SHIDU NOTE -シヅノート-

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自分が予約送信したという記憶が全くないメールに促され、自分が書いた記憶もそこへ隠した記憶も 全くない手紙を見つけ、読み始めたシヅキ。自分がキラであった記憶も、デスノートに関する記憶も完全に消えており、 その手紙に書かれていることはまったく信じがたいことであったが…。



ミサちゃんが自分の寿命の残りを半分にしてまで、キラを探そうとしただと。 自分がキラだったと告げられたよりも、あまりにも衝撃の事実だが…手紙はまだ容赦なく続くようだ。

「先に話すべきだったかもしれませんが、デスノートの所有権を放棄したりデスノートが燃えて使えなくなった場合、 デスノートに関わった記憶が消えるという決まりがあります」

記憶が消える?

「ぼくが今教えたことをあなたが覚えていないのは、ぼくがデスノートの所有権を放棄したためです」

そんなこと、あるか…?

「海砂ちゃんと話し合い、今後絶対に自分たちからキラとしての証拠が出ないようにするため、 ぼくはノートの所有権を放棄、海砂ちゃんのノートは燃やして廃棄しました」

だから足元でノートみたいな紙が燃えていたのか…飛んでいったノートは、ぼくが使っていたものだった…? でも、海砂ちゃんのノートも所有権を放棄したり、ぼくのノートを燃やしたりしなかったのはなぜだろう。 なんでそれぞれ別々のことをしたんだ。

「ここからが非常に重要なことですが、あなたはリュークとレムにキラとしての裁きを依頼しました」

死神に?!

「あなたはリュークとレムと交友を持ち、自分の願いを少なからず聞いてくれると判断し、 自分がキラでなくなってもキラの裁きはなくならず、キラという者が存在し続けていると思われるための方法を考え、 死神が個々で持つノートに自分の寿命を増やすために人の名前を書く際に それを裁きの対象としていたような者の名にしてほしいと頼みました」

死神にそんなことを頼めるほど、仲良くなってたってこと?

「それについての二人の返事は、これを書いているぼくには分かりません。 そしてそれを聞いた後のあなたはそれを忘れてしまっています。」

まあ、覚えはない…。

「ですがぼくは、あなたは、リュークとレムに誓いを立てました。ぼくは、今まで通り、 誰に知られる、見られていないに関わらず、悪意を持った発言・行動はとらない。 これを破った場合、真っ先にデスノートに「詩衣雫月」と名を書き、裁いてくれて構わない、と」

すごいことを誓うね…怖…。

「ぼくがこれを書いてしばらく、あなたがこれを読んでしばらくは デスノートに書き溜めていた分の裁きが行われることでしょう。しかしデスノートに書いて先送りにできる死は 23日後が限度。それ以上経過してから裁かれる者がいたとしたら、それはリュークかレムが あなたの代わりに裁いてくれたのです」

そう……。

「もしかしたらもっと多くの死神たちが、裁きで人間界を変える事に賛同して くれる時が来るかもしれません。ともあれ、あなたはリュークとレムにしっかり感謝をしてください。 願いを聞いてくれたことに、ありがとう、と言ってください。」

………。

「ぼくが話すことを、ぼくは信じられていますか?この字は間違いなくあなたが書いたものです。 あなたのいつもの文体でしょう。誰かに書かされたものでも、もうひとりの人格が書いたものでもありません」

………。

「ぼくはどうしてもぼくに信じてもらう必要があります。よく考えてください。 記憶を失った自分に誰にも知られずに証拠も残らないようにメッセージを残そうとした場合、あなたはどうしますか?」

電子的なものは極力信用しない、自室に書き残す…。

「記憶を失っているという仮定が正しいとしたら、全て筋が通っていると思えませんか?」

それが本当なら……。

「キラである証拠を完璧に抹消するためにデスノートを放棄したのだから、 本当はぼくがキラであったことをあなたは知るべきではないのでしょう。しかし死神たちへの感謝の気持ちと 寿命を減らしてしまった海砂ちゃんへの贖罪だけは忘れてはならないため、このことをぼくに伝える決心をしました」

………。

「だから、この手紙の内容は一生誰にも言わず、ほのめかすこともせず、 頭の中にだけとどめておいて、手紙自体は焼却処分してください。この手紙が唯一のぼくがキラであるという自白の証拠です。 海砂ちゃんに伝えるかどうかは、24時間後のぼくに判断を委ねます」

ミサちゃんに…信じてもらえるか?彼女なら信じてくれるか…でも…。

「いろいろとまだ疑問が浮かんでいると思いますが、 今ぼくが伝えたことだけでは分からないことの判断材料だけ伝えておきます。 どうしてこのような伝え方をするのかも、自分で考えてください」

なんか変な含みを持たせた言い方だな…。すでに便せん3枚分に及んでいるというのに、この続きは4枚目か。 4枚目はやたらスカスカとした箇条書きになってる。

・リュークが落とし、ぼくが拾ったノートは、リュークが死神界で拾ったもの

・海砂ちゃんに恋していた死神は、海砂ちゃんを殺すはずだった人物をデスノートで殺し、 それは死神としてのタブーだったためレムの目の前で死に、ノートだけが残された

・そのノートをレムは海砂ちゃんに渡しにきた

・死神は、人間界に落ちたデスノートの最後を見届ける義務がある

・死神は、必ずデスノートを1冊所有していなければならない

・死神は、無闇に人間界にいてはならない

「以上、死神とデスノートの豆知識でした。今後の創作の参考にでもしてみますか?」


なんだこれ、急に最後にふざけるなよ。

「それでは、さようなら。ここからの行動は、ぼくにバトンタッチします。 海砂ちゃんを支え、リュークとレムに感謝を。それだけはこれからも絶対に忘れないでください。

詩衣雫月」


…手紙が終わった。一応裏返してみる、何も書いてない。指紋の検証でもしてみるか。 どのペンを使ったか、インクの分析でもするか。

いや…もうそんなことをする必要はない。これを書いたのはぼくだ。書いたことと書いてあったことは何一つ思い出せないが、 これが本当だと考えるとすべて納得がいく。誰かに騙されているのだとしても、もうこれが真実だと 信じることにしよう。

下の方になんかヘタ〜な絵が描いてある。リューク、レムって…こんな感じの姿だったんだ。 割と人間っぽい形なんだね。でも、ぼくがゼロから思いつくデザインではない。ぼくとミサちゃんが持っていたノートの 最後を見届けたから、今は二人とも死神界にいるのかな。どうやってぼくを見てるんだろう。

ちょっと窓の方を見て手を振ってみる。微笑んでみる。いる、と思って今後は行動することになるのか…。

さて、それじゃ送信済みメールも自動で保存される下書きも、受信ボックスからもゴミ箱からも全部削除削除。 今は夜の10時過ぎ…この手紙を完全焼却処分するにはちょっと早いか。何か燃やすなんてそうそうやることじゃないから うまくできるか心配だ。フライパンの上で燃やすのが一番安全かな…。

…にしても、この書き方がどうにも気になる。恐らくは何かを伝えようとしている。 ぼくだけが見てぼくが処分するであろう手紙で、どうして直接的な表現をしていない箇所があるのだろう。

理由としては…まだLの捜査がこの部屋にまでは及んでいないと考えるのであれば、 やはり、ぼくに憑いていたと思われる死神のリュークか。この手紙を書いているところも、リュークは見ていたに違いない。

リュークに知られたくない内容で、ぼくがぼくに伝えたかったこと。なんだろう。 手紙を燃やすまでの時間に、考えてみようか。

さっきも疑問に思ったのは、どうしてぼくが拾ったというデスノートは所有権を放棄したのに対して ミサちゃんのノートは燃やす必要があったのか。どっちも燃やしたって、どちらも所有権を放棄したって、 この結果は同じはず。

ただ、ミサちゃんのノートはミサちゃんの命を救ったらしい死神のもので、 その死神はその時に死んでしまったようだ。

ぼくのノートはリュークが死神界で拾ったもの。出自は特に書かれていないから、 もしかしたら…ただの落とし物?その可能性はある。

死神は、デスノートに人間の名前を書き、その人間の残りの寿命をもらっている。 逆に言えば、誰の名前も書かないでいると、死神の寿命は尽きてしまう。

デスノートをなくしてしまった場合、寿命を増やすことができない。そのときの救済措置ってあるのかな。 「死神は無闇に人間界にいてはならない」ということは、いていい理由はあるはず。

例えば行方が知れなくなった自分のノートを探しに来るときとか…?でも、それならぼくのところに来るだろう。 考えられる理由としては、まだたっぷり寿命があるからそんなに焦っていないか、 落としたことに気づいていないか、落としたけどノートの位置が分からないか。

もし人間界の「どこか」だなんて、まず見つからないだろう。特に、ぼくのような者が持っていたとしたら デスノートの効果は知れてもどこで使われたかを断定するなど非常に難しい、もしくは時間がかかる。

リュークにそのことを尋ねたのかは分からないが、ぼくだったら「ノートを返したい」と思うだろう。 所有権を放棄した後、元の持ち主に返してあげてほしいとも頼むんじゃないだろうか。 だが、そのことを手紙に書いていなかったのはなぜだ…。

そしてもう1冊の方のノートは燃やした。当然、燃えたノートは使えなくなる。 ノートは効力を失い、存在しないことになったからミサちゃんは所有権を放棄したのではないのに レムのことは見えなくなり、記憶も失ったと思われる。

ミサちゃんがぼくに会いたいと思ってくれていたのはぼくがキラだったから。 ぼくが言うことを受け入れ、指示の通りに動いてくれたんだろう。 だからこそ、寿命の残りが半分になったのにノートを燃やすことを良しとしてくれたに違いない。

死神の目って、デスノートが燃えた後はどうなったんだろう。ミサちゃんに今度訊いてみるか… 「あの人の名前、見える?」って?ますます変な奴と思われそう…もし見えているのであれば それはデスノートの記憶が無くなった今なら「異変」だから、きっと見えてないんだろうな…。

で、ミサちゃんのノートは燃やした。彼女が燃やしたいと言ったのでなければ、ぼくの指示か提案だ。 となると、やはり…。

まず、人の名前を書いたらその名の人が死ぬなどというノートは、存在そのものが恐ろしすぎる。 ぼくはキラとして犯罪の抑止とするべく使ったようだが、死ぬと指定した人にノートに書いた行動を とらせられるとしたら、あらゆる利益をもたらすことも可能だろう。

それに、死神の目を持ち、手当たり次第に周囲の人・顔を見た人を殺しまくるなんていうことも考えられる。 ノートの存在さえうまく隠せば、最強の凶器と成り得る。

ぼくとしては…そんなノートが存在してほしくないと思う。記憶を失う前のぼくも、そう思っていたことだろう。

「所有権を捨てる」ということは、「他の者が所有できるようになる」ということ。 自分が持っているうちは他の誰の物にもならないが、ぼくの手を離れたらそれはどうなるか全く分からない。

ましてやノートの記憶を失うのであれば、そのあと何が起きようともノートのせいだと思うこともできない。 そんなことには、したくないと考えるだろう…。だがLの捜査によりキラの容疑者にまで絞られてしまい、 ノートを手放さざるを得ない状況になってしまった。

恐らく、ぼくは、もう誰もノートを所有するかもしれない状態にしたくなかったんじゃないだろうか。

ぼくが使っていたノートは、本当の持ち主がいる。その死神の寿命のためにも、返却しないといけない。 だから所有権を放棄した。

ミサちゃんが使っていたノートは、もう持ち主はいない。となると所有者はレムになるかもしれないが、 とにかくそのノートはフリーであり、また人間界に落とされて使われる可能性もゼロではない。

リュークがレムからそのノートをもらって別の人間に使わせる、それをさせたくなかったんじゃないか。 でも、リュークは面白いものが見たかったようだからそれを阻止したとは手紙に書けなかったのではないだろうか。 まあ、こんな凡人以下の考えなんて、死神にはとっくにお見通しだろうが…。

それでも死神たちと友好な関係をぼくが築いていたのであれば、死神は恐らく長い時を生きるだろうし、 あいつが生きてる間ぐらいは望み通りにしてやるか、と思ってくれるかも。もう死神とやり取りできないぼくには そう願うぐらいしかできないな。

ミサちゃんには…様子を見て、話すかどうかを決めよう。彼女にぼくが釣り合わないのは分かっているけど、 彼女が好意を向けてくれているのならば支えになろう。

それに、無駄な足掻きと死神は笑うのかもしれないけど、ぼくは「寿命」にだって逆らってみたいと思っている。 ミサちゃんの寿命が削られてしまっていたとしても、これからの人生、生き方で伸ばすことだって、 元に戻すことだって、できるという希望は捨てたくない。

…さ、もう夜遅い時間になってしまったけど、リンゴはおいしいうちに食べようかな。 台所へ行って、リンゴをざくざく。1個まるまるは多いなあ…誰かと分けて食べたい。

ぼくはリンゴは皮ごと食べる派だけど、リュークはどうだったんだろう? こうやって一緒に食べてたのかな。死神界にリンゴはあるの? そっちでも、おいしいリンゴが食べられてるといいね。

おやすみ、リューク。






シヅノート


(たぶんもう1ページ分続く)

2024年04月07日


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