で、いきなり隠しはしごに登ったら なお、各ステージの全てのエリアを通過してマップ画面を見ると、漢字一文字の絵柄が浮かび上がるが、これこそボスの内容をヒントで示しているものであり、 マッピングによる若干の難易度低下もさることながら、そういったお遊び要素はなかなかに面白い。

新たに加わった地獄ステージは(通常ステージで穴に落ちて行ける)、MSX版の隠し部屋代わりといえるわけだが、その難しさは一撃死の場所が多いこともあって結構高い。 一方で、強力なアイテムが眠っていることは魅力であり、これを取ると懐中電灯の幅が2倍になるだけでなく威力も2倍になるので、連射できない懐中電灯にとって心強い味方だ。 ボスが、ステージ1以外まるっきり違うものに差し替えられているため、弱点がわかりにくかったこともステージ2以降に強力アイテムを隠したといえるのかもしれない。

この他、最終ステージの終盤が異なっており、MSX版ではラスボスを倒しても続きがあったのに対して、 ディスク版はボス2連戦のみに終わりラスボスを倒した後に現れるリカちゃんを救出してエンディングとなる。

BGMもまた、最終ステージ(全5ステージ)がステージ1と同じものなのに対してステージ4まで全く違うBGMになっているが、 質となるとMSX版より悪くBGMの量の多さのために質を犠牲にしたのかもしれないものの、ディスクの音源をあまり活用していなかったとも取れる。 なお、ステージ1のBGMにしても音程が違うので、FC版をプレイした人がMSX版をプレイするとその音程の違いに驚くかもしれない。

そんな理不尽で難しいゲームでも、攻略本が徳間書店から発売されたのは意外である。 おそらく、名作はもちろん話題に取り上げないゲームでも、 各ゲーム雑誌は平均的に取り上げてくれたことが大きいのかもしれない(それゆえ、駄目なゲームにぶつかる危険も大きかったが)。


このゲームは、当時のファミマガでステージ1の攻略記事が掲載されていたことをきっかけに、好意的な印象を強く受けた。 既に、FC版『ドラゴンスレイヤーW』の攻略記事も前の号で読んでいた私は、探索系のゲームが好きになった。

だからこそ、ステージのマップを見ることによって自分なりの進行が頭の中で描かれ、「このエリアではこういう順序で進もう」とか 「あのエリアではちょっとショートカットしてみようか」など、子供ながらに色々と想像していた。

しかし、このゲームがディスクソフトだったために遊ぶ機会に恵まれず、初めてプレイしたのはレビューを書く2年前だった。 その時に、いとこから多くのディスクゲームをもらっていて妖怪屋敷も含まれていたが、おそらく他のゲームに夢中でこのゲームをプレイする機会を自ら潰したのかもしれない。 画像やレビューは、ネットのレトロゲームサイトでそれより前に見たので、どういうゲームなのかはある程度わかっていたものの、ステージの詳細がなかったために難しいのか易しいのかわからなかった。

とりあえず、長年プレイできなかった妖怪屋敷を早速プレイすることにしたが、最初こそは普通に進めたものの同じ場所をぐるぐる回り続けた上に、ボスの居場所がどこなのかわからなかった。 お札の場所もややこしい場所に置いてあるし、中には井戸を使ってワープしなければならないところにも置いてあるので、私が面白いと思っていたものはこれにより打ち砕かれてしまった。

やはり、既に憧れにあった子供の記憶が美化という余計なもののために、このゲームの真の姿が見えなかったのだろう。 遂に、最初のステージすらクリアできなかった私は、攻略サイトもしくは動画が見つかるまでこのゲームを封印するしかなかった。


それから現在、ニコニコ動画でこのゲームの攻略動画が投稿されているのを偶然見つけたので、クリアまでに至るテクニックをしっかりと見た。 『迷宮寺院ダババ』のレビューにも同じことが書いてあるが、それだけニコニコ動画の影響力は大きいと思った。

まだ動画がないゲームもあるが、こういったマイナーなゲームの動画が投稿されるところを見ると、 近い将来そういった動画が出る可能性は大きく、同時に私のようなレトロゲーマーには欠かせないものといえる。

その投稿主、私のようにこのゲームに散々苦労したらしく、ステージ3の隠しはしごにはそれに対する本音が出あたりが物語っている。 私も、その動画を真似てプレイしたものの、迷宮に近い屋敷のためにかなり苦労させられた。

それでも、ラスボスを倒してクリアできたときはようやく今までの苦労が報われることができてほっとしたものの、 肝心のエンディングが『CONGRATULATION』だけでスタッフロールもなかったのを知ってただただ笑うしかなかった。



本日のまとめ



CONGRATULATIONS

(08/7/9レビュー)
伝説のスターブロブ2への掲載:2019年6月21日
◆目次に戻る◆


inserted by FC2 system