◆星霊狩り◆
ハドソン唯一の89年発売のFCソフト



発売日:1989年12月8日   発売元:ハドソン   ジャンル:AVG
値段:5800円   おすすめ度:2(強引過ぎる展開とパスワード)


この出来事は、ある少女の家において少女の彼氏と少女の祖父の3人で、少女の誕生日を行ったことから始まる。 少女の名はミウ、ミウの彼氏の名はミチムネ、2人ともまだ16歳でしかなかった。

「これでミウも、りっぱな大人じゃな。いつでも嫁にいけるぞ、のうミチムネ、ふぉっふぉっふぉっ。」

ミウが小さい頃から、親代わりとして彼女を育ててきた祖父にとって、ミウが16歳になったことはようやく結婚できる年になったことを表していて、 祖父はまだ友達以上恋人未満になっているミチムネを見た。 ミチムネはもとより、ミウも祖父のせりふに思わず照れくさくなっていったが、平和で最高の誕生日であることは言うまでもなかった。

そのとき、部屋が突然暗くなったと思えば、その部屋から不気味な笑い声が響き渡ったではないか。 「フッフッフッ、久しぶりだな。」そんな台詞とともに、暗闇から巨大な顔が浮かび上がった。 「き、貴様はローゼンクロイツ!まさか生きていたとは……。」祖父の顔から血の気が失せていった。

ローゼンクロイツとは、全てを支配するソロモンの力を欲した悪魔で、本名はクリスチャン=ローゼンクロイツ。 今から100年前、ソロモンの力を手に入れようと目論むも叶わず、それ以後手に入れるきっかけをつかむため暗躍していた。 そして遂に、ミウが彼の欲しているソロモンの力を持っていることを知り、ミウが自分の家にいる誕生日を狙ってやってきたのだ。

祖父は、ミウを連れ去ろうとするローゼンクロイツに果敢に挑むが、年老いた体ではまともに立ち会うことができず、逆に返り討ちにあう。 ミチムネもまた、殺された祖父と連れ去られるミウを見て彼に戦いを挑むも、こちらも返り討ちにあい気を失ってしまった。 薄れ行く意識の中で、彼が聞いたものは連れ去られたミウの悲鳴で、しばらく後ミチムネは大学病院のベッドで目を覚ます。

そばにいた看護婦から、ミチムネがうわごとでローゼンなんとかと叫んでいたことを聞かされ、目が覚めたら病院の院長である草野教授がいる教授室をたずねるようにといわれる。 ミチムネは、この事件の鍵を握ると思われる草野教授と出会い、教授は「君には秘められた力があり、その力を目覚めさせれば全ての謎は解き明かされる。」と言ったが、 ミチムネにとって教授は敵か味方か判別しかねていたと同時に、何かとてつもない事件に巻き込まれたと直感した。

しかしそんなことより、今はミウを救出することが先決だと考えた彼は、教授とともに謎の解明とミウを救うため、 各地を回りながら再びローゼンクロイツに立ち向かうことになったのである…。


ハドソンが送り出すゲームの1つで、『サラダの国のトマト姫』に続くハドソンのFCアドベンチャーの1作なのだが、このゲームは単なるハドソンのゲーム以上の価値を持っていた。 というのは、1987年にPCエンジンが誕生して以降、このハードを開発したハドソンは誕生の経緯ゆえに積極的にPCエンジンのソフト提供をしていったためであった。

その甲斐あって、PCエンジンは1988年誕生のメガドライブと同様に、ファミコンに対抗できた数少ないハードとして賞賛されるようになり、一時はFCの地位を脅かすほどまでになった。 だが代償として、FC黎明期から築き上げていたハドソンにおけるFCでの勢力は、PCエンジンの隆盛と反比例して小さくなっていった。

1988年は、トマト姫をはじめとして『亀の恩返し』、『桃太郎電鉄』の3本しか発売されず、89年に至ってはたった1本しか発売されなかった。 それほどまでに、ハドソンはFCの勢力を犠牲にしてまで、PCエンジンの発展に躍起になっていたといえる(このためか、 PCエンジン熱が落ち着いた90年以降は、FCにソフトをいくらか供給するようになったのだが)。

ハドソンが、89年にたった1本だけFCに供給したゲーム、それが『星霊狩り』なのだ。 原作を、小説家で『ハルマゲドン黒書シリーズ(全3巻)』や『一万年の悪夢』といった作品を手がけた中島渉氏、原画を『重機甲兵ゼノン』などの作品を手がけた漫画家神崎将臣氏が担当した。

神崎氏は、後にファミマガでストUのコミカライズを連載し一躍有名になったが、それより前に漫画家としての活動を始めていたのだ。 つまり、小説家と漫画家の実力者タッグで作られたもので、中島氏や神崎氏のファンにとってそれは実に喜ぶべきものだったことだろう。

このゲームは、中島氏原作と銘打ってあるものの、ゲームの原作となっている小説は見当たらず、おそらく原作というより脚本を手がけたといったほうがいいのかもしれない。 今までのAVGは、原作が小説や漫画もしくはアニメだったり、オリジナルのストーリーでも担当したのが小説家ではなくゲーム会社の社員であった。

AVGのシナリオ制作のために、わざわざ小説家が招かれたのは異例の事で、1992年の『弟切草』といった主にサウンドノベルなどのシナリオに、 小説家を起用する原型といえる(『MOTHER』のシナリオを制作した糸井重里氏も小説家の肩書きを持っているが、それはあまり有名でない)。


ストーリーは、主人公ミチムネが恋人のミウを救うべく、草野教授をパートナーに色々な地域を回りながら、ミウを連れ去った張本人ローゼンクロイツを倒すというもの。 説明書やハドソン公式HPには、ジャンルが『ノベルウェアAVG』と書いてあり、小説を読むのごとくストーリーが進んでいき、次第に小説の世界にのめりこむというのだ。

しかし、内容的には一般のAVGとたいして変わらず、神戸から始まり紀伊半島や阿波地方(主に徳島県の山沿いか)を回るあたりは、 同じ神戸から始まる『ポートピア連続殺人事件』の捜査範囲をやや大きくした程度で、ポートピアから始まった3D迷路も導入されている。

ただし、ローゼンクロイツの居場所を探しながら旅をするため、前に立ち寄った場所には戻ることができず(画面全体が切り替わった時)、さながら小説を読む感覚になれる。 つまり、画面全体が切り替わるまでが章という感じであり、ストーリーは8つに区切られている。

なぜノベルウェアというジャンルを作ったのかというと、先にも述べたが小説家の中島渉氏がシナリオを担当したので、『このゲーム=中島氏の小説』という図式を出したかったのだろう。 小説とゲームの値段を比べれば、ゲームのほうが高いのは一目瞭然なので、小説を出す以上の利益をあげたかったほかに、 小説にするより先にゲームにすればどうなるのかという試験的な意味合いもあったものと思われる。


難易度はあまり高くなく、『オホーツクに消ゆ』のようにゲームを中断したり、『新宿中央公園殺人事件』のようにセーブをして重要証拠を見つけるといった、 ゲーム進行における意地の悪いものは用意されていない。

セーブも、セレクトを押すだけで特定のイベント以外は、いつでもどこでもできるようになっているが、そのセーブ方式がパスワードになっていて、 その文字数も48文字でドラクエUの51文字よりわずかに及ばないものの、それでもバッテリーバックアップがまかりなりにも普及している時期を考えれば やたら多すぎるので(パスワードを採用しているゲームを含めればなおさら)、安全策としてこまめに記録をとっているプレイヤーにとっては非常につらいものである。

せめて、パスワードではなくバッテリーバックアップを採用し、セーブができるのは画面全体が切り替わる直前のみか、 もしくは回数制にしてもらいたかった(さすがに手軽にセーブできるのは、ゲームの難易度上よろしくはないだろうし)。

難易度が低いといっても、パートナーの草野教授と話しても通常は相手にされず(「私と話をしている場合ではない。」と言われる) ヒントも特別な場合でしかもらえないので、手当たり次第出ている選択肢全てを選ぶことが多くなる。

それでも、結局は先に進めることができるものの、ゲーム途中に現れる怪物については別。 説明書には、洞窟や森をうろうろしていると突然現れるという、RPGのエンカウント風の説明が書いてあるが、 怪物は特定の場所や行動でしか登場せず倒せばストーリーが進むので、いわばこのゲームのボス扱いとなっている。

当然戦うしかないのだが、選択を誤ればゲームオーバーが待っている。 要は、序盤で入手する白い玉を使って怪物の弱点を見つけることが先決だが、熊野の遺跡に登場する怪物は倒すわけではないので(というより倒せない)、 このことに気づくまでゲームオーバーを食らった人は多くいただろう。

ストーリーが進むにつれて、怪物を倒すパターンが複雑化するものの、RPGのように味方と敵が交互に攻撃するのではなく選択肢だけで進むので、 AVGながらもこの場面だけRPGの要素を含んでいるといえるだろう。


ところで、この物語の要素は日本の古代神話を基にしつつ、海外の古代ミステリー要素を多く含んでおり、熊野にあるストーンヘンジ風の遺跡はもとより、 ミチムネ達が回る遺跡にソロモンの力の謎が隠されていて、宿敵クリスチャン=ローゼンクロイツも17世紀初頭のヨーロッパに、謎の魔術の秘密結社薔薇十字団の創始者という元ネタがある。

ローゼンクロイツ自身、魔術師という設定はあるものの怪人物というイメージが強く、彼自身も架空の存在でしかない。 日本の古代神話に、海外の伝承を融合した手法は一見すると風変わりのように思えるが、日本各地には欧州のミステリーとわずかながら関わりのある遺跡が多く、 ドキュメンタリー特番でもそのことについてたびたび取り上げられている(やらせの疑いもあるが)ので、風変わりというよりテレビの姿勢を感じ取ったのかもしれない。

しかし、これらの要素をゲーム上で融合させた姿勢は認めるが、肝心の謎の解明には至らず、途中放棄して先に進む感じが強い。 ミウの祖父とローゼンクロイツとの確執や、ミチムネが勇者と認識させられた力の謎、ミウがなぜソロモンの力を持つようになった経緯とそのソロモンの力の詳細など、挙げればきりがない。

AVGは、謎解きの難易度もさることながら、謎の真実が欠けてしまっては面白みが欠ける要因となり、2Mという少ない容量のためにそういったものを捨てざるを得なかったと思われる。 せめて、容量をあと1Mだけ増やせば、様々な謎の核心が書けたのではないか。


謎とは関係ないが、ゲームのキャラが神崎将臣氏の原画とは程遠いものになってしまっている。 同じ2Mのオホーツクに消ゆは、FC版においてキャラデザインを荒井清和氏が担当し、ゲームのキャラ画像も荒井氏のデザインに似せて描かれている。 想像の域を出ないが、PCエンジンに手塩をかけすぎた代償がFCソフト1本だけとなり、内容もPC時代のAVGより落ちてしまったのだろうか。

最後になるが、このゲームのタイトルの由来は、熊野にある7つの地蔵について教授が、並び方が北斗七星に似ていると述べていて、 偶然にもミチムネが戦う怪物はローゼンクロイツトラスボスを含めて、ちょうど7つとなっている。

おばばは、ラストで邪悪な精霊を倒して平和を取り戻さなければならないを述べていることから、 『精霊=怪物』としつつ精霊の『精』を『星』に置き換えたことで、ミチムネが北斗七星と同じ数の怪物を倒すということになっていると考えられる。


このゲームを知ったのは、レビューを書く半年近く前で、それも私が100本目のFCレビューのリクエストの1つであることにさらに驚いた。 何しろ、このゲームの存在を知らなかったため、ネットで情報収集にいそしむと同時に、ソフトの購入に走った(箱説明書つきで980円で購入)。 情報収集は、レビューをしたサイトが少なく内容も乏しかったが、なぜか攻略サイトは2つ存在していて、どちらも非常にわかりやすかった。

もちろん、このゲームの物語の設定が様々な古代神話や伝承を基にしているので、プレイだけでは当然レビューが不可能なのはわかっていた。 このため、ウィキペディアややはり他の古代神話を取り上げているサイトを中心に調べることになった。 その中で、薔薇十字団という組織を初めて知ることになり、ローゼンクロイツの実像も少しだけ垣間見えた。

ゲームのほうは、日本古代神話と欧州の伝承が意外とマッチしていていたが、 どれも尻切れトンボが多く(せかしているともいう)ストーリーはなかなかよかったことを考えると、画龍点睛を欠くのではないかと思っている。

グラフィックについても、神崎氏のデザインがまったく見受けられず、神崎氏を呼んだ真意はなんだったのかと考えてしまった。 私が、このゲームの評価を2にしたのは、大部分の要素が中途半端なものになっているためで、同時にパスワードの文字の多さもマイナス要因となっているが、この時期として48文字はかなり厳しすぎる。


もっとも、このゲームに対してまったく思い入れがないのも評価が低い理由の1つで、あまりのめりこむというものではなかった。 にもかかわらず、レビューが思った以上に長くなったのは、先にも書いたようにこのゲームの元となる古代神話と伝承を調べていたため。 そして、ストーリーと神話の共通点を探して書いていたら、意外と長くなってしまったというわけだ。

そんな中、ストーリー後半にある卑弥呼の墓が阿波地方にあることに驚いたし、卑弥呼の墓ってあったのかと気づいた。 これもネットで調べてみると、九州の北部だ大和盆地だと主に西日本に多く、邪馬台国が西日本にあることを考えれば、 さすがに東日本にはないだろうと思うし、邪馬台国の手がかりを見つける以上卑弥呼の墓の所在は重要な1つなのかなと思う。

 なお、プレイするにあたり最初は攻略サイトを見ずにプレイしてみたが、熊野の遺跡の怪物の対処にてこずったため、 すぐさま攻略サイトを見て一気にクリアしてしまったのはやはり思い入れがないためで、思い入れのあるゲームならすぐ攻略サイトを見ない。 意地の悪い仕掛けがほとんどなかったので、攻略サイトを見たらとんとん拍子に進めたのも納得がいく。



本日のまとめ



さいごにひとつ
くるしいときは たからをもっていることを わすれては ならぬ

(07/12/2レビュー)
伝説のスターブロブ2への掲載:2019年5月20日
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