◆火の鳥 鳳凰編 我王の冒険◆
シリーズの名作をゲーム化



発売日:1987年1月4日   発売元:コナミ   ジャンル:ACT
値段:5300円   おすすめ度:4(鬼瓦の存在を物語るゲーム)


その物語ははるか昔、現在から1300年近く前の奈良時代中期におけるもの…。 この頃は、聖武天皇の命により吉備真備と橘諸兄らが東大寺の大仏建立に力を注いでいました。

こんな時期に、聖武天皇が大仏建立を行った理由は、相次ぐ旱魃や飢饉はもちろん天然痘の流行、 豪族達の反乱といった社会不安といった悪い出来事が多く続いたために、これらを取り除いて社会を安定させたいという願いがあったからです。 その大仏建立においても、真備と諸兄が影ながらに権力闘争を行っているなど、大仏が出来上がって以降の安定は見えませんでした。

そんな中、大仏建立の指揮に当たる2人に隠れて、権力に翻弄される2人の仏師がいました。 そのうちの1人である我王は、その昔盗賊として近隣を恐怖に陥れ、何の罪もない人々を殺した挙句金や宝物を奪っていました。

そんなある日、ほんの小さな誤解から最愛の妻を殺してしまった我王は、苦悩の末に鬼瓦を作り旅をする僧侶として生きることを決意します。 その旅は決して楽なものではありませんでしたが、彼が犯した罪を償う以上避けて通れない道だったのです。

一方その頃、奈良の都平城京では聖武天皇が「火の鳥の彫刻を彫る事ができる者を探せ」と、多くの民に対しておふれを出しました。 これは、大仏建立には及ばないものの聖武天皇が国家安泰のために打ち立てた一大事業の1つでした。 適任者の捜索は難航を極めましたが、当時各地を旅していた鬼瓦彫りの僧侶我王に白羽の矢が立てられました。

我王は、苦心の末にこの依頼を受諾することを決意、鬼瓦制作の経験を生かし早速火の鳥の彫刻を始めました。 途中多くの人物に支えられ、特に火の鳥の彫刻のモデルとなった火の鳥自身までもが我王を支え続けたのです。 過去の過ちに苦しみながらも、我王は精魂にかつ丹念に込めて彫刻彫り上げ、聖武天皇の期待に沿えるようになっていきます。

そして、苦労の末にようやく火の鳥の彫刻が完成し、大仏建立とあわせて聖武天皇が掲げた国家安泰は完成したかに見えました。 ところが、その彫刻を何者かによって盗まれてしまったため、我王はそれに関する情報を集めました。 その結果、その彫刻は盗んだ人物はわからなかったものの、それを16枚に分割してどこかに隠した事が判明しました。

我王は、ばらばらになった16枚の破片を集めてもとの1つの彫刻に戻すべく、再び旅に出ることにしました。 その旅は今までより過酷なもので、遂には我王が存在しない時代まで破片を追い求めることになるのです。 果たして我王は、無事に16の彫刻を手に入れ火の鳥の彫刻を完成させる事ができるでしょうか…。


コナミのアクションゲームで、前年の『ツインビー』同様新年最初に発売されたゲームである(ファミコンのみに限定すれば)。 版権作品の1つである本作は、故手塚治虫氏原作『火の鳥』をゲーム化したものである。 それも、人気が高い鳳凰編をゲームにしたことで、その手のファンの期待は高まったのだろう。

火の鳥とは、手塚氏が若い頃から描き続けた漫画で、(休養期間をはさみながら)30年以上描き続けていたという壮大な物語である。 『描き続けていた』というのは、手塚氏が1989年に心半ばで亡くなられたために未完となってしまったことによる(構想中のエピソードがあったため)。

また、30年以上描き続けている漫画といえ1つのエピソードを30年にわたって描いたのではなく、 先の鳳凰編のようにいくつかのエピソードに分類されているので、1話完結風もあれば1年以上そのエピソードが続くこともある。


この壮大な物語は、エピソードごとにラジオドラマや映像化にされ、多くのファンを呼んだ。 鳳凰編は、既にNHK第1で連続ラジオ小説として1978年に放送し翌年には舞台化されているが、映像化となると1986年の映画が初となる。

特に、人気の高かった鳳凰編が映画になり、アニメ映画監督のりんたろう氏がこの映画の監督をやることで、ファンの期待はかなり高まったといえる。 しかも、それに便乗してFCとMSXの2つのハードにゲームとして登場したのだから(FC版が先に登場MSX版は同年4月発売)、ファンの期待はさらに高まったことは想像できる。

しかし、映画の評価は決して高かったものとは言えず、ゲームのほうも鳳凰編をテーマにしているものの微妙な設定になっている。 映画については、メインテーマの1つのなった我王が僧侶になった要因が描かれていなかったことが大きく、突然僧侶になった我王に否定的な意見を持つファンが多かった。 おそらく、上映時間の短さが原作漫画の全てを映画化にできなかったのだろう。

ゲームについても微妙なもので、原作こそ鳳凰編なのだが色々な要素により原作とは完全にかけ離れてしまっていて、2作とも内容が大幅に異なっている。 MSX版はなんと縦STGになっているので、評価はそこそこ上がった分原作のファンにしてみれば、さぞ複雑な心境だったことに違いない。


これから紹介するFC版も、原作漫画をイメージしながらも内容は大幅に異なっている。 ジャンルはACTと、MSX版のSTGと比べて幾分まともになっているが、やはり原作の鳳凰編を軽視していることに変わりはない。

ストーリーは、前半部分だけ原作を意識しているが、後半になるとこのゲームのオリジナルストーリーに切り変わってしまっている。 そもそも、火の鳥の彫刻を作るというエピソードは存在しないのだ。

他に、我王と茜丸との対決の図式も存在せず、キャラクターについても登場しているのが我王と火の鳥しかいないのだ(火の鳥はエンディングで登場)。 あくまで、コナミのオリジナルゲームと考えたほうが、原作ファンにとってプレイしやすいといえる。

ファミマガでは、評価が18点台と合格点ぎりぎりの低さだったが、 これは『リンクの冒険』や『ドラゴンクエストU』といった超大作が立て続けに登場したために買うのを手控えたことと、先にも書いた原作の再現の低さが大きかったようだ。 確かに、再現度の低さは火の鳥のような長編では問題あるようで、それが原因なのか火の鳥のゲーム化は今のところFCとMSXの2作しかない。


しかしそこはコナミ、ゲームそのものの面白さでは他の作品を上回っており、版権作品に限定すればなおさらコナミのセンスが光っている。 それは、コナミ発の版権ゲーム『グーニーズ』で既に証明しており、翌年の『鉄腕アトム』のFCソフトの制作にコナミが選ばれたのは、 火の鳥の面白さを一部のファンもしくは手塚プロダクションに認識してもらえたという事情があるのかもしれない。

なお、2作ともコナミが開発・販売していたが、ジャンルも違えばそれだけ内容も違うという衝撃は開発チームが別々なら納得いくだろうが、 短期間でまるっき違う内容のゲームを出したことは事情をある程度把握しても、衝撃をさらに増大させているといえるだろう。

映画版には及ばないものの、色々と話題を起こしたFC版は横スクロールのACTで、『スーパーマリオブラザーズ』の影響が強い。 ステージのところどころにあるワープや穴に落ちたら1ミス、ステージの天井部分に行けるなどスーパーマリオをプレイしていればそれらしき雰囲気は出ている。 ステージのクリアも、ポールから彫刻の破片に変わっていると思えばいいだけだ。


ただし、我王の特徴がゲームの独創性をアピールしているが、その特徴とは武器の鑿(のみ)と鬼瓦の2つのことである。 鑿は、下以外の上左右の3方向に発射できる一方で距離は短く、一部のブロックを壊せたりアイテムの入ってる宝箱を開けたり、敵を鬼瓦に変えることができる。

その鬼瓦は最大99個までストックされ、主に我王の足場を作るのに利用される。 我王のジャンプは、性能が低くブロック1段登るのが精一杯で、うっかり足を踏み外して落とし穴に落ちることも珍しくないので、この状況でも出せる鬼瓦はまさに我王の命綱といえる。

ステージの天井裏に行くためにも鬼瓦は欠かせず、敵の構成を尻目にしながら天井裏を駆け抜けるのはまさに爽快だ(アイテムが手に入らない欠点はあるが)。 確かに爽快だが、そこは多くの名作ゲームを生み出しているコナミ、そう簡単には終わらせない。

破片は、必ず部屋にあり決して天井裏に存在しないので、後戻りができないこのゲームでこれをやると間違いなく詰まってしまう。 セレクトを押せばリトライできるが、1ミスと同じなので楽に進んだ結果痛い目にあったプレイヤーの数は計り知れないだろう。

だが、鬼瓦には別の使い道が色々あり、その中で有名なのがボスの動きを制限するというもの。 各ステージの最後には、ザコがうろうろしているか画面外から現れる仕掛けを撃退しながら破片を回収するが、ステージの最後の大半はボスとの決戦だ。

ボスは、我王が一定の地点を過ぎなければ動かないので、その間に鬼瓦でこちらが攻撃しやすい態勢を整える、または敵の動きを封じて楽にクリアするのが定番になっている。 我王が、どんな敵にダメージを食らってもライフ1削られるだけだが、ステージをクリアしても体力は全回復しないので、鬼瓦は我王の盾といえるのかもしれない。


各ステージに用意されているワープも、このゲームの特徴の1つでありクリア必須でもある。 このゲームでは舞台が3つに分かれていて、最初の大和編は8ステージで次の来世編は5ステージ、3つ目の太古編は3ステージとなっていて、 大和編はステージ7をクリアし来世編はステージ5を、太古編はステージ3をクリアすると各時代のステージ1に戻される。 太古編が最後の舞台になっていないのは、最後の破片があるステージが大和編にあるためで、プレイヤーは16枚の破片を集めるためワープを繰り返さなければならない。

攻略手順としては、大和編でステージ1〜7をクリアして1のワープゾーンに入り、来世編でステージ1〜5をクリアして1のワープゾーンに入り、 太古編でステージ3に入りこの後に1と2をクリアして3のワープゾーンに入って大和編のステージ8に向かうのが一般である。

つまり、この手順を知らなければ延々とステージを回る羽目に陥るので、しゃがみジャンプの連続でブロックを壊して現れるワープゾーンには苦労を強いられたプレイヤーはいるだろう。 アクション自体は簡単なのだが、ワープゾーンの存在がこのゲームの難易度を上げているので、もう少しわかりやすい場所に置いたほうがよかったのではないだろうか。

かなり苦労する部分はあるものの、クリア達成に疲れたプレイヤーを癒してくれるのがBGMの存在で、ROMカセットながらディスクの音源に負けない音質を持っている。 各舞台に専用のBGMがあり、そのステージに見合った雰囲気を出しているが、ステージクリア直後のBGMはディスクの音源でも入っているかのようなきれいな音を出している。

エンディングのBGMは、このゲームの音楽の最高の出来と言い切れるくらいすばらしく、映画版のエンディングテーマをここまでFCにアレンジしたのは見事だ。 ちなみに、BGM制作には3人いてその中にはコナミ作品のBGMに定評の山下絹代氏がいるが、ステージクリアやエンディングといった高音質のBGMを制作しているのはおそらく彼女だろう。


このゲームは、発売当時からいとこの家でかなりやりこんだほど思い出が深い作品だった。 ただし、原作の漫画版についてはまったく読んでおらず、同時期に放映された映画版も全然知らなかった。 その頃の私はまだ子供だったので、そのとき見ていた映画といえば『ごんぎつね』とか東映まんがまつりのアニメ作品だった。

したがって、実際に原作漫画版を読んだのは中学生になってからで、鳳凰編においてはそれよりかなり後だった。 内容については、中学生に初めて読んで以降再び漫画版を読んだことがないため、かなりうろ覚え程度の記憶しかない。 とはいえ、かつて盗賊だった我王が僧侶になる経緯や、我王と茜丸の2人の仏師の正反対の結末は、あまりにも衝撃だったことを覚えているが、そのエピソードを読んだのは高校生になってからだったが。

久々にゲーム版をプレイしたのは大学生になってからで、その頃は漫画版のあらましを覚えている私はFC版のあまりの改変に驚きを隠せなかったが、 ゲームの出来が面白かったので別にFC版を批判することはなく、むしろ小さい頃と同じく楽しんでプレイしていた。

しかし、大和編はステージ7までクリアしたもののワープの存在を知らなかったために、延々と大和編を回った挙句別のステージに行くことができずにゲームオーバーになってしまった。 カセットだけ購入していなかった私が悪いのだが、これ以降このゲームをプレイすることはしばらくなくなった。

さらに数年後、別の言い方で言えばレビューを書く2年前、偶然このゲームの攻略サイトを見て久々にプレイすることにした。 そのとき、ワープゾーンの存在とそれに関連する新たな舞台の存在に驚いた私は、子供の頃からクリアできなかったこのゲームをクリアしてみようと思い、大学時代に購入したカセットを引っ張り出した。 腕は少し鈍っていたものの、元々簡単な部類に入って難しいのはワープの存在程度だったので、ミスこそあれどゲームオーバーにはならなかった。

ようやくエンディングを見たときの感想は、絵が完成して火の鳥が飛び立つだけというものだったが、その描写が1Mとは思えないほど美しく描かれていたことに感動を受けた。 それを盛り立てているのはBGMの存在で、その時聴いたBGMは頭から離れないほど美しく、もしかしてROMカセットに音源チップでも入れてるのではないかと疑ったほどだ。 また、クリアしたときのBGMも昔は特に感じなかったものの、改めて聴くと短いながらもエンディングに負けない音質には感動した。

ところでレビューを書いた現在、攻略内容を覚えていた私はあっさりクリアしてエンディングも見たが、その時のスタッフの名前にBGMの担当者の1人が山下絹代氏と思わしき名前が出ていることにいまさら気がついた。

山下氏といえば、多くのコナミ作品のBGMを手がけてきた人で、現在同時期に私がプレイしている『アルマナの奇跡』のBGMが山下氏であることを知っていたが、 こんなすばらしいBGMを作り出せた人物がまさか火の鳥のBGMを手がけた1人だったことに驚きを隠せなかった。 ここにおいて、コナミがFC時代にBGMの質の向上に躍起になったのも、まさに山下氏がいたからこそできたことなのかもしれない。



本日のまとめ



火の鳥、立つ

(08/7/5レビュー)
伝説のスターブロブ2への掲載:2019年6月19日
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