◆◇ミュウツーの逆襲 -Another Edition-◇◆



すごい確率だ、とケミカは呟いた。 ちなみにマリカは何のことか分かっていないようだった。

「あ、あのさ、何が起きたんだ?」
「お前本当にポケモントレーナーか?」

いつの間にかマリカの隣でアインスタを抱っこしてフィジカが立っていた。

「きあいのハチマキ辺りが発動したんだろう。HPが僅かでも持ちこたえられてしまったか」
「へえ・・・そんなのあるのか」
「・・・・・・。」

物知らずが、とフィジカはマリカを睨みつけたがマリカは気づいていないふりをして頭の後ろで手を組んだ。 そして、ケミカ頑張れーと適当に声をかけた。

「ではこちらの番だな。タマゴうみだ、ラッキー」

ラッキーはポケットから取り出したタマゴの力で体力を回復した。 いつの間にか、ポケットの中には新しいタマゴがまた入っている。

「・・・体力を半分回復されちゃったか・・・よしイットリ、じしんっ!!」
「はいっ!」

イットリは、力強く地面を踏みしめて辺りに地震を起こした。

「ケミカのラッキー、そんな技も覚えてたのかよっ・・・!」

舌をかみそうになりながら、マリカが必死に言った。

「この威力なら、さすがに今度は倒せただろう・・・!」

フィジカも自分のポケモンたちをかばいながら揺れに耐えていた。 ちなみにユウロピだけは飛んでいるので特に影響は受けておらず、フィジカの横顔をひたすら眺めている。

イットリの「じしん」の標的となったラッキーの場所が、最も威力が高かった場所だ。 これでやっとラッキーを倒せただろう、とフィールドを見てみると。

「え・・・?!」

自分が陰に隠れているのに気づいて、はっ、とイットリは顔を上げた。

「カイリュー・・・?!」

いつの間にか、ミュウツーの隣に先ほどまでいたラッキーが座り込んでいる。 そして、イットリの目の前にはカイリューが羽ばたいて浮かんでいた。

「ポケモンを入れ替えさせてもらった。カイリューに「じしん」は効かない」
「そんな、いつの間に・・・・・・よしイットリ、ふぶきっ!!」
「残念だが先制はこちらだ」

ミュウツーが片手を上げると、カイリューは素早くイットリの上に回りこんだ。 イットリがふぶきを出そうとした瞬間、カイリューの はかいこうせんがイットリに襲い掛かった。

「きゃああーっ!!」

イットリは衝撃で吹き飛ばされ、反対側の壁に激突した。

「イットリ!!」

ケミカはイットリに駆け寄った。 他のポケモンたちも、ホウソやポロニウム、アクチなどの身軽なポケモンたちも一緒に走っていった。

「トリィ、しっかりしろ!」
「大丈夫イットリ・・・?」
「あ・・・はい・・・すみません・・・」

ケミカに抱き起こされ、イットリは薄っすらと目を開けた。 しかし、それ以上は動けないようだった。

その様子を見て、マリカが立ち上がった。

「・・・よし、やっと俺の番だな」
「ケミカさん、ぼくが行きます」
「・・・え?」

マリカの横から、声が聞こえてきた。 それは、ハクリューのルテチウムのものだった。

「ぼくが行きたいんです、お願いします!」
「で、でもルテチウム・・・」
「おいっ!俺の番なんだぞ!」
「ごめんなさいっ!」

ルテチウムは羽ばたいてカイリューに向かって飛んでいった。 それを見たマリカは ぎょっとした。

「・・・え、あのポケモン飛べんの・・・?!」
「ハクリューは、あの羽で空を飛ぶ姿も確認されている。そんなことも知らないのか」
「わ・・・悪かったな・・・」

順番を無視されたことも忘れて、マリカはフィジカをじとっと睨んだ。

ルテチウムが、先ほどの はかいこうせんの反動で動けないカイリューに向かって飛んで行く。 その後ろから、イットリの体を支えたままケミカは叫んだ。

「ルテチウム、げきりん!!」

ドラゴンの神秘的な力をまとって、ルテチウムはカイリューにぶつかっていった。 カイリューはタイプの相性もあって、相当のダメージを受けた。

「カイリュー、こちらもげきりんだ」

攻撃の反動が解けたカイリューも、ルテチウムに向かってげきりんを放った。 お互いげきりんを出してしまったため、指示ができないまま2匹の戦いが続いた。

「うっ・・・」

先に混乱したのは、先に技を仕掛けたルテチウムの方だった。 わけが分からなくなっている間に、カイリューがルテチウムに向かって再度げきりんをぶつけようとした。

しかし。

「・・・・・・っ!?」

直後、カイリューも混乱してしまった。 それを見てミュウツーは隣に控えていた最後のポケモンに目配せをして攻撃の合図をした。

「ドードリオ、お前の番だ」
「あっ・・・」

ポケモンを交代されたのを見てケミカはルテチウムに指示を出そうとしたが、 ルテチウムは混乱していて思ったように動けないようだった。

「ドードリオ、トライアタック」
「・・・!!」

その状態のルテチウムに、ドードリオの攻撃が容赦なく当たった。 ルテチウムはしばらく目を開けていたが、やがて力尽きて地面に倒れた。

「ルテチウム・・・!」

ケミカはホウソにげんきのかけらを渡した。

「ホウソ、これでイットリを・・・!」
「わ、分かった」

ホウソがそれを受け取ると、今度はルテチウムに向かって走り出した。

「ルテチウム、しっかり・・・!ゴメンね、無理させて・・・」

ルテチウムの顔を抱きかかえたが、ルテチウムは目を開けられなかった。 代わりに、消え入りそうな声だけが聞こえてきた。

「ごめんなさいケミカさん・・・ぼく・・・あのカイリューと・・・戦いたくて・・・」
「が、頑張ってくれてありがとう・・・一段階進化後のカイリューにあれだけ善戦したんだから・・・ご苦労様」

ルテチウムの返事はなかったが、穏やかに目を閉じているのを確認して、そっとケミカはルテチウムを地面に横たえた。 そして、リュックからげんきのかけらを出そうとした時。

「あっ・・・?!」

突然、ルテチウムが目の前から消えてしまった。

「ルテチウム!?」

遠くからホウソの声も聞こえてきた。

「イットリ!な、なんだこのボールは・・・!?」

ホウソの目の前で、イットリは黒いモンスターボールの中に吸い込まれていってしまった。 ルテチウムも同じ形のボールに入り、ミュウツーの側に飛んでいった。

驚いたケミカが動けずにいると、後ろからマリカが叫んだ。

「おい!人のポケモンをとったら泥棒だぞ!!」
「・・・そ、そうだよ!ぼくのルテチウムとイットリを返して!」
「私に指図をするな!!」
「?!」

ミュウツーがケミカを睨みつけると、突然体が浮き上がり後ろに吹き飛ばされた。

「うわあああ!!」

後ろにはマリカがいて、吹っ飛んだケミカの下敷きになった。

「いったたた・・・」
「ご、ゴメンマリカ・・・」

ミュウツーは両手を広げた。 すると、ミュウツーの周りにいくつものボールが出現した。

「なっ・・・人のポケモンを盗る気か!?」

フィジカが思わず後ずさった。 マリカもケミカも立ち上がって身構えた。

ミュウツーは両手を前に振り下ろし、無数のボールを差し向けてきた。

「盗る?違うな。もっと強いポケモンを作るだけだ。私に相応しい・・・」

目にも留まらぬ速さで、大量のボールがポケモンたちに襲い掛かった。 動きが遅いフランシやクルスが、水場で捕まってしまった。

「わーっ!」
「マスター・・・!」
「クルス!フランシっ!!」

その様子をぼーっと見ていたルビジウム、床で寝そべっているエカポロもあっさり捕獲された。 フィジカのことしか見ていなかったユウロピ、怖がって動けないでいたメリープのシェルミウも捕まった。

「シェルミウーっ!!」

もこもこのポケモンを捕まえられたことによるショックで、マリカは悲痛な叫びを上げた。

「私の速さについて来られるかな!」
「ちょ、ちょっと、アメリシ邪魔だよっ!」
「え?タンタル?」

キレイハナのくせに素早すぎるアメリシは、ボールを華麗にかわし続けていた。 が、調子に乗りすぎてメタモンのタンタルと衝突した。

「うわー!」
「なっ、タンタルのせいっ・・・」

アメリシの声も、ボールの中に吸い込まれていってしまった。

「つ、捕まってたまるかですニャ!!」
「シリコン!早く逃げろっ!」

ボラックスをカバンにつめて、エレメも走り出した。 カバンを正面で抱かかえたまま、ニャースのシリコンをかばいながら出口に向かった。 しかし、あと少しで扉というところでシリコンもボールに追いつかれてしまった。

「ニャーッ!!」
「シリコンっ!!」

その後ろでは、軽快に走っていたドードーのマンガンも捕まっていた。

「お、俺はそんなに早く走れねえよ・・・!」

ボールに向かって必死にかえんほうしゃで応戦しているのは、ホノオグマだった。 次から次へと向かってくるボールを、全て焼き払っている。

「兄貴!あっしの背中に乗ってくださいっ!早く!」
「プロトア・・・!」

オオタチのプロトアの背中にホノオグマがよじ登った。 プロトアのボールのみきり具合は相当のもので、全てのボールを的確にかわしていた。

ホノオグマはプロトアの背中から振り落とされないように必死にしがみついた。

「きゃああー!」

その時、遠くから悲鳴が聞こえた。

「ハッパ!!」

ローレンシとハッパもそれぞれ応戦していたが、隙をつかれてハッパが捕まってしまった。 それに気をとられたローレンシも同時に捕獲された。

「あ、兄貴、動いたら危なっ・・・」
「わーっ!!」

ホノオグマとプロトアも盛大に転んで、ついに捕まってしまった。

「みんな、早く逃げて!ここにいたらダメだよ!!」

ケミカはボールを振り払い走りながら叫んだ。

「うわあっ!」

その後ろで、チコリータのアクチの声が聞こえた。

「アクチ!!」

さらにケミカは気づいていなかったがアネ゛デパミ゛も声を発さずケミカの頭上で捕らえられていた。

「・・・そうだ!」

走りながら、ケミカはひらめいた。

「ポロニウム、ボールに戻って!ボールに入ってれば大丈夫だ!」
「あ、そっか・・・はい、分かりましたご主人様!」

ホウソの後ろを走っていたイーブイのポロニウムは、ボールに入ってケミカの手元に戻ってきた。

「ふう、よかった・・・」

モンスターボールを持ってため息をつくケミカを見て、ミュウツーが遠くで笑った。

「・・・無駄だ」
「えっ?」

黒いボールがケミカの手にあるポロニウムが入ったモンスターボールにぶつかった。 すると、モンスターボールが黒いボールの中へ吸い込まれてしまった。

「あっ・・・!ポロンっ!!」
「私が作り出したボールに不可能はない」
「そんなっ・・・」

ケミカはまた走り出した。
前を走っているのは、ホウソ。

ホウソは後ろから追いかけてくる大量のボールを巧みにかわしながら走り続けていた。

「ホウソ、頑張って!」

ケミカはホウソの後を必死に追いかけた。

ぶつかられたらおしまいだ、とホウソは死に物狂いで逃げ続ける。 上から来るかと思えば、横から、後ろからとボールたちの猛攻は続く。

ミュウツーが降りてきた金の螺旋滑り台を、ホウソは駆け上がり始めた。

ケミカもボールに何度もぶつかられながらもホウソを追った。 ケミカが走る速さよりもボールたちの動きはずっと早い。

ひとかたまりのボールの集団がケミカの横を追い越して、ホウソに襲い掛かった。

「ちくしょうっ・・・来るなああっ!!」

叫ぶと同時に、ホウソはでんきショックを繰り出した。 するとホウソの周りにいたボールたちは、力を失って落下していった。

「ホウソっ!」

ケミカも金の螺旋を駆け上がっていった。 その間も、ホウソは何度もボールたちに電撃を浴びせている。

「はあ、はあ・・・・・・わっ!うわっ!!」

連続で電気を使い、さらに走り通しで息を切らせているがボールたちの追跡は終わらない。 螺旋の一段下までケミカも追いついてきていた。

「わっ・・・・・・わあああ!!」
「ホウソ!?」

ホウソの声がした方を見上げると、ホウソはボールたちに追い詰められて滑り台の横から落ちてしまっていた。 下は床だったが、ケミカは何も考えずホウソを追いかけるように飛び降りた。

さらに、落下しているホウソをいくつものボールたちが後を追っている。

「ホウソーっ!!」
「ケミカ!?・・・あっ!」

落下中で動けないホウソにボールがぶつかり、ホウソはボールに吸い込まれていった。
しかし、ケミカはそのボールを両手で捕まえた。

「わ・・・?!」

ホウソを捕まえたボールは空中で方向を変え、ボールを掴んだままのケミカも宙を舞った。 ミュウツーの側にある柱が浮き上がり、他の捕獲されたポケモンたちが入ったボールも床の下の機械に入っていく。

ホウソが入ったボールと一緒に、ケミカも穴に落ちてしまった。

「ケミカ!?」
「おい、ケミカ!!」

他の3人のトレーナーたちもケミカが落ちていった穴に向かって走って行ったが、柱が元に戻ってしまい後を追うことはできなかった。






「うわっ!い、いたたた・・・っ」

ケミカは長い長いチューブを滑り降りていき、ついに最下層に到達して尻餅をついた。 その瞬間、ホウソが入ったボールを取り落としてしまった。

「あっ、ホウソが・・・!」

落ちたところは、ベルトコンベアになっていた。 ここに運ばれたボールは、全てこのベルトコンベアでさらに先の巨大な謎の機械に入っていくらしい。

ベルトコンベアの上でケミカがバランスを失って転びそうになると、突然体が浮かんだ。

「な、なに・・・!?」
「大丈夫?」

声がした肩の方に振り返ると、なんとそこにはポケモンがいた。

「ありがとう・・・き、きみは?」
「・・・ボクは、ミュウ」
「ミュウ・・・!?」

ミュウはケミカをベルトコンベアから床に下ろし、また宙に浮かんだ。

「きみが伝説のポケモンのミュウ・・・?!こ、こんなところで、なにしてるの・・・?」
「ここにならあると思ったんだけど・・・ないなー・・・」
「え・・・なにが・・・?」

この地下室は訳の分からない機械でいっぱいだ。 大きなモニターが壁に張り付いていて、床には水が入った太いガラスの水槽がいくつも伸びている。

一番大きなベルトコンベアと繋がっているトンネル状のマシンは、中で何かが起きているらしく常に機械音を発している。 その下には、たくさんのボタンとメーターやランプがついていて、ケミカは本当に何なのか分からなかった。

「ここは一体・・・?この機械、なんなの・・・?」

機械の周りをぐるぐると飛び回りながら何かを探している様子のミュウに、ケミカは再び話しかけた。 ミュウは空中で停止して、ケミカを見下ろした。

「これは、ポケモンの「コピー」を作る機械」
「ポケモンの・・・コピー・・・?!」

ケミカは思わずミュウの言葉を反芻した。

「元のポケモンの遺伝子情報が、少しでもあれば寸分違わない複製品が作り出せる機械だよ」
「え、そんな・・・」
「ただし、この機械にはさらに改良が加えられてて、そのポケモンの種族の限界まで力を高めて生み出せるみたいだね」
「・・・・・・」

ケミカはミュウの言うことが分からず、ただ息を呑んだ。 そうこうしていると、突然機械に繋がった水の入ったチューブから水槽へ、ポケモンが流れてきた。

「あ・・・」

ミュウはその円柱状の水槽に向かって飛んでいった。 ケミカも後を追った。

「これは・・・フランシ・・・!?」
「・・・キミ、マリルを持ってるの?これはそのマリルのコピーだよ」
「え・・・だ、だって、どこもフランシと変わらないよ・・・?コピーだなんて、そんな・・・」

水槽の中のマリルは、両手足を縮めて尻尾を抱いた体勢で眠っている。 その横の水槽は、ニャースやメリープ、ヒノアラシなどの他のトレーナーたちのポケモンのコピーでいっぱいになっている。

「こっちは・・・オオタチ、フシギダネ、イーブイ・・・キレイハナ・・・」

次々に生み出されるコピーを、ケミカはただ眺めていることしかできなかった。 しかし、突然我に返ったようにミュウに振り返った。

「ミュウ、これはどういうこと?ミュウツーがやってるの?」
「うん」
「ミュウツーは何がしたいの?ミュウは・・・ここに何をしにきたの?」
「・・・・・・」

ミュウは空中で一回転してから、ケミカの目の前まで飛んできた。


     






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