◆たけしの挑戦状◆
一番よく売れたクソゲー



発売日:1986年12月10日   発売元:タイトー   ジャンル:ACT
値段:5300円   おすすめ度:1.5(あまりにも早すぎたゲーム?)


お笑いタレントと同時に、映画監督でもある北野武ことビートたけしさん監修によるゲームソフト。 今もゲーム雑誌やネットなどで、このゲームに対して特異的な見方をしている。 もっともそれは、内容がすばらしいという意味ではなく著名なクソゲーとしての価値観なのだが。

これについては後述するとして、当時のたけしさんは多くのバラエティ番組に出演し、お笑い芸人の地位を確固たるものにしていた。 同時に、FCのほうも誕生して3年しか経っていないにもかかわらず人気も格段に上昇、1986年には流行語の1つに『ファミコン』が選ばれた。

かなり人気の出ているもの2つを掛け合わせれば、どんなものになるかは当時の人では予想つかなかったらしく、 その時FCにはまっていたたけしさんが監修を行ったということで、各雑誌ともこのゲームに対して次々と紹介していった。 それは、もしかしたら超大作になるのではないかという期待から生まれたもので、CMもたけしさん本人出演ということもあって否応なく高まった。

ところが、発売前日にかの有名なフライデー事件が勃発、たけしさん以下事件に関わったたけし軍団の多くが逮捕された。 この事件は、日本列島を震撼させるほど衝撃的で、たけしさん達は半年間芸能活動を休止したり、 事件と間接的な関わりがあったであろう写真週刊誌は多くが休刊に追い込まれ、休刊こそならずも大幅な落ち込みがあった。

特に、フライデーの発刊元である講談社はその影響がかなり大きく、逆に週刊ポストでたけしさんのコラムを掲載していた小学館は、 たけしさん支持を表明したこともあってそれほど被害は大きくなく、てれびくんやコロコロコミックなど小学館系雑誌の大人気と テレビマガジンとコミックボンボンなど講談社系雑誌の不調と事件の影響も合わさって、 小学館は講談社に最後のとどめを刺す寸前にまで追い詰めたのは容易に想像できる。

しかし、その時の小学館の詰めが甘かったのだろう、講談社は息を吹き返し再び小学館に勝る勢いを見せていたが、2008年現在では小学館が講談社を売り上げなどの差をやや縮めている。

当然ながら、たけしさん監修のゲーム発売も危ぶまれ、CMの放送も中止されるのではないかという憶測も広がっていた。 だが、予定通りに翌日発売することができ、CMも打ち切られることなく複数バージョンが放送された。 これは、事件が発売前日であったと同時に、その時には多くのカセットがおもちゃ屋などに多く在庫が置かれている状態だった為だと思われる。

さすがに、この事件は起こらないだろう出来事を事件にした講談社の致命的なミスもあったし、 日本人の多くはたけしさん支持が多かったために、タイトーとしても事件で発売を中止するわけには行かないという事情もあっただろう。


かくて、混乱の渦中にありながら発売した本作だが、蓋を開けてみれば事件に負けずプレイヤーを中心に大混乱を引き起こした。 このゲームの目的は、南の島にある宝を手に入れることなのだが、ゲーム中にそのようなものが明確にあるわけがなく、プレイヤーはどうすればいいか路頭に迷ったに違いない。 まず最初に、このゲームがクソゲー呼ばわりされる原因がそこにある。

次は、宝のありかを示す地図を手に入れなければならず、カラオケスナックで飲み物を2杯飲んで3回目を断ってカラオケで3回とも「うまい」と言われて、 この後に登場するやくざを叩きのめして更に後に登場する老人から地図をもらう段取りとなっている。

やはりこれも、入手までの経緯が明確に示していない上に、カラオケはなんとUコントローラーのマイクを使用しなければならず、 マイク機能がないニューファミコンではUコンの下とAを同時に押して、吹き出しを出さなければならない。

これは、当時有名だった歌ってほめられることの否定を意味し、Aを適当に押していればいいだけのことで、曲は『雨の新開地』がやりやすいという。 CMでも、たけしさんがUコンマイクで歌っていること自体、1つのヒントになっている表れだ。

これに加えて、老人からもらった宝の地図はまっさらで、選択肢はあれどどれが正解なのかヒントはなく、しくじればまたカラオケからやり直しという不条理を味わなければならない。 『にっこうにさらす』で1時間か、『みずにさらす』で5分ほど待ってUコンマイクで叫ぶと地図が出てくるものの、 ボタンを押さずに待たなければならないし後者は10分以上だと紙が溶けてしまうので、待つこと自体現在は色々な暇つぶしのものがあれど昔はそんなものはほとんどなく、 地図を手に入れた後にそれをくれた老人も倒さなければならず、これを無視して最後まで進んだ挙句その老人に宝を横取りされてゲームオーバーになってしまう。

地図を入手する経緯も、クソゲーの1つと考えてしまうだろうが、一般人から得る会話からそういったヒントがわずかながらあるため、臆せず話しかけると有力な情報が入手しやすくなる例である。


その一般人、序盤からやくざや警官が攻撃を仕掛け、終盤では全て敵だらけという状況で、プレイヤーもそれに負けじと彼らを殴り倒して金を手に入れるという、 プレイヤー側から見ればまさにバイオレンス以外何者でもない。

しかも、『はいはい』とか『おおきなこえをださないでくれよ』といった無駄話がほとんどで、攻略に役立つヒントを手に入れることもかなり厄介といえるだろう。 だが、『がんばれゴエモン』シリーズといった後の作品に、そのようなシステムが搭載されていることを考えると、ある意味早すぎた設定なのかもしれない。 もっとも、フィールド内にいるキャラはほとんど敵なので、会話しかできない一般人を殴って金を手に入れる様は、現在のゲームと比べてかなり衝撃的だ。

衝撃的といえば、ゲーム本編前のパスワード画面のことで、ゲームを始める前にゲームオーバーになってしまうというものだ。 パスワードを間違えるか、パスワード選択画面で『おやじをころす』を選ぶの2つで、後者は「ぎゃー ひとごろしーー」という台詞とともにこちらが殺されてしまう。 その後のゲームオーバーにしてもなぜか葬式スタイルで、こんなスタイルのゲームオーバー画面は後にも先にもこれだけではないかというほどシュールである。

ゲーム本編前のゲームオーバーにしろ葬式画面のゲームにしろ、たけしさんのギャグやナンセンスが存分に詰め込まれた結果といえるだろうが、 意外にもゲーム前のゲームオーバーについては、他のゲームにも別の形で受け継がれている。


何とか、目的地の1つである南の島にたどり着いても、行動を1つでも誤ればゲームオーバー、もしくは日本に強制送還される羽目になる。 後者については、プレイヤーが勤めている会社の社長または妻に呼び戻されることで、会社を辞めることと離婚することの2つでそれが取り除かれる。

これも、クソゲーの1つとして取り上げられていることがあるが、たけしさんとしてはやめるときは男らしくびしっとやめるべきだという考えがあったのだろう。 とはいえ、せっかく苦労をしてまで宝のある島までたどり着いたのに、社長や妻に先回りされた挙句日本に強制送還されてしまうのは、ショックを一身に受けた感じがある。

さて、先にも書いた宝島にたどり着くまでの苦労とは何かというと、宝の島にたどり着くまでの経緯であり、これこそがプレイヤーの大きなトラウマの1つとなっている。 南の島にたどり着いて、リゾートセンターでハングライダーを利用しながら宝の島に向かうのだが、この場面に限りジャンルがSTGでそれもかなりむずかしい。 弾は1発限りで、それが画面外に出なければ次の弾が発射されず、上昇は気流に乗らなければならない上に敵にぶつかれば即座にゲームオーバー。

このモードについてたけしさんは相当後悔したらしく、「どうせなら、プレイヤーを楽にさせる要素を盛り込むべきだった。」と攻略本で述べており、 目的の捜索と並んでクソゲーと呼ばれる理由の最大の理由として挙げられている。

なお、宝の島を無視して先に進むと赤の国という、旧ソ連のパロディと思われる場所にたどり着くが、そんな達成感を得たプレイヤーを待っているのはゲームオーバーのみ。 これも、たけしさんのシュールなネタの1つなのだろうが、途中に出てくるUFOや戦闘機とハングライダーで戦うこと自体シュールなのかもしれない。

このゲームの特徴の1つでもある『ひんたぼ語』も、プレイヤーの間で話題になった。 日本語の文字の順序を後にずらす(例あ→い、と→な等)この言語は、カルチャースクールでひんたぼ語を学ぶとお目にかかれないが(普通の日本語になるため)、 それを学ばずに先に進んだプレイヤーにとってバグなのかと戸惑らせ、同じスクールで学ぶちゃんたら語という紛らわしいものも合わせて、このゲームの世界を表しているものといえるだろう。 それが功を奏してか、現在でもこの言語に好意的な考えを持つ人がいる。


この他にも、パチンコが4000発まで絶対出せないことや南の島で金を預けると2度と戻ってこないこと、 日本の街にやたらと攻略に関係のない店がやたらと出ていることなど、このゲームを語ればきりがないほどいろんなネタが満載している。

セレクト技も、ネタはもちろん攻略上でも欠かせないものとなっていて、セレクトを押してステータス面にした後にゲーム画面に戻すと、なんと敵が1人もいなくなる。 奇妙な技だが、敵が大挙登場する終盤には何かとお世話になった人は多いだろう。 もっとも、敵をやっつけて先に進むのがアクションゲームの基本なのに、敵を消して先に進むのはアクションゲームとして少々問題があるのではないだろうか。

これらを挙げただけでも、当時は間違いなくクソゲー確定だったが、それらの要素に勝るとも劣らないクソゲーの要素が1つある。 それはエンディング画面で、散々苦労しながらようやく宝の山を見つけたのに、この後出てくる製作主のたけしさんのお褒めの言葉は「えらいっ!」のみで、 5分待つともう一言もらえるのだが、今度は「こんなゲームにまじになっちゃってどうするの?」というもので、 ここまでくるともはや潔いと言う言葉か思い浮かばず、こんな仕打ちにぶちきれたユーザーの怒りは計り知れない。


スタッフロールもなく、エンディング専用のBGMもないことも、このエンディングのやる気のなさとユーザーを小馬鹿にしたものであることが見て取れる。 当時の週刊少年ジャンプのファミコン神拳110番で、メンバーの一人だったキム皇こと木村初氏は、 このゲームに対して名前こそ出さなかったものの痛烈に批判していたことから、いかにこのゲームに対して散々な目にあったことがうかがい知れる。

総合的に、今もクソゲーと呼ばれている作品だが、好意的な評価を下す人が現在にもいたり、 昔コロコロコミックで連載していた『ファミコンロッキー』でこのゲームの攻略が1回(1話完結)だけあったりと、いい思い出にもなった人もいた。

そもそも、ゲーム開始前のゲームオーバーや目的探し、一般人を倒して金を得るというこのゲーム独自のシステムは、後の人気ゲームにも受け継がれている。 当時は、クソゲーだった要素でも今を考えればかなり斬新な要素でもあったのだ。

今なら、当時の100万本近く以上に売れるはずなのだが、昔の売上げは宣伝とたけしさんの人気が大きく、 たけしさん自身このゲームの悪い評価の多くを真に受けてか、たけしさんがゲームを手がけることがこれ以降なくなったのは残念だ。


私の初のプレイはいとこの家で、いとこのプレイに子供ながら感動を受けた時、一度このゲームをプレイしてみたいという気持ちになった。 その後、一般人を手当たり次第殴って金を手に入れたり、その金で店に立ち寄ったりとなかなか楽しめた。

しばらくしてこのゲームの攻略に取り掛かり、いとこのプレイを真似て会社の辞職や離婚など、大人になってからわかるつらいことをあっさりと成し遂げ、 カラオケでUコンマイクをオンにして適当に声を出していたら、その時に出てくるやくざを叩きのめして老人から地図をもらった。

この後、日光にさらして1時間待たなければならなかったが、いとこにはもう1台テレビに加えてツインファミコンがあったので、一緒に他のゲームをプレイしながら1時間待っていた。 やるべきことも、いとこの真似で全てやり遂げ、南の島に到達し必要なことをやってからハングライダーに挑戦することにした。

だが、いとこも相当苦戦したように私もこの場面がかなり難しく、あと一歩で宝の島に到達できたところを敵に狙い撃たれたり着地に失敗したりと、 結局当時はこのゲームのクリアはもちろん宝の島すら入れなかった。


ただ、パスワードでいきなり宝の島につくことはできたので、それをつてに宝の居場所まで一直線に進んだ。 そして宝を見つけてクリアしたわけだが(老人はすでに撲殺ずみ)、たけしさんのプレイヤーを馬鹿にしたエンディングなどどうでもよく、このゲームをクリアしたことだけ満足だった。

それから、約10数年後の大学生活の時にもこのゲームをプレイしたが、内容をすっかり忘れていた私は子供の時よりも謎解きに苦戦し、 やっぱりハングライダーの場面でやられてしまうのが関の山だった。

現在、久々にこのゲームをプレイしたわけで、今回は攻略サイトも色々あったおかげでさくさく進めたものの、 やはり多くのプレイヤーのトラウマの1つであるハングライダーに悩まされたものの、サイトに載っている攻略法でどうにか進めた。

あとは、いつものように宝の場所まで進むわけだが(相変わらず宝の地図は日光でさらした)、今回はセレクト技で敵を消して先に進めたので、 昔に感じた難易度の高さはあまり感じなかったものの、時間が無駄にかかった。

そしてクリアとなって、最初のたけしさんのエンディングメッセージを見て5分待ってからもう1つのメッセージを見て、 そのメッセージは初めてみたけれどもプレイヤーが怒り狂うものだということが良く判った私は、思わず苦笑いをしてしまった。



本日のまとめ



こんな げーむに まじに なっちゃって どうするの

(08/6/3レビュー)
伝説のスターブロブ2への掲載:2019年6月4日
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