◆寺尾のどすこい大相撲◆
相撲ゲーム初有名人を冠した作品



発売日:1989年11月24日   発売元;ジャレコ   ジャンル:相撲
値段:5900円   おすすめ度:2.5(海賊の理不尽さは一体…)


1989年11月ごろ、九州場所が盛り上がりを見せている相撲界に激震が走った。 なんと、その場所の優勝者に渡されるはずの優勝賜杯が忽然と消えてしまったのである。

相撲理事会による懸命の捜査の結果、優勝賜杯の消失は何者かによって盗まれたことが判明した。 このままでは、今行われている九州場所はもとより相撲理事会、ひいては昔から続いてきた相撲という伝統に傷がつきかねない。

困り果てた相撲協会は、それを取り戻すための適任者を捜索したが、その本命となる力士の多くですら諸事情により参加できなかった。 とうとう最後の手段を使う羽目に陥った協会は、九州出身で若手ながらも実力なる力士寺尾関に白羽の矢を立てた。

協会が、寺尾関に白羽の矢を立てたのは、平成元年の初場所において横綱の千代の富士関を外掛けで破るという大金星を挙げ、 その年の秋場所や九州場所においてどちらも千代の富士関に負けはしたものの、大横綱をあと一歩まで追い詰めるという活躍を見せたためだ。 他に、同年の名古屋場所では初の技能賞を秋場所では2回目の敢闘賞を獲得するなど、若手期待の星でもあった。

相撲協会の理事長は、この時期関脇に位置していた寺尾関に全ての望みを賭けこう頼み込んだ。 「全国5箇所にある悪の土俵を制覇し、その後で優勝賜杯を盗んだ黒幕と戦い、それを取り戻してほしい。 いずれもかなりの強敵だが、君ならば勝てるかもしれない。相撲界の名誉ためにも、ぜひ君の力を貸してもらいたい。寺尾よ、頼んだぞ。」

これに対する寺尾関の答えは、「わかりました、がんばります。」という一言だけだが、その志は高かった。 かくて、九州鹿児島出身の若手力士寺尾関は、その出身地から優勝賜杯の奪還の旅に出ることになった。(日本一周編ストーリーより)

元関脇寺尾関を冠した相撲ゲームで、現役力士を主役にした相撲ゲームとしては初めての快挙である。 この後、千代の富士関や若貴兄弟の名前を冠した相撲ゲームが登場するが、著名力士が登場している相撲ゲームはたった3本しかない。 それほどまで、相撲ゲーム自体の数が少なかったか力士がゲーム出演することを嫌がったのか不明だが、関係ないとは言い切れないだろう。

ちなみに寺尾関は、2002年の秋場所終了後に引退して井筒部屋の親方に任命、 2年後の1月には錣山部屋を創設しその部屋の親方に任命(錣山親方)、2007年1月に幕内力士1人輩出しているなど弟子達の指導にあたっている。


ところで、寺尾関がなぜこのゲームの主役に任命されたのかよくわからない。 人気はそこそこあれど、当時大横綱だった千代の富士関や外国人力士の小錦関など、寺尾関より知名度や実力が高い現役力士は多くいた。 それ以前に、肖像権がかなり厳しい世の中だったので、有名人の名前が冠してあるゲームは有名人が監修しているか制作にかかわっているかの2つでしかない。

このゲームでは、寺尾関の名前こそ冠しているものの、寺尾関がゲームの制作または監修にかかわっているという事実はない。 にもかかわらず、寺尾関の名前が冠されたゲームが発売されたのは、寺尾関がこのゲームが開発される際に許可を出していたものと思われる。

寺尾関は、意外にもマスコミやテレビ番組などに対して好意的であるが(今でもテレビ番組にゲスト出演中)コンピューターゲームについても好意的だったらしく、 開発元の要請(許可申請ともいう)についてもあっさり承諾したのかもしれない。


このゲームを開発したのは、知名度が微妙な位置に合ったジャレコ。 ジャレコは、ROMカセットのスポーツゲームに『燃えろ!!』をタイトルに冠していて、燃えプロシリーズはもちろんのことテニス、サッカー、柔道と続いていた。

もし、寺尾関の許可が降りなかった場合は『燃えろ!!大相撲』というタイトルになっていたのかもしれないが、 あっさり承諾する可能性は高かったと思われるので、よもやそういうタイトルをつけて発売することはなかっただろう。

また、『どすこい大相撲』というタイトルになっているのも、テクモの『つっぱり大相撲』を意識したものと思われる(というよりそれを避ける狙いがあった可能性が高い)。 相撲ゲームの基礎は、既につっぱり大相撲でほぼ確立しているため、ジャレコとしても相撲ゲームのタイトルにはさぞ苦労したことが想像できる。 寺尾関の許可がなければ、主役の実在現役力士はなく架空もしくはパロディの力士が登場し、明らかにつっぱり大相撲の二番煎じになっていた可能性がある。

もちろん、後述するモードや一部の内容の存在がつっぱり大相撲と差別を図っているものの、相撲ゲームはゲージとコマンド技でほぼ成り立ってしまうので、 後から出す相撲ゲームは差別化を出すために色々な要素を出さなければならずその苦労がよくわかる。


ジャレコの場合は、使用できる投げ技を最大4つまでしか持てず最初は2つ(上手投げと掬い投げ)しか技を持っていないので、 新しい技を習得するには相手力士との勝負に勝って手に入れるポイントを貯めながら、そのポイントに見合った技を『購入』していくことになる。 4つしか所持できないのは、十字キーの押す方向で1つの技を出すことになっているためで、つっぱり大相撲のように複雑なコマンド入力で技を出すことはしなくなっている。

いわば、これから相撲ゲームを始める人にもわかりやすいやり方にしているといえる。 今所持している技をポイントに換算できるので、買いたい技の購入ポイントに達しなかった場合にもその手段は有効となっている。

しかし、つっぱり大相撲から始めた人にとっては不満が残る内容であり、技の数の制限は言うに及ばずバックドロップやジャーマンスープレックスといったプロレス技がなく、 明らかに純粋な相撲ゲームとなっているため、土俵際に追い詰められての大逆転勝利のような破天荒な展開が見られなくなってしまっている(というより純粋な相撲ゲームを作りたかったという考えはあるだろう)。

これが、相撲ゲームの本来の姿なのだろうが、別の言い方でいうと地味以外何者でもない。 それを知ってか知らずしてか、当時のファミマガではもろ出しができるというウソ技を掲載、案の定だまされた人が続出している。

また、対戦に勝利して得られるポイントもたかが知れており、一気にポイントを稼ぐには優勝するしかない(入手できるポイント自体勝利数と上乗せされる)。 一番安い掬い投げ(50ポイント)を購入するにも、最低1回優勝しなければならない上に掬い投げは既に所持しているため、 実際に一番安いポイントで購入できる技が100ポイントのつり出しからなのは、何度も優勝しなければならないためになんともつらい。

やや自由に見れるパスワードは、文字数が少なく入力間違いが起きにくいのが幸いで、こつこつ貯めたポイントが丸々失われる心配は少ないものの、 どうせなら勝利獲得ポイントを大幅に増やすべきではなかっただろうか(優勝では100ポイント、普通の対戦では5ポイントなど)。

実のところ、このゲームでは初期装備の技でも十分渡り合えるために自分の腕によるものが大きいが、やりこんだ分だけそのまま通用できる可能性があり、 本格的に技購入を利用する場合となると技をポイントに還元してそれを別の操作欄に入れる程度だ。 外掛けといった高いポイントの技は、やりこんだ人にとって単なるお遊びといえるだろう。


もう1つこのゲーム独特の要素があり、それが日本一周編というモードだ。 ストーリーにもあるように、寺尾関を主役に日本各地にある5つの土俵を制覇しつつ(ボス格の力士と勝負して勝つ)、奪われた優勝賜杯を取り戻すのが目的。

九州をスタート地点に、最終目的地の北海道まで進むわけだが攻略手順は特に示されておらず、 一応北海道の土俵にいる力士の能力(体力)は一番高いものの、やりこんだ人の場合は最初に挑んでも勝てる可能性はある。

寺尾関が対戦する力士は、土俵を守るボス格力士の他に道中に出くわす一般力士達も含まれていて、彼らに勝つと必ずアイテムを入手できる。 体力を上げたり勝利ポイントがいつもより多くもらえたりするが、クリアした土俵で技を買ったりパスワードを取るために必要な巻物や、別の陸地に行くために必要な切符がもらえることもある。

いうなれば、相撲ゲームとRPGを混ぜ込んだものといえるが、たとえ勝負に負けてもスタート地点に戻されるだけになっているので、 ゲームオーバーになったりせっかく貯めこんだポイントが減らされるといったペナルティの要素は全くない。

一見すると簡単そうに見えるが、このモードのある要素がかなりの曲者になっている。 というのは、切符を使って別の陸地に移動中に突然海賊が接近してくるからだ。

接触すると、割符を見せるよう迫られ正しいものだとそのまま航海できるが、間違った割符を見せると船を沈められた挙句スタート地点に戻されてしまう。 最初ならまだいいが、北海道まであと少しというところで海賊に遭遇してしまい、間違った割符を見せて船を沈められるという理不尽な仕打ちにショックを受けた人はいるだろう。

しかも、正解の割符がランダムに加えて割符自体勝負に勝って入手しなければならず、入手確立も多くのアイテムの登場により低くなっている。 要は、いきなり北海道から挑戦するという無茶はせずに、地道に九州から順に攻略していけばいいのだが、そもそも海賊のイベントを導入したジャレコの心理が読めない。 切符の導入も、入手確立の不安定さからこのアイテムを導入せずに、港に入ったらすぐ別の陸地に移動できるやり方を設定するべきではなかったか。

さらに、わらじを手に入れそこでランダムにアイテムを入手できるポイントがいくつかあるが、 爆弾を弾いてしまうと強制的にスタート地点に戻されるという、これもプレイヤー側からすればまさにぶち切れる要素なのはいうまでもない。


そんな理不尽を乗り越えてクリアできたと思いきや、今度はつっぱり大相撲よろしく前頭の最下層(13枚目)から横綱へ、最終的に横綱で優勝を目指すことが目的となる。 最初から選べる昇進編のことで、どちらも前頭13枚目からはじめなければならない。

違っているところは、寺尾関以外の力士をプレイできることでこれも一応つっぱり大相撲とそっくりだが、なんと登録文字数が31とつっぱり大相撲の45文字と比べてかなり少ない。 おそらく、日本一周編を取り入れたばかりにつっぱり大相撲より容量がかなり多くなっているものの(2M)、そのモードに容量を使いすぎたためなのだろう。

これは、自分の作った力士よりも寺尾関で挑んだほうが面白いだろう。 先に理不尽と書いたが、日本一周編で入手できたものの中で昇進編に引き継がれるものはポイントと体力の2つで、 特に体力はつっぱり大相撲同様投げ技において有効で、体力が高ければ投げられることもなくなり逆に相手を投げやすくなる。

体が点滅すれば、体力が少なくなっていても逆転が可能なのだが、先の技の所持制限を考えても体力の設定と合わせて、つっぱり大相撲の要素からあまり抜け切れていない感じがする。 改めて、新しい相撲ゲーム制作の難しさを示した作品だが、寺尾関を主役にした思い切りさはよく、日本一周編にしても理不尽な要素を取り除けば評価は上がったといえるだろう。


これは当時のファミマガで読んだことがあり、ファミマガ自体はなくしてしまったが内容はある程度覚えている。 RPGに夢中になっていた私は、日本一周編がRPG風になっているという記事を見たので、このゲームをプレイしてみたいと思った。 既につっぱり大相撲をプレイしていた私だったが、何しろ2年前にことだったのでそのことなどすっかり忘れてしまっていたことも、このゲームは面白いと思ったことの1つなのかもしれない。

なお、この時から大相撲に興味を持ち始め、このゲームの主役である寺尾関のファンにもなった(一度も生の寺尾関を見ることはなかったが)。 彼が、阪神ファンであることを知ったのはレビューを書く数年前だが、それでも相変わらず気さくな寺尾関に好感を覚えた。

現役時代でも、十両に降格しつつも必死にがんばった彼のおかげで、幕の内の頃は全く見なかった十両の取り組みを真剣に見た。 大相撲のテレビ中継をあまり見なかった現在でも、車にいる場合はラジオで相撲中継を聴いている。


さてこのゲームを初めてプレイしたのは、同じ相撲ゲームのつっぱり大相撲をレビューした後だった。 いつも立ち寄っているゲームショップで、カセットのみ購入したのだが5年前に大手レトロゲームサイトで、 このゲームのちょっとした紹介と画像を見たので特に普通にプレイするだけで事足りるだろうと思っていた。 事実、昇進編は横綱になってさらに優勝しなければならないというものだから、体力ゲージとゲーム画面を見れば明らかにつっぱり大相撲のそっくりと思えても仕方がないと思った。

日本一周編については、昔からプレイしたかったというモードだったので、昇進編をある程度プレイしてから挑戦してみるとこにした。 しかし、その高かった心意気はプレイする時間が長くなるほど、あまりのできの悪さに下がる一方だった。 特に、海賊に遭遇した時は何とか見逃してもらえますようにと必死に祈ったが、海賊に接触して半数ほどは割符が違ってしまって沈められたため、正直やめようかと思ったことが何度もあった。

おまけに、わらじを使ってのアイテムのランダム選択で、いいアイテムを手に入れようとして爆弾を選択してしまったり、 うっかりあいて力士に負けてしまってどちらもスタート地点に戻されたりと、ストレスはますます高くなる一方だった。

それでも、ポイントを貯めて高価な技を手に入れる喜びと、自分の腕しだいでボス格の力士をあっさりと破る爽快さがあったことで、かろうじてプレイできる精神は維持できた。 ちなみに、いきなり北海道からという無謀はやっておらず、地道に九州から北海道へと攻略していった。 そして、北海道の土俵を制してこの後に出てくるラスボスの力士にも勝って、ようやくエンディングが見れるのかと安どの表情を浮かべた。

だが、この後昇進編に強制的に移行され、集めたポイントと体力はそのまま残っていたものの、 エンディングもなくいきなり昇進編に進まされた私は思わず幻滅してしまい、ある程度プレイしてやめてしまった(日本一周編プレイ前に昇進編はプレイしている)。



本日のまとめ



只今の決まり手は 上手投げ
寺 尾 の勝ち

(08/7/7レビュー)
伝説のスターブロブ2への掲載:2019年6月21日
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