シヅノート、本編終了後の後日談の最後のページです…と言って書き始めたんだけど 最後から2番目のページです。すごくページが長くなってしまったので、分けることになっちゃった…。 さて、本編は終わったシヅノートですが、あの終わり方では、Lがキラを捕まえることができなかった。 それはやはりデスノートをなぞる物語としてよろしくありません。 しかしシヅキラはキラであること、キラが犯罪者を裁き、犯罪の発生を抑制すること、自分がLに 捕まらないこと、それぞれに優先順位を設けており「犯罪の抑制」と「Lに捕まらない」ことを同位、 「自分がキラであること」を下位とし、それには極論こだわってはいませんでした。 そのため、キラであることを放棄することによってLに捕まらない状況にし、 それでも犯罪の抑制はし続けたかったため死神たちにそれを依頼したのでした。 せっかく自分がキラであった記憶を完全に失うことができたのに、自分に自分を信じるよう 説得し、自分がキラであったことを教える手紙を書いてしまったことは キラの証拠を隠滅するという観点からすると悪手です。 しかしシヅキラは自分がキラであったことを知っても絶対に誰にも言わない自信があったし、 リュークやレムのことを忘れるわけにはいかなかったのでそうすることを選びました。 そのことは、どのような結果を生むことになるのか…? さて、唐突ですがこのページでは今までよりも本家デスノートにはなかった展開が多く登場します。 実は極力、本家デスノートとは異なるキャラのセリフは記述しないように気を付けていました。 IFストーリーを書いていて今更ではあるのですが、オリジナル感というか捏造感を強めたくなかったためです。 だから本来、シヅキラがデスノートを放棄するシーンでは 「はい、リュークにお土産」 「さっき店で買ってたやつだな。これをどうしろって?」 「これは、リンゴの苗だよ。これを土に植えて、日光にたくさん当てて、水やりをしたら花が咲いて、 実がなる。自分で育てたリンゴが食べられるなんて、面白くない?」 「すぐ食べられるわけじゃないんだな」 「そ、それはそうだけど…頑張ったらすごくたくさん実ると思うよ!ちょっと時間はかかるかもしれないけど… 死神はすごく長く生きられるんでしょ?徐々に良い育て方が分かってくると思うし、絶対にどんどんおいしいリンゴになっていくよ。 難しかったら、日本の…リンゴを育ててる人たちを見てみて。お願い、やってみて!」 「はあ…まあ、お前からリンゴをもらえなくなるんだもんな。 レム、あの乾いた土でこんなのが育つと思うか?」 「それはやってみないと分からない。しかし、死神界にもリンゴは存在している。植物が育つ土壌ではあるのだろう」 …みたいな会話を想定しているけど、リュークやレムのセリフはあえて書いていません。 ミサちゃんのセリフをぼくとの会話形式では書かなかったのもしょーもないこだわりでした。 が、今回のこのページではLがしゃべります。Lの発言が、今のような形式で登場します。 「Lはこんなこと言わない!」と、「Lはこんなことをしない!」という、強い想いがある方は 読むことは避けることをオヌヌメいたします。 一応ぼくは、デスノートは1巻から13巻まで読んだし、映画版(2006年)、アニメ版、ドラマ版は全部見ました。 「絶対にあり得ない発言」や「言い回し」は、自分でもしたくないと思っています。 いずれにしても、Lが、元シヅキラと会話をすることだけ、ご了承ください。 日本だけでなく、各国の凶悪犯が裁かれ始めて数週間が経過。国によっては大混乱が起きているようだが 日本は比較的穏やかであり、キラの大規模な裁きについても国際ニュースとして報道されている程度。 リュークかレムがやってくれているんだろうけど…これで日本以外の国の犯罪発生の抑制になるかな。 それとも、体質自体が変化せざるを得なくなっている国すらもあるんじゃないだろうか。 まあ、もうそれはぼくには止められないし、一般人過ぎるぼくにはあまり関係ないことになっちゃって いるのですけどね…と思いつつ、楽しいお仕事から帰宅。背後から声がかけられた。「すみません」と。 ここは人けのない静かな道。声をかけられたのは、ぼくだよね。振り返って…驚愕。 後ろに立っていたのは、ジーンズに白いシャツ、くたびれたスニーカーを身に着け、 猫背で、ぎょろっとした目の下にくっきりと黒いクマのある青年。控えめに見ても不審者です。 …だ、だが、見極めろ。そういうことには長けていると自負している。明らかによろしくないお薬を使っちゃっていて ピアスだらけ、よだれだらだらの人とも、この人は大丈夫だと判断してやり取りをしたこともある。 見た目でビビったが、あの時も確かに大丈夫だった。 動きと返答で、人の種類を判別できる。この人は………いや、判断できねえ…。 ビビり散らかしているぼくに向かってその不審者が歩いてくる。靴もつぶれているのでぺたぺた、と音がしそうだ。 な、な、なんだろう…凶器を持ってないか…ぼくからは今日の夕飯の材料と、古くて価値のないスマホぐらいしか 奪えませんよ…。 「はじめまして」 は、はじめまして…こんな人、会ったことも見たこともないわな…。 「もし誰にも漏らさないと誓って頂ければ、キラ事件に関する重大なことをお話ししたいと思っています」 へ?!キラ事件!?なんで、なんでぼくに!? いや、普通に振る舞わないと…普通に…ふつ…無理!! 嘘がつけないことが高じてもう動揺しまくり、だめです平静を装うなんてできません。 なんなんだこの目の前の不審者は!もうわけがわからないよ!!パニックになりながら「なんのお話ですか!」と怯えながら返答。 すると……。 「私はLです」 と、一言。ま…まさか…何を言ってるんだこいつ!?もしそうならぼくが尊敬する憧れの人です、が、 この不審者がLと断定できないよ!フツーに怖いよ〜!! だが、見極めろ…この不審者、Lなのか?どうしてぼくのところへ来た?本物のLでないとしたら、 ぼくにキラ事件に関する云々ということは言わないんじゃないか?Lにはともかく、 一般人目線では精いっぱいのキラとして疑われないような行動をとってきた…と、思う。 ぼくの性格上、記憶を失う前でもそこには特に気を付けることだろう。ミサちゃんからのアプローチが無ければ、 なるべく静かに静かにキラとして粛々と裁きをしていきたかったはず…。 この目の前の人物はとりあえず警察官には見えない。どっちかというと警察の世話になる方 にすら見える。警察官なら警察手帳を持っているだろうし、一般人を安心させるための動作としてとりあえずぺろっと見せるだろう。 L本人なのか、Lの命令でぼくのところへ来たのか…いずれにしても、一般人極まりないぼくのところへ キラ事件の話を持ってくる人物といえば、Lぐらいだ。そして、Lが派遣する人物としては あまりに風貌が怪しいので、本人の可能性…あるかも…。 「そうなんですか…ぼくに話って何ですか」と、いくらか落ち着いた様子で尋ねる。 捕まるのかな。いつのまにか証拠を握られていたのかな。でも、ぼくがいなくなってもリュークたちに裁きは託したし…。 「はい、あなたには確認したいことがあったので会いに来ました」とのこと。なんだその含みのある言い回しは…。 あなたがキラですね、では逮捕しますという流れではないのか…? 「確認したいこと…?」 「その前に、私がLであると信用して頂けていると考えていいんですね?」 「…はい。失礼ですけど、Lの影武者ならもっと違う感じの人にすると思うので…」 「自分のところにLが来るという予測をしていましたか?」 「してないです。でも、来ちゃったのか〜…とは思ってます」 こういうことは言わない方がいいんだろうけど、だってLがぼくのところへ来たのならば ぼくがキラだったとバレているも同義だろう。どうやったって言い逃れができないのは、わかる。 逆に冷静になり、逆に肝が据わってきたよ。 「Lとして人前に姿を現すのはこれが初めてです。あなたに敬意を表して名乗ったし、姿を見せました」 「そうですか…」 「端的に尋ねますが、あなたがキラですね?」 「……」 …やっぱりね。慎重にやってきたと思いたかったけど、迂闊な行動いっぱいとってきたもんなあ… Lがキラ事件の捜査を始めたってことが分かった時点でデスノートを使うのを数年停止する ぐらいのことをするべきだったのかも。ほんとに。 「…正確に言うと、キラだった、です。今は違います」 「そうでしょうね」 ん?? 「そんなことまで分かるんですか?」 「最近の大規模なキラの裁き…あれらはそれまでのものと違い、あなた一人には無理でしょう」 「……」 「あなたは今、キラではない。もっと高度な力を持つ者に、あなたの基準で裁くよう依頼した…というところですか」 すげー。合ってます。でも当然だけどデスノートや死神の存在は知らないんだよね。 どこまで肯定すればいいんだろう。Lにはいずれ分かってしまうんだろうけど…。 「まさにそんな感じです」 「それはなぜですか?あなたには裁けない者を、裁いてほしかったからですか」 「いいえ…ぼくにとって、キラであることは重要ではありませんでした。 Lの捜査が徐々にぼくに及んできていることも分かったので…引き際だと思って、 キラであることをやめました」 「なるほど。キラであることをやめると、キラであったことを忘れるんですね」 なんでそんなことまで分かるのじゃ…すごすぎないか。 キラであったことを自覚しているぼくと会話していてそれを察するのか。どういうことよ。 「本当にすごいですね…なんで分かるんですか?」 「第二のキラ、弥海砂はある日を境に行動と言動ががらりと変わりました。 キラを崇拝していることを公言するようになり、キラであることを隠そうとしている様子がなくなりました」 そういえば、ミサちゃんそんなこと言ってたかも…マネージャーにイメージダウンだって怒られたって 話してくれたな…。記憶を失う前のぼくはミサちゃんにどこまで、どんな指示を出してたのかなあ…。 「そしてあなたは、キラであったことを忘れないよう、忘れたとしても思い出せるような策を講じるような人だからです」 ビンゴ〜…すごすぎてすごい。 「……」 「キラの能力と、現在の裁きを行っている高度な存在について…」 ノートのこと、死神のこと…どこまで聞かれるんだろう…。 「あえてお尋ねしません」 え。なんで? 「…なんでですか?」 「私はあなたに確認をしにきただけだからです。私の推理が合っていたのか、あなたに確認を取るのが一番確実で 手っ取り早い」 「でも、ぼくも全部を覚えてるわけじゃないんですよ」 「あなたがあなたに自分で教えたであろうことだけで十分です。私が知りたいのはあなたが忘れたくなかったことでしょうから」 そう…なのか?ぼくとしては忘れちゃってるから分からないけど…。 「それに、これも絶対に秘密にしておいて頂きたいことですが、世界各国がキラを逮捕した際に引き渡しを要求しています。 それは自国でキラを裁こうとしているのではなく、あなたをキラとして利用しようとしているんです。 あなたにその能力や記憶があろうとなかろうと、そう考えている人間は多いということです」 「…げ」 まじですか。逮捕よりやばいですやん。 「だから、あなたがキラだったと知られたり、キラの能力の情報が漏れたりすることは絶対ないように。 これは忠告させてもらいます」 「…どうも、ありがとう」 「あなたのことですから、キラの能力が他者に渡ることは避けたのでしょうね」 デスノートの存在を知らずとも、キラの能力が移動し得ることも分かってるのか。 「そうですね…でも、全てを阻止できたわけではないので、それは分からないです」 「キラの能力を持つ、悪人が現れるかもしれないと?」 「その可能性は、ゼロではないです。でも、そうなる確率は低くなるよう努力しました。 少なくとも、すぐにキラの能力が悪用されるようなことはないと考えています」 この会話をリュークが聞いてないといいけど…。 「そうですか」 「…そのときは、あなたが捕まえてください」 「そうですね。そんな悪人は私もすぐに逮捕できる自信があります」 あ、ちょっと笑った。ずっと顔を見ながらしゃべってると、あんま怖くなくなってきたな。 「最後にもう一つだけ確認させてください。現在、裁きを行っている存在は、人間ではないのですね?」 「…はい」 「そして、あなたにももうそれを止めることはできない」 「そうです…」 「分かりました。確認は以上です、ご協力ありがとうございました」 …え。ちょ、いいのかそれで。 「ぼくをキラとして逮捕しないんですか?」 「では、あなたがキラだと証明できますか?」 はい?どゆこと??ぼくがキラだと分かって来たんだから、証明など不要なのでは。 でも、デスノートはもうないし、ぼくにあてた手紙も燃やしてしまっている…。 「先ほども言いましたが殺し方を話さなくていいですよ。逮捕されたいわけではないのでしょう。 今この場で、私の目の前で、誰かを殺せますか?私を殺せますか?私が仮に大罪人だとして」 「…殺せないです」 「あなたは既にキラではないから、それは当然です。そして、あなたが人を殺した証拠もない。 殺してもらうこともできない。たとえキラだと自白したとしても、殺しを実践できなければ 「自分がキラだと言っている人」にしかなりません。まあ、その場合はあまりに悪質だと 判断されたなら別の罪に問われることはあるでしょうが…」 自分がキラかもしれないなどと言う人からは毎日山のように連絡が来ていますしね、とまた笑った。 風貌は異常だけど、なんか普通の人にも見えてきたぞ。まあ外見なんてぼくも大概だしな…。 「では、これで。」 えっ。うおおお、なんかやたらデカくて長い車が現れた。静かだから気づかなかった。 これはあれか、リムジンってやつか…。 「最初に言った約束は守ってくださいね」 「え、すみませんなんて言われましたっけ…」 「私がLだと、誰にも言わないようにお願いします。あなたは口が堅いでしょうから、心配はしていませんが」 「言いませんけど…もう二度と会うことはないですよね?」 「それはそうでしょうね。私が依頼された事件にあなたが関わることがないこと願っています」 世界一の名探偵の手を借りないと解決できない事件にかかわるなんて絶対嫌だぞ…。 まあ、キラとして関わってしまっているんだけど。いずれにしても、これが最初で最後だ。 「分かりました……すみませんでした」 「なにがですか?」 「…いろいろと」 「あなたの中でけじめをつけたものを、私はとやかく言うつもりはありません。今まで通り普通にしていれば、 「L」以外にキラの正体が知られることはありませんよ。お約束します」 Lが乗り込んだ車の窓が閉まった。中が全然見えなくなったけど、一応笑って手を振る。静かに車は走り去ってしまった。 あんな長い車、曲がれるんだろうか。やっぱ車は燃費が良くて小回りが利くのがいいよ。と、一般人はしみじみ思う。 …ここで突っ立っててもしょうがない。ぼくは昔も今も一般人。帰ろ帰ろ…。 |