◆ランペルール◆
ナポレオンの野望



発売日:1991年5月23日   発売元:光栄   ジャンル:SLG
値段:11800円   おすすめ度:3.5(ゲリラと焦土作戦の恐怖)


18世紀後半のフランス、ここではブルボン家による絶対王政が敷かれていたが、それによる住民の暮らしは苦しくなるばかりだった。 そして1789年7月14日、長年の圧制に苦しんできたパリの市民達は、数多くの政治犯を収容したことで自由主義の弾圧の象徴とされてきたバスティーユ牢獄を最初に襲撃した。 それは、フランス革命の始まりであることを意味し、それほどまでに市民達の怒りは激しく、フランスの混乱は頂点に達した。

結果、政治の実権は王政から革命軍の臨時政府に代わり、王政を指揮していたルイ16世は革命裁判の結果、 革命軍の極左に位置していたジャコバン派の陰謀により革命勃発の4年後となる1793年1月に断頭台の露と消え、 その妻で彼女の贅沢三昧により革命の原因の1つを作ったマリー=アントワネットもまた、裁判によって同じ年の10月ジャコバン派によって夫の後を追うように断頭台の露と消えた。

国王夫妻の死刑は、フランスの周辺各国に大きな衝撃を与え、イギリスを盟主とした第1次対仏大同盟が結成される。 さらに、旧王制派によるクーデターも重なり同盟軍はその隙を突いてフランスに侵入、フランスは絶体絶命の危機に立たされた。

そんな中、革命政府に反旗を翻し同盟軍を迎え入れたトゥーロン市を攻略するため、一人の将校が現場へ派遣された。 その名はナポレオン=ボナパルト。コルシカ島生まれの一砲兵将校が、やがてフランスの救世主になることは誰が予想しただろう。

「敵の弱点に砲撃を集中せよ!」雨の中、ナポレオンは数少ない味方の大砲を機敏に動かした。 不意を突かれた同盟軍は撤退し、フランス軍は瞬く間にトゥーロン市の奪回に成功、ナポレオンの初陣を勝利で飾った。

だが革命政府は、翌年のジャコバン派の総帥ロベスピエールの逮捕に伴い、彼の弟と繋がりがあったことにより軍籍を剥奪する。 そんな彼の元に、国内軍総司令官ポール=バラスが訪れた。王家復興を目指す王党派が、パリで反乱を起こしたというのだ。 「この私に代わって、王党派の反乱を鎮圧してほしい。」との呼びかけに応じ、反乱鎮圧のため出動することになる。

騎兵将校ジョアシャン=ミュラと出会ったのはこの頃で、反乱鎮圧の決め手となる郊外の大砲を奪取するため彼が選ばれた。 武器庫を狙う王党派に先んじて、ミュラは見事に大砲を確保、以後ナポレオンの腹心の一人として働くことになる。 1795年、革命歴ヴァンデミール13日、パリ市内に砲声が響いた。ナポレオンが反徒に砲弾を見舞ったのだ。

優越な火力の前に、反徒はたちまち潰走し反乱は鎮圧され、10月バラスを中心とした総裁政府が設立。 バラスの信用を得たナポレオンは、翌年の3月イタリア方面軍総司令官に就任、実に26歳の若さであった。 ナポレオンは「諸君を世界一の沃野へ導こう」と兵に演説、この日から欧州全土を席巻する英雄の時代が始まるのだ。


光栄が制作した歴史SLGの1つで、1990年10月にPC版が発売。 『ランペルール(L’EMPEREUR)』とはフランス語で『皇帝』を意味するが、フランスにおける有名な皇帝は誰かと尋ねられれば、 誰もが『ナポレオン』と言うだろう(というよりフランスで皇帝になったものといえばナポレオン一族しかいない)。

そう、このゲームはナポレオン=ボナパルトの活躍(主に第一次イタリア遠征からワーテルローの戦いまで)をSLGに仕立て上げたものである。 シナリオも4つあり、それぞれナポレオン戦争の情勢にあわせて作られている。

タイトルにあるように、プレイできる勢力はフランスだけで、他は全てCPU扱いとなっているため、オーストリアやイギリスでナポレオン包囲網(対仏大同盟)で叩いたり、 ナポレオンと手を組んでヨーロッパの覇権を握るという手段は使えない。 もちろん、ナポレオン対対仏大同盟という図式ではないので、対仏大同盟内部でも戦争が起きるため、フランスに敵意を持つ国と交渉して提携を結ぶことも可能。

1P専用で歴史SLGというのも妙という気がするが、多くのSLGでも1Pだけでプレイできるし、ゲームのシナリオによってはプレイ人数に制限があるため、 1人しかプレイできない歴史SLGというのはむしろ出るべくして出たというものだろう。 内容も、今までの歴史SLGとは一線を画しており、三國志や信長の野望をプレイしてきたプレイヤーなら面食らうことになるだろう。


これについては後述するとして、歴史SLGと銘打っていることでナポレオン以外にも、ナポレオン戦争時代での有名人が続々登場している。 フランスからはミュラやバラスらを初めとして、オーストリアから外相クレメンス=メッテルニヒなど、 プロイセン(現ドイツ)からシャルンホルストとグナイゼナウとブリュッヒャーらが、イギリスからホレーショ=ネルソンなど、 ロシアはミハイル=クトゥーゾフらといった人物が登場し、その歴史のファンには実に食指を動かすものである。

ただ、日本においては有名なのはその背景の全体像においてで、有名人についても知っているのはナポレオン、世界史の授業で知ることができるのはメッテルニヒとネルソン程度だろう。 イベントも、ブリュメール18日のクーデターやトラファルガーの海戦といったものもあるが、これも日本人の私達から見ればあまりに知名度が低いものだ。

このため、各国の人物のステータスについても、資料こそあれど欧州だけを舞台とする以上、 多くの知名度の低い人物を出さなければならないことで、他の歴史SLGと違う設定にしなければならなかったのだろう(これも後述)。


このゲームの目的はシナリオによってまちまちであり、フランスが所有する都市を一定以上増やすか、 あるいは勝利条件都市すなわち他国の首都(またはそれに近い都市)を一定数制圧する、または欧州全土を制圧することにある。

シナリオによって勝利条件が違うのは、ナポレオンの階級が年代をさかのぼるごとに下がっているためで、シナリオ1のナポレオンは総裁政府の一司令官に過ぎない。 これは、信長の野望に例えれば領主扱いで、一勢力を任せられないことを意味する。 それをよくあらわしているのが外交で、国家の最重要々素の1つであるために、おいそれと一領主が同盟や脅迫など勝手なまねをすることができないからだ。

戦争などで功績を上げていけば、一司令官から最高司令官に、最終的にはフランス皇帝にまで出世ができるので、ようやく一国の主として政治や外交ができるようになる。 この手法は、後の『太閤立志伝』シリーズとほぼ同じで、ただの司令官から皇帝になるあたりは豊臣秀吉の太閤と似ているが、 ランペルールの最終目的は皇帝になることではなくヨーロッパ全土の制覇にあるため、皇帝などまだ過程に過ぎないことをあらわしている。 それに、シナリオ4は既に皇帝になっているので、シナリオごとにナポレオンの役柄も決まっていることを考えると、出世の喜びの手法はまだ途上段階といえる。

当時のフランスの実権を握っていたのは総裁政府で、その総裁はポール=バラス。 つまり、彼が国家の代表である以上、ナポレオンはバラスの顔を伺いながら戦略をたてるため、彼がいるうちは自由な行動ができずじまいとなる。

しかもバラスは、史実では『悪徳の士』と酷評されるほど、愛人を何人も並べたり銀行や商人と結託して汚職を繰り返すなど悪どいことを平気でやってのけた人物。 プレイヤーの中で、バラスのことを多く知っている人にとって、なぜ彼の元で戦略を立てなければならないのだと憤る人もいるだろう。


このゲームの都市データは、当時の情勢をシミュレートしているため、フランスは6つ都市を所有しているにもかかわらず、 戦力は年代にさかのぼるほどきわめて低い(陸軍はそれほどでもないのだが、とりわけ海軍が貧弱)。 ナポレオンが居座るマルセーユも同様に貧弱で、軍備を整えることすらままならず、仮に複数の都市を所持できたとしても将軍の頭数が少ないため、内政にも手を焼かされる。

このゲームでは、総裁政府に立ち会って資金や大砲などを陳情することができるが、バラスが「無理だ」との一言で断られたり、 順調に戦争が進むと思っていたら勝手に和睦をして勢力を滅ぼす絶好の機会を逃したりなど、このゲームでもバラスは厄介者に過ぎない(政治は有能だが他の能力が伴っておらず、性格も臆病)。

都市の間にある線は、そこに補給があることを意味しており、補給線と点となるべき都市が占領されると補給を受け付けることができず、 補給線が途絶えてしまった都市は戦力が極端に低下、陳情をしようにも補給線が途絶えてはどうにもならない。

単に攻め込むだけでなく、補給線のことを考えて攻め込む必要があり、今までの歴史SLGでは国(地域)を攻めるのが基本だったが、 それより規模が小さい都市を攻めることはそれだけデータや戦場が事細かになっていることを意味しており、 たった1つの都市を奪ってもまだ戦局に影響がないことをあらわしたことで、都市の存在が非常に高い戦略を生むことになった。

都市自体、当時の情勢を反映してかなり個性的になっているが、人口の多さや年度によって徴兵できる数が限られる上に、農業力や工業力にも史実の反映を設定させている。 例えばロンドンでは、産業革命の影響で農業力が低く工業力が高い、モスクワは農奴制がしかれているため工業力は低いが農業力は高いなどあり、 軍の性格も農業が陸軍で工業が海軍に反映されているため、その都市での戦略を打ち立てる必要があり、 情勢などを考慮すると幅広い戦略が立てられる一方で、それらが細かすぎるために頭が混乱しかねないこともある。 1ヶ月に1回しか命令を下せないのも、そういった細かさに原因があるのだろう。


その一方、複雑な都市データと違って将軍データは意外と簡略している。 数値ではなくABCDの4段階であらわしており、政治と戦闘の要素をそれぞれ4つに別れているものの簡略されていることに変わりはない。

史実や資料にあわせて、将軍の能力も特徴を現しており、ミュラは騎兵将校ということで騎馬だけAで他はCとD、政治の要素は無能であったために全てDとなっている。 数値ではなくABC表記にしたのは、将軍全体の知名度が低く戦歴も資料の不足などにより、数値よりもABC基準であらわしたほうが都合がいいと思ったのだろう。

戦闘は、都市同様に戦場によって戦略の幅が大きく広がっていて、光栄歴史SLGに初めて『混乱』という状態異常が加わったのはここからで、士気による戦場の優越さを表したのもここから。 例え兵力が少なくとも、士気がこちらより勝っていれば0にして潰走させることも可能で、兵力だけでなく士気による戦況の逆転も可能になった。

混乱については、これにかかるとその部隊は全ての行動ができず、最悪の場合成す術もなく敵に袋叩きに遭って撤退もしくは捕虜になる。 大砲隊が混乱を発生しやすいため、まず大砲隊の遠距離で敵部隊を混乱させた後に、歩兵隊や騎馬隊で攻撃を仕掛けるのが常套手段だが、 その砲兵隊の命中率が悪いために最悪味方に当たって逆にこちらが混乱することもある。

これも史実同様、大砲の命中度がよくなかったことを示しており、砲兵隊の向きも合わせて活躍が中途半端になってしまったことは否めない。 それでも、敵が集中している場所に撃てば効果は期待できるため、やはり砲兵隊は戦場の斬り込みの要といえるのかもしれない。


山岳の高低さも、戦争の戦略に一役買っていて、高い場所では有利なものの平地の敵を攻撃しようとすると『がけのためできない』とメッセージが出るため、 一気に攻撃しようと思ったプレイヤーは、このメッセージが出るたびに悔しい思いをしただろう。

歩兵隊の能力である橋の爆破と建設も面白く、あと少しで敵がこちらの陸地に迫ってきたときに橋を爆破して進軍を抑えたり、 橋を建設してこちらの進軍を進めることもでき、橋の爆破は砲兵兵隊でも可能で、橋の上にいる敵軍に向けて砲撃したとき運よく橋を壊すと、 その上にいる部隊は全滅将軍は退却となり、初代三國志の火計を思わせてくれる。 なお海戦は、数値の戦闘ゆえに船の所有で勝敗が決まっているため、陸の戦いがメインのゲームとはいえこれは少々さびしいものがある。

評価としては、今までの歴史SLGと違ってかなり綿密に行動しなければならなくなったことで、SLGマニアには好評だったものの初心者には難しく、今も評価は賛否両論である。 そもそも知名度が低く、現在も続編が発売されていないことと、多くの有名人が登場していることはいいのだが、 先に書いたように日本人にはなじみの薄い人物ばかりで、ナポレオン戦争を題材にした作品が少ないことも拍車をかけているのだろう。

結局、肯定的に評価をしているのは一部の歴史SLGファンだけで、2003年にコーエー25周年記念パックにおいてウィンドウズでリメイクされているものの、 知名度向上に繋がっているとは言い難く、将来の評価の多さを期待するしかない。

移植された機種も、パソコンが主になっていて移植された機種の数自体少ないが、FC版だけ唯一家庭用ハードに移植され内容もあまり変わっておらず、 隠しシナリオである『エルバ島脱出』がなくなっていること以外はPC版と同じなので、(PC版に慣れたプレイヤーには)十分楽しめる。

特筆すべきはOPで、PC版のようなあらすじに進むものと違って、有名人の台詞だろう。 背景はないものの、画面中央にナポレオンのグラフィックが現れ、ナポレオンとゆかりのある人物が敵味方共に台詞を発してくれる。 PC版OPはかっこいいが、それに負けないFC版のOPが作れたことは、同年発売の『信長の野望・武将風雲録』のFC版のOPの評価に繋がったのかもしれない。


このゲームの存在は、ある攻略本の広告ページに載っていたのを見ただけだが、そのときはどういうものなのかわからなかった。 本格的に知ったのは、レビューする数年前にある大手ファミコンサイトの説明文と画像を見たことで、 その時はこのゲームのことなどすっかり忘れてしまっており、特にプレイしてみたいという気持ちにもなれなかった。

私は、ゲームそのものは大好きなのだがそれの腕というとあまりうまくなく、内容が難しいゲームだと途端に根を上げてしまう。 事実、プレイする数日前に色々なサイトのレビューを見て回ったが、多くがかなり難しく癖が強いため上級者向けという文が多かった。

しかし、光栄のPC版OP集を見たときこのゲームの難しさを忘れるほど感動し、他の光栄作品のFC版やSFC版を購入するため足を運んだ。 ランペルールは、中古で箱・説明書付きで2180円と多少割高だったが、それでもぜひプレイしてみようと思っていた。 まずFC版のOPを見たが、PC版と違った迫力があり、個人的にFC版のほうがOPの質で勝っていると思っている。


さてプレイだが、年代が進むほどナポレオンの階級は上がっていくが、一司令官時代のシナリオ1は苦しく、 勝利条件がフランスの都市を九つにする(つまり初期に所持している都市が占領されずに3つ落とす)だけというのはほっとした。

『清く・貧しく・苦労は絶えない』とはよく言ったもので、高低になる前は内政を行ったことはあまりなく、シナリオ1ではほとんどやってない。 むしろ、軍事を優先して戦争を進めたくらいで、ナポレオンの初期の部下は戦争ではなかなかのステータスを有しているが、 内政に目を向けるとさっぱりな能力で、多くがCとDでBを有している将軍は数人足らずで、Aをも有している将軍はベルティエだけだった。

不足しているのは人材だけではなく、物資や軍備も慢性不足に悩まされ、バラスに援助を申し入れようとしても断られてしまう。 確かに、ストライキや凶作などでフランスの各都市が危機にあえいでいる以上仕方がないのだろうが、 最低でも10分の1ほどの援助を出してもらいたいと思ったし、もう少し許可の確率をあげておくべきではなかっただろうか。

しかも、ほぼ孤立無援の状態で戦争やっているのだから、敵都市を攻めると必ず援軍が出てくるので、百単位の援軍が出たときは絶望に近いまなざしで画面を見るしかなかった。 それでも、そういった逆境を跳ね除けて勝利した喜びは大きく、出世するたびに戦争が楽になるので、 ほっとした反面史実のナポレオンのように華麗な逆転勝利で都市攻略できる快感が少なくなることを思うと、少々複雑な気持ちになってしまう。

その戦争、多くの光栄歴史SLGをプレイしているおかげである程度は理解できたが、山岳の段差や大砲の方角までは最初わからなかった。 山岳が有利なのはわかっていたが、山岳の2段階目に陣を張って攻撃しようとしたら『がけで攻撃できない』というメッセージが出たため、一気に止めを刺すチャンスを逃してしまい非常に悔しかった。 橋の建設や爆破は面白く、大砲で橋もろとも居座っている敵部隊を全滅したときはかなりうれしく、ブリュメール18日のクーデターもよく、憎たらしいバラスを追い出した感動も忘れがたい。

またプレイしたいと思っているが、レビューのときと比べて敵が思った以上に攻撃を仕掛けてこなかったのは、 おそらく対仏大同盟の国々同士が仲たがいしてくれたおかげで、今度プレイしたときは同じようなことが起こる可能性が低いと思っている。



本日のまとめ



きょうわこくは きみの かつやくに きたいしている

(08/2/21レビュー)
伝説のスターブロブ2への掲載:2019年5月27日
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