「え、エレメ!?」 「なぜお前がここに!?俺たちより先に到着したというのか?!」 「エレメも招待状もらってたのかよ・・・俺もらってないのに・・・」 なんと、そこにはエレメが座っていた。 まるみみピチューのボラックスにフォークに刺さったリンゴをあげている。 「ん?」 「エレメも来てたんだ、ビックリした・・・!」 「よっ!ケミカも来たか!さすが俺のライバルだな!」 「ど、どうやって来たの・・・?」 エレメの手持ちポケモンでは、荒れた海を渡れそうもないとケミカは不安になった。 「エレメ、フシギダネとニャースと、そのピチューしか持ってないよね・・・?」 「ああ、ドードーのマンガンに乗ってきたんだよ」 「ドードー!?」 会話を聞いていたマリカとフィジカも同時に驚いて声を上げた。 「ドードーで、どうやって?!」 「どうって・・・「そらをとぶ」覚えてたから、それで飛んできたんだけど」 「そ・・・そう・・・」 確かに間違ってはいないが、物理的に不可能だ。 ケミカは混乱する頭を無理やり納得させようと、片手で頭を抱えて何度もうなづいた。 「バカかお前っ?!ドードーで来られるわけねえだろ!」 「来られたんだから仕方ないだろー?いきり立ってねえで、みんなもこれ食えよ。うめーぞ」 「あー・・・・・・」 テーブルの上には、いくつもの銀の皿が並んでいる。 そして皿には色とりどりのフルーツが高く積み上げられている。 いつ用意されたのか、ジュースもちゃんと3人分並べられている。 「とりあえず食べるとするか」 と言って最初に椅子におとなしく座ったのは、フィジカだった。 「うん・・・俺も・・・」 続いてマリカも座った。 まだ納得がいかない様子だが、目の前にあるブドウを3つほど一気に口に放り込んだ。 「あ、ほんとだこれうまい・・・」 「だろ?ほーら、ボラックスも食べろー」 「わーい」 エレメが持っているイチゴを、ボラックスはテーブルの上に座り込んで嬉しそうに食べた。 普通のピチューより長くて先が丸い尻尾をぱたぱたと振っている。 「じゃ、ぼくも頂こうかな」 ケミカも椅子に座って、オレンジを一切れ口に入れた。 広いこの部屋の奥に、本物なのかは分からないが遠目からは木に見える遊具がそびえ立っている。 その左には別の部屋から水が流れ込んでいる大きな水槽がある。 マリルのフランシやクルス、ハクリューのルテチウムなどはそこで遊んでいるようだ。 ホウソやホノオグマなどの陸上系のポケモンたちは、別の小さいテーブルを囲んで用意された何かを食べている。 ヒノアラシのローレンシとハッパは、トゲピーのアインスタがどこかに歩いて行ってしまわないよう必死のようだ。 そうこうしているうちに、一時間ほどが経過した。 しかし、一向にこのパーティの主催者が現れる様子はない。 「・・・ここのご主人が現れないね」 「そうだな、準備にしちゃ時間かかりすぎだな」 「どんなポケモンを揃えて来ようと、必ず俺が勝利してやる」 「フィジカやる気満々だね・・・」 「俺は戦う気全然ねーけどな」 眠そうになっているボラックスをひざの上に乗せて、エレメが言った。 ボラックスは目をこすって小さくあくびをした。 「あ、そうなんだ・・・」 「今俺のポケモンで戦えそうなのって、ニャースのシリコンとドードーのマンガンだけだもんなー」 「あれ、フシギダネは?」 「エカポロは、あっちで寝てる」 そう言って、テーブルの後ろのふわふわのトランポリンのような場所を指差した。 そこの中心で、エカポロが眠っていた。 「・・・・・・。」 「ま、お前ら3人強いんだし、俺は見てるよ。トーナメントとかになったら、俺はパスな」 「う、うん・・・いいんじゃない?」 ケミカは遠慮がちに笑った。 どうして来たんだろう、と内心思ったが言わないでおいた。 その時、螺旋状の金色の滑り台のような物の近くから、先ほどのラッキーが歩いてきた。 トレーナー4人の前で、また一礼をした。 「お待たせ致しました。最強のトレーナーがお見えになります」 「おっ!ついに来るのか!」 「どんな人だろう・・・」 どこから来るのか、と周りを見回していたが、その人物は思わぬ方向から登場した。 金の滑り台の中心、高い天井の上から、静かに下りてくるのだった。 「え・・・?!」 乗り物も機械も何も使わず、音もなく床の上に降り立った。 「あれは・・・」 4人が驚いていると、ラッキーは滑り台のある水場に駆け寄っていった。 そして、また振り返った。 「こちらが、最強のトレーナーにして、最強のポケモン「ミュウツー」様です。」 登場したのは、人間ではなくポケモンだった。 ラッキーはミュウツーがいる高い段になっている部分によじ登って隣に立った。 「ポケモン!?」 「トレーナーがポケモンだと!?」 マリカとフィジカが次々に声を上げた。 「そんな、バカなことがあるかよっ!!」 驚愕のあまり叫んだマリカに、ミュウツーが視線を向けた。 「・・・いけないか?」 確かに聞こえてきたミュウツーの声は、ミュウツーの口から発せられたものではなかった。 「これは・・・テレパシー・・・?」 ケミカは思わず耳に手を当てた。 ミュウツーが登場したときに立ち上がった3人に対して、エレメだけは椅子に座ったままだった。 「・・・あれが、ミュウツーか・・・」 「!?」 エレメの言葉に、マリカとフィジカが振り返った。 ボラックスを起こさないように抱かかえたまま、エレメはゆっくりと立ち上がった。 「じーさんから聞いたことがあるよ。でも死んだって言ってたけどな・・・?」 「で、でも、あそこに現にいるぞ?」 「だよなあ・・・」 マリカがミュウツーを指差して言っても、エレメは片手で頭をかくだけだった。 「ポケモンがトレーナーでも、人間より勝っていることを証明すれば最強のトレーナーだろう」 またミュウツーが言葉を発した。 「私が作り出した嵐を越えてここまで来られた実力者たちだ。さぞかし腕に自信があるのだと思う」 「嵐を作り出した・・・?」 「あの嵐で、試したっていうのか?!」 マリカが噛み付かんばかりの勢いで叫んだが、ミュウツーは表情一つ変えなかった。 「あれを越えられないようでは招待する意味がない」 「・・・・・・!」 「トレーナーとしての実力を確かめてみるか?私とポケモン勝負で戦える者がいるなら、こちらへ来い」 ミュウツーがそう言った瞬間、その広いパーティ会場の奥にポケモンバトルフィールドが現れた。 天井はなく、代わりにねずみ色の空が見えている。 突然、ミュウツーの足元の床が2箇所丸く開き、ポケモンが下から現れた。 その丸く開いた床は、光るとまた元の床に戻ってしまった。 床から現れたポケモンとは。 「ど・・・ドードリオ・・・?」 「ケミカ、あっちのでかいのはなんだ?」 「あれは・・・カイリューだよ・・・」 マリカに尋ねられて、ケミカはポケモンたちを見つめながら答えた。 ミュウツーの周りには、この場所にトレーナーたちを案内したラッキー、そしてドードリオとカイリューが並んだ。 「ミュウツーは・・・そのポケモンで、戦うの・・・?」 「そうだ、ハンデをやる。私が使うポケモンは、この3体だ。お前たちの中で、何でも好きなポケモンでかかってくるがいい」 それを聞いてフィジカは小さく舌打ちをした。 「・・・なめられたもんだな、3匹とも俺が戦う。文句はないな」 「え・・・・・・」 ケミカは言い出しにくそうに口を開いた。 「・・・ぼ、ぼくも戦っちゃダメかな・・・」 「俺もやりたいっ!エレメは戦わないなら、俺たち3人で1匹ずつ出そーぜ」 「・・・・・・。」 フィジカは腕を組んで二人を睨み付けた。 「あ・・・・・・。」 二人が萎縮していると、自分のポケモンたちの方に向かって歩きながら吐き捨てるように言った。 「・・・好きにしろ。ただし、先発は俺だ」 「あ・・・ありがとう、ゴメンねフィジカ・・・」 「よしっ!じゃあ俺は誰を出そうかな。みんなこっちこーい」 マリカは嬉しそうにしゃがんで、自分のポケモンたちを呼び寄せた。 ケミカもポケモンたちを集めながら、誰にしよう、と考えていた。 とても広いフィールドで、トレーナーたちとミュウツー、そしてそのポケモンたちが対峙した。 エレメだけは、眠ってしまったボラックスと最初から寝ていたエカポロを足元で眠らせて後ろから様子を見ている。 「・・・それでは、バトル開始だ。私は、このポケモンを出す」 そう言って、ミュウツーはラッキーに目で合図を出した。 ラッキーも軽く目で頷き、ミュウツーの前に出て行った。 「・・・行け、アインスタ」 ポケモンを前に出したのはフィジカだった。 嬉しそうにトゲピーのアインスタが前に出て行った。 ラッキーの目の前まで歩いて行き、お互いの距離は数メートルになった。 お互いのポケモン越しに、ミュウツーとフィジカは静かににらみ合っている。 しかし、後ろで見ているローレンシとハッパだけはアインスタが転ばないか泣き出さないかとはらはらしていた。 「フィジカ、アインスタを行かせるですか・・・」 「アインスタは十分に育てている。何も問題はない」 「で、でもご主人、まずはぼくが行った方が・・・」 ローレンシがフィジカの顔を見上げながら言ったが、フィジカは全く耳を貸す様子はない。 後ろにいたローレンシとハッパは仕方なく黙った。 「フィジカさんの後姿、かっこいい・・・」 その隣にいるネイティのユウロピだけは、別の世界にいるようだった。 「ルールは3対3の入れ替えバトルだ。」 「分かった」 そう言うが早いか、フィジカはアインスタに向かって叫んだ。 「アインスタ、おんがえしだ!!」 「わーいっ」 アインスタは片手を上げて、巨大な衝撃波をラッキーにぶつけた。 突如フィールドに巻き起こった爆風で、軽いポケモンたちは数匹後ろに吹き飛んだ。 「うわっ!」 「すごい・・・」 マリカとケミカも両腕で顔を覆った。 フィールドの地面が削られて、辺りには砂煙が立ち込めた。 えぐれた地面に立っているのは、アインスタ。 そして、もう一匹。 「な・・・なんだと?!」 驚愕の声を上げたのは、フィジカだった。 「アインスタのおんがえしを食らえば、ラッキーなら確実に一撃で倒せるはず・・・!」 ラッキーも、今にも倒れそうな様子だったが何とか攻撃をこらえて立っていた。 「そんな、バカな・・・!」 「・・・残念だったな」 ミュウツーが静かに言った。 「普通のラッキーならばひとたまりもないだろうが・・・このラッキーは、特別だ」 ラッキーは体勢を立て直して、アインスタに向き直った。 それと同時に、ミュウツーが右手を上げて指示を出した。 「カウンター」 その瞬間、フィジカは我を忘れて走り出した。 「アインスタ!!」 「!!」 ラッキーが放ったカウンターをまともに食らい、アインスタは高く跳ね飛ばされた。 フィジカは吹っ飛んだアインスタに駆け寄り、地面に打ち付けられる寸前で飛び込んで受け止めた。 「フィジカ!」 ケミカは思わず声を上げた。 しかしそれと同時に別の場所からも声が上がっていた。 「よ・・・よくもアインスタを・・・!許さないですよっ!!」 それはハッパだった。 フィジカが立っていた場所で、ミュウツーを見上げて威嚇している。 「次はハッパが相手になってやるですよっ!!」 形振り構わず、ハッパはラッキーに向かって走り出した。 「ハッパ・・・!」 ローレンシも止めるタイミングを逸して、ハッパの後姿に手を伸ばすことしかできなかった。 「食らうですよ!はっぱカッ・・・」 「やめろ!ハッパ!!」 フィールド中に響いたのは、フィジカの声だった。 ラッキーの目の前まで走り、頭の葉っぱを振り上げていたハッパは寸でのところで立ち止まった。 フィジカは、アインスタを抱かかえたまま屈み込んでいる。 ハッパに背を向けた状態だが、力強く言った。 「ハッパ、戦うな。戻れ」 「そ、そんな・・・フィジカは悔しくないですか!?ハッパの攻撃なら、あと一撃で倒せるですよ・・・!」 「戻れと言っているんだ!お前では勝てない。戻れ」 「・・・・・・!」 ハッパは驚いて尻尾と頭の葉っぱを硬直させた。 そして、忌々しそうにラッキーを見上げてから、くるりと向きを変えてローレンシがいる場所まで走っていった。 「・・・分かったですよ・・・」 「ハッパ・・・」 戻ってきてその場にうずくまったハッパをローレンシは悲しそうに見下ろした。 「次は誰だ?」 ミュウツーがマリカとケミカを見ながら尋ねた。 すると、ケミカが前に出た。 「・・・ぼくが行くよ」 ケミカのポケモンたちは、誰を出すんだろうとドキドキしながらケミカを見つめた。 しかしケミカは、ミュウツーに語りかけた。 「ミュウツー、そのラッキーは何が特別なの?あの攻撃を耐え切れるなんて、おかしいと思うんだけど・・・」 「おかしくはない。このラッキーは打たれ強くて“頑丈”だ。ただそれだけのことだ」 「が、頑丈・・・!?ラッキーに、そんな力は・・・」 そう言いかけて、ケミカはなぜか口を閉ざした。 「・・・ぼくも、ラッキーを出すよ」 その言葉を聞いて、ラッキーのイットリが前に出て行った。 イットリは、今にも倒れそうなミュウツーのラッキーと向かい合った。 ラッキーはイットリを見て、やわらかく微笑んだ。 「・・・あなた、名前は?」 「えっ・・・イットリです・・・」 「・・・・・・そう」 相手のラッキーはそれしか言わなかった。 その会話はケミカとミュウツーからは離れていて聞こえていない様子だった。 「私はこのポケモンのまま戦う。」 「・・・え、替えないの・・・!?」 「さあ、第2ラウンド開始だ」 ケミカは素早くイットリに指示を出した。 「イットリ、すてみタックル!」 イットリはその瞬間猛スピードでラッキーに駆け寄り、体ごとぶつかっていった。 ダメージはイットリにも入ったようだが、その衝撃の大半は相手に与えたはずだ。 「よし、特性があっても、体力が残り少ないからこれで・・・」 ケミカは安堵の声を上げたが、なんとまだ相手のラッキーは立っていた。 それにはフィジカもマリカも驚いた。 「・・・ええっ?!」 「運が良かったな」 ミュウツーの声が聞こえてきた。 「そ、そんな・・・この状態で・・・!?」 |