◆◇ミュウツーの逆襲 -Another Edition-◇◆



「・・・私はもう、ここには来られない。どうか・・・許してくれ」

・・・なんだ?
声が聞こえてくる。

許す?なにを許すんだ?

・・・ここは、一体どこだ?なぜ動けない?

「・・・私と一緒にいてはだめだ・・・さようなら。幸せに・・・生きてほしい・・・」

幸せ・・・?生きる・・・?
なんだそれは・・・?

・・・声が聞こえなくなった。なぜ動けないんだ?私はいつからここにいた? 私を動けなくしたのは誰だ?



・・・どれぐらい時間が経ったのか分からない。 いつの間にか、私は「外」に出ていた。

液体があちこちに大量に散乱している。ガラスの破片も飛び散っている。

・・・これは、私がやったのか?

私の後ろには3本の液体に満たされた水槽が立っている。 私も、この中に入っていたのだろうか。そして、私がこれを壊した?・・・どうやって?

私はなぜこの中にいた?私はどこから来たんだ?

(・・・ミュウツー。お前の名前はミュウツーだ・・・)

「?!」

頭の中に何かが聞こえてくる。私はこの声を・・・知っている・・・?

(世界で最も珍しいポケモン、ミュウから私が作り出した。私たちはポケモンの遺伝子から完全なコピーを・・・)

「・・・・・・!」

これは、私の記憶だろうか・・・? 私はこの声の主を知っている・・・そうだ、私は・・・。

ミュウから・・・?作り出した・・・私を・・・?

私はどこから来たんだ?

・・・なぜ、私は生まれてきた?






「ケミカ?」

部屋の中に、ピカチュウのホウソの声が響いた。

「ケミカ、なに見てんの?」

ホウソが尋ねる声にも、何の返事もない。 ケミカが座っている椅子の後ろから、テーブルにホウソは飛び乗った。

「ケミカっ!」
「・・・わっ」

突然ホウソが視界に入ってきて、ケミカは遅れて声を上げた。 ホウソは不満そうにケミカを見上げた。

「全然返事しねーんだもん。なに読んでんだよ?」
「あ、ごめんごめん・・・」
「・・・手紙?誰から?」

ケミカの手元に視線を落とした。 そこには1枚の手紙が握られていた。テーブルの上には、開いた封筒が置かれている。

「招待状みたいだよ。」
「招待状?誰から?」
「差出人の名前は書いてなかったんだ」
「・・・なんだそれ」

封筒を裏返して見せたが、そこには特に何も書いていなかった。

「じゃあどうやってこの手紙来たの?誰が届けてくれたんだ?」
「ドードリオが・・・」
「ドードリオっ?!」

ホウソは思わず叫んだ。

「ドードリオが運んできたのか!?走って!?」
「ううん、飛んできた・・・ほら「そらをとぶ」覚えるじゃん・・・?」
「お、覚えるけど、飛ぶのか・・・?!」

ちょっと見てみたかったな、とホウソは口の中でつぶやいた。

「ま、まあいいや・・・それで、なんの招待状だって?」
「トキワの南西、数キロのところにある小さな島で、パーティがあるんだって」
「パーティ?トキワの南西の小さな島って・・・なんでそんなところでやるんだよ」

ケミカも分からないらしく、うーん、と首をかしげた。

「ケミカも行くの?」
「あはは・・・あんまりパーティって行きたくないんだけどね」

そう言いながら、封筒の中から1枚の紙を引っ張り出した。

「船のチケットまで入れてくれてるんだよね・・・」
「うわ、本格的な招待だな」
「俺も一緒に行っていいだろっ?」
「・・・・・・?」

二人(?)の後ろから声がした。
振り返ってみると、メリープのシェルミウを抱っこした、マリカが歩いて来ていた。

「マリカ・・・」
「招待状が来たの、ケミカだけだろ?入れてもらえないんじゃん?」
「船出すぐらいだからたくさん人が来るだろ、俺はケミカの付き添いって言うから」

ケミカに付き添いなんかいらないだろ、とホウソは心の中でツッコミを入れた。

「ぼくはいいけど・・・」
「トレーナーがたくさん来るならふわふわしたのがたくさんいるだろうし!」

そんなポケモンばっかりではないだろ、とまたホウソは心でツッコミを入れた。

「手紙の文面の中では、差出人は「最強のトレーナー」なんだってさ」
「最強のトレーナー?!自分で言ってるのか?!」

聞き返したのは、ホウソ。

「え、自分で最強って言ってんだ・・・?」

マリカも半ばあきれたように言った。

「本当に強い人なんだったら会ってみたいけどね」
「いや・・・どうせ金持ちの変な人だろ。」
「ま、とりあえず支度をしようか。トキワの西の港に、明日の12時集合だよ」
「あ、ああ・・・分かった、みんなに言っとく」
「俺も準備しないとな!」

マリカは嬉しそうに部屋から出て行った。 いまいち不安が残るのか、ホウソが部屋から出る足取りは少々重かった。






「皆様の御来訪を、心よりお待ちしております・・・か。」

一方、ここはニビシティの北の林の中。 ハッパとヒノアラシのローレンシを引き連れた赤い髪のトレーナーがそこにいた。

「・・・まったく、くだらんな。何が「最強のトレーナー」だ」

やっぱり、フィジカだった。 彼は届いた手紙に一通り目を通し、そして律儀にまた畳んで封筒に入れなおした。

「最強のトレーナーになるのは俺だ。その俺にこんな手紙を送ってくるとは、いい度胸だな」
「フィジカ、その島に行くですか?」

ハッパは不安そうにフィジカを見上げた。 隣にいるローレンシは、アインスタの子守に忙しい。

「当然だ。」
「そんな、誰からか具体的に分からないですのに・・・」
「最強のトレーナーを倒せば、俺が最強のトレーナーになるからな」
「・・・そりゃ、そうかもですけど・・・」

反論の言葉が見つからず、ハッパは口ごもった。

「怪しいですよ、わざわざフィジカにそんな手紙をよこすだなんて・・・」
「交通手段は船だし、大丈夫なんじゃ?」

ごねているハッパに、ローレンシが言った。

「手紙を届けに来たカイリューも、他にもまだ渡す人がいるみたいだったし」
「うー・・・でも・・・ハッパの第六感が、やめろと言うですよ・・・」

その二匹の会話などまったく感知しない様子でフィジカは腕を組んだ。

「いざとなれば、泳いで島から脱出する。つべこべ言わず出立の用意をしろ。」
「・・・は、はいですよ」

何とか頷いたが、泳いでという単語にローレンシも不安になった。 木の実で遊んでいるアインスタだけは楽しそうだった。






一方、モニタに覆われた部屋の中。 真ん中に一つだけ大きな椅子が置かれている。

その椅子に座っている何者かが、ゆっくりと右手を回し始めた。 それに呼応するかのように、モニタに映し出されている空、その雲たちが静かに回り始めた。

そのとき、部屋に誰かが入ってきた。

「カイリューとドードリオが全員に手紙配り終えたって・・・・・・あら?何してるの?」
「・・・・・・。」
「これからみんな来るのに・・・まあ、いいけどね」

話しかけているのは、高く優しい女性の声。 その間も徐々に風は強まり、やがてそれは嵐になっていった。






「ええっ!?船が出港できない!?」

次の日のお昼。
ケミカは、トキワシティの西の港にやって来ていた。

「ど、どうしてですか・・・?」

受付のお姉さんは申し訳なさそうに頭を下げた。

「申し訳ございません、チケットの払い戻しのお手続きはあちらで・・・」
「あ、いえそれはいいんです。他にあの島に行く船はありますか?」
「いいえ、すべて欠航で・・・」

ケミカの後ろにいるポケモンたちも、顔を見合わせてため息をついた。

「天気予報では今日の午後は快晴のはずだったんですが、原因不明の大荒れなんだそうです」
「うーん・・・困ったな」

ケミカは受付を離れて、頭を抱えた。

「どうするんですか?ご主人様」

イーブイのポロニウムが、ケミカの足元に擦り寄った。

「船はダメみたいだからね・・・どうしようね」
「大丈夫!」

元気な声が聞こえてきた。

「マリカ・・・?」
「平気平気、さっき何人かポケモントレーナーが、海に向かって飛んで行ったらしいんだよ」

ちゃっかり一緒に港まで来ていた、マリカだった。 頭にはホノオグマが乗っている。

「え・・・この嵐の中を・・・?」
「こうなりゃ、強い奴だけが島に辿り着くってワケだな。島で会おうぜ、ケミカ!」
「き、気をつけてね・・・」

マリカの後ろには、シェルミウがついて歩いていく。 港の出口に向かう彼らを、ケミカは不安そうに見送った。

「俺たちはどうする・・・?」

ホウソが、恐る恐る尋ねた。

「船も出せないような海なんだから、もうどうしようもないよな?」
「んー・・・」
「もうその変なパーティはあきらめようぜ!なっ?」

妙に饒舌になっているホウソに、ケミカは思わずふきだした。

「あははっ、なみのりで海に入った人がいるみたいだし、大丈夫だよ」
「だ、だから、ケミカの手持ちでこんな海を渡れるヤツ、いないだろ?」

ポロニウムに視線を送ったが、ポロニウムは無言で首を振った。

「私は泳げますけど、マスターケミカを乗せて荒波にもまれたら漂流しますね」
「そうだよな・・・」

マリルのフランシも、そう言って首を横に振った。

「私もちょっと無理です・・・ごめんなさい」
「トリィもなみのりは覚えられないもんな・・・」

ラッキーのイットリも悲しそうに下を向いた。

「・・・・・・無理」

ほとんど聞こえないような声で一言だけ言葉を発したのは、カラカラのルビジウムだった。 辛うじてそれを聞き逃さなかったホウソは慌ててフォローを入れた。

「そ、そりゃルビィはじめんタイプだし、無理だってのは分かってるよ!」
「・・・・・・役立たずって思ってる」
「思ってない思ってない!!」

ホウソは手も首も尻尾も振って全否定した。

「ぼくも無理だからね!」
「まあアクチも無理だな、ちっさいし」

そっぽを向きながらチコリータのアクチが言った。

「ぼくは泳ぐの得意だけど、人を乗せるのはちょっと・・・」
「あはは、クルスだけだったら行けるかもしれないね」
「クルスだけ到着しても意味ないだろ」

クルスはホウソと同じぐらいのサイズで、とても人を乗せることはできそうもなかった。

「ぼくだったら、大丈夫かもしれないですけどまだなみのり覚えてなくて・・・」
「ルーに乗るのは難しそうだな・・・ケミカならできるかもしれないけど」

次に発言したのはハクリューのルテチウム。 大きいが、乗るには大変な体の形をしている。

「アネ゛デパミ゛で空を飛んでいったらいいんじゃん?」
「ああ、なるほど・・・でも風も吹いてるしさ、危ないと思うよ」
「そうかな・・・そうだよな」
「やっぱり、海をなみのりで渡った方がいいって」
「うん・・・・・・えっ?!」

ホウソは思わず大声を上げた。 他のポケモンたちもケミカを見上げている。

「大丈夫大丈夫。とりあえずみんな、ボールに戻ってくれる?」

そう言って、モンスターボールを取り出してホウソ以外のポケモンをボールに戻した。 そして残ったのは、ケミカとホウソだけ。

慌しく人々が駆け回っている港から、二人は出て行った。


     






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