「クレールさーん!ランフォルセ、持ってきました!!」

以前来たときとはうってかわって必要以上の大声を発しながら、アリアは聖玉の姿のランフォルセを握り締めてクレールの部屋に駆け込む。 それに続いて、お邪魔しますと小声で周囲の召使たちに告げながらフィルとレックも部屋に入っていった。

この部屋までたどり着けたのもクレールと話すことができたのも全てセレスがとりなしたからだったが、 そのセレスはリアンの留守を守る召使たちに話をつけたらヴァイオレットを連れて王宮へ帰っていってしまった。

フィルは部屋を見回し、どことなく可愛くて、さすが綺麗なお部屋だなと感心する。床や棚などの平らな部分には塵一つ落ちておらず、 装飾の細かい家具調度の隅々にも手入れが行き届いているのが見て取れた。テーブルの上には美しい花が生けられた花瓶が置かれている。

椅子に腰掛けて本を読んでいたクレールの足元にすがりつくようにアリアは近寄り、両手に乗せたランフォルセを掲げた。

「ほら、ランフォルセです!これでシャープのところへ行けるんですよね?この後、どうしたらいいですか?」
「ええ…確かにランフォルセね。これがあれば、なんとか…」

本を閉じて、隣にいた召使にそれを渡す。召使はそれを静かに本棚にしまったが、クレールの視線に気づいており 他の召使たちにもアイコンタクトを送って次々に退室していった。相変わらずすごい人たちだなあ、とアリアはひざまずいた体勢のまま感心する。

「その前に、一つだけ言っておくことがあるわ。アリア、あなたはローズマリーには敵わないの。 ランフォルセを使って封印しようなどとは考えないで」
「え…」
「確かにあの子は地上にとっても脅威であり…これからますますそうなっていくでしょうけれど、闇の魔法で封じられるものは 光の魔法で生まれたものだけ。属性は対となって生まれ、片方の力を片方が破壊できる力を持たなければ存在は出来ない。 それが、メルディナの理だから…」
「……えーっと」

アリアはランフォルセを片手に乗せて、左手で頬をかいた。

「大丈夫です、私はシャープに会いたいだけですから。あの、行ったら帰ってこられますよね?シャープを連れて帰ってこられるなら何でもいいんですけど…」
「……」

クレールは金色の目をきょとんとさせてアリアを見下ろす。クレールの返事がないことにアリアは苦笑しながら肩をすくめた。

「…やっぱりそういうの、ダメ…ですか?」
「い、いいえ…いいのよ、それでいいの…それでは、今から話すことはとても大切なことです。フィル、レック、二人もしっかり聞いていてほしいの」
「え…は、はい」
「分かりました…」

アリアとクレールのやり取りを後ろから見下ろしているだけの二人だったが、突然声がかかって びくっとして背筋を伸ばす。 クレールは一呼吸置いて、語り始めた。

「あの子…ローズマリーは、私の実の妹。空の上の「アイテール」という場所に、私が閉じ込めた…。アイテールを「海」で覆って、私は地上に降りてきたの… あの子の心を癒す「癒しの司」として聖墓キュラアルティに存在し続けることにより、「海」を保ち続けていました。 「海」があれば、アイテールから誰も出られないし、誰もアイテールへ入れない。そのはずだったんだけれど…今は海に、エラー…… 歪のような部分ができてしまっているの。それを利用して、あの子は地上に干渉してきているのよ」
「……??」

頑張って理解しようとクレールの顔をじっと見つめて聞いていたアリアだったが、よく分かっていない顔をしている。 ちなみにフィルの隣でレックも同じような表情を浮かべていた。

「大事なのはその歪。そこを通り抜ければ、アイテールへ入れるわ。脆弱な部分は、聖玉によってさらに薄くなる。 アリアがランフォルセを持って「海」に当たらないように飛ぶことができれば、アイテールに無事にたどり着けるはず」
「なる…ほど…シャープがいる場所へ行く方法は、なんとなく分かりました…」
「あの、クレールさん…その「海」って、なんなんですか?水で覆われてるってこと、ですか…?」

おずおずとフィルが尋ねる。それが知りたかった、とレックも頷いた。

「海というのはアイテールを島に見立て、その周囲を覆っているからそう名づけただけで…実際には、聖玉の力で作り出された強力な… 壁のようなもの。ただし、通さないどころか…触れたものを、粉々にしてしまうの」
「……え」

なんだその危険なものは、と一同は言葉を失う。そんなものにアリアが近づくのか、とフィルとレックは身震いして同時にアリアに視線を向けた。

「アリア…木っ端微塵になるかもしれないんだよ。危なすぎるよ」
「え〜…やだよ、行くもん」
「アリアの親父さんが許可出すわけないと思うんだけどな…クレールさん、その「海」ってのが薄い部分って、見て分かるんですか?」

アリアはランフォルセを握り締め、頬を膨らませている。レックは やれやれと思いながらクレールにさらに尋ねた。

「波があるから…見ていれば、分かるはずです。その部分を通れなければ、ぶつかったものは霧のように消えてしまうけれど」
「こっわ…」
「霧って…もう、なくなっちゃうのと同じなんじゃ…」

粉々どころか消滅というレベルの現象である。しかしアリアの青い目からは全く希望が消えておらず表情は嬉々としており、 道をあけたら駆け出して行ってしまいそうなほどだった。それに気づいてか、クレールは自分の膝に置かれていたアリアの手に自分の手をかさねる。

「アリア…あの子の、ローズマリーの脅威からメルディナを救うには、闇の力に選ばれたあなたと、光の力を持つシャープが共にいることが必要です。 あなたがアイテールへ行こうと決意してくれていてよかった。かつて禁止されていた魔法が開放されることによってしか、 あの子に対抗する術がないから…どうか必ず、シャープの元へ行ってください」
「は…はいっ…!!」

無謀なこと、危険なことをするなと止めるのかと思いきやそんなことはなかったのでフィルとレックは拍子抜けすると共に心配になった。 アリアは大きく頷いて立ち上がり、足早に扉に向かう。まさか今から行く気か、とレックは慌てた。

「おいおい!?本当に行くつもりかよ、もうちょっとよく考えろって!」
「やーだー!とめてもムダです、扉開けるよ〜!」
「ぅおーいっ!!」

アリアは強引に部屋から出て行き、レックは必死にそれを阻止しようとしている。どうやって空の上に行くつもりだ、 空飛べるから大丈夫だもん、アリアの魔法力じゃ墜落するぞ、魔法力を高める薬を持っていくもん、 帰りはどうするんだよ、シャープがいるもん、という押し問答が遠ざかっていきフィルもそれについていこうとしたが、クレールの声がそれを止めた。

「待って、フィル。それに、レックも」
「は…はい」
「…えっ?お、俺ですか?」

呼ばれたことに驚いたレックがまた部屋へ駆け込んでくる。一度アリアの方を気にしたが大人しくクレールのそばまで歩いてきた。 フィルも既に扉の方に向けていた体をぎこちなくクレールの方へ戻した。

「あの子がしようとしているのは、メルディナの時間を人間が最も少ない時期まで巻き戻して生き残っている人間を殺すという方法で人間を滅ぼすこと。 そんなことをするには当然準備が必要で、あの子は今それを着々と進めているところなの。フィル、あなたが地上に来たのもその一環。分かるわよね」
「……」

レックは心配そうにフィルを横目で見たが、フィルは無言で頷いた。

「でもあなたは、マリーから聖玉の力を受け継いでいる。世界の時を巻き戻す「永世遡行」は、時の聖玉「オラトリオ」を使うのだけれど… あなたにもそれが扱えるはずよ。そして、あの子を止めるにはオラトリオを使って戦うしか方法がない」
「時の…」
「聖玉?」

二人は声を揃えて顔を見合わせる。クレールは立ち上がり、本棚の方へ向き直った。

「私がアイテールから地上に来るときに持ってきた「時の鍵」。聖玉に触れればきっと鍵の形に戻すことができるでしょうし、 その力を引き出すことも出来るはず…フィル、あなたにはこの本をあげるわ」

そう言ってクレールは、本棚の奥の方から古い本を取り出す。硬くオレンジ色の表紙の本で、表題は何も書かれていなかった。 フィルは両手を差し出してそれを受け取る。中を見ても、と尋ねるとクレールは柔らかく頷いた。

「オラトリオの使い方は、口で伝えるのは難しいの…だからその本に込めた私の力から、どうか感じ取って。あなたならできるはず」
「…む、難しいですね…でも、頑張ってみます。ありがとうございます」
「ええ…」
「それで…その、肝心のオラトリオはどこにあるんですか…?このお屋敷のどこかに?」

地下室にでも安置されているんだろうか、それともリアンさんが作った不思議な箱の中に入っていたりするのかな、と フィルは一通り想像をめぐらせる。しかしクレールは首を横に振ってまた椅子に腰掛け、テーブルの上にのせていた手を組んだ。

「オラトリオは、聖墓キュラアルティに置かれているというか…使われているわ。あの空間の時を止めるために…。 でも、今はあの場所にはもう誰もいないのでしょう。それを持ち出して、フィル…あなたもアイテールへ向かって下さい。 そして、今度こそあの子を…ローズマリーを、止めてほしい…」

クレールは痕がつくほど強く手を握り締め、か細い声でそう言った。それを見たフィルは、自分にしか出来ないのならばやるしかない、と クレールからもらった本をしっかりと胸に抱いて大きく頷く。そして、任せてください、と安心させるように声をかけた。

「…それと、もう一つ言わなければいけないことがあるの。」
「なんですか…?」
「時を「過去」に流れさせるのが「永世遡行」。それを阻害するものは「未来」に流れようとする力。 未来を知り、受け入れ、理解することができるのは飛び抜けた天才のみ…この地上には、一人しかいない…」
「ま、まさか…」
「父さん、ですか…?!」
「そう。フィルのお父様、カイ・ストーク・ラナンキュラス王子は「未来の記憶」を宿す能力をもつ特別な人… あの子は必ずカイ王子を狙うはず。でも逆に言えば、カイ王子がご健在ならば「永世遡行」は行えない。 だから、あの子を止める好機は今なの」

フィルよりもレックの方が動揺している様子で、カイさんが?でも、確かにあんな天才 他にいないもんな…と呟くように言った。 クレールは手を組みなおし、今度はそのレックに視線を向ける。

「それと、レック」
「あ、はいっ」

不意に語り掛けられ、レックは緊張しながらクレールに向き直った。

「…あなたは、今この地上で最も強い、癒しの素質があります。もちろん、癒しの司になることもできる」
「お…俺がぁ?!」

クレールのあまりに思いがけない言葉に、レックは自分を指差して叫んだ。フィルも、えっ、という顔でレックを見ている。

「癒しって…俺、全然そういうタイプじゃないと思うんですけど…」
「いいえ、どんな癒しでも行える力を持っているわ。バルカローレの皇帝一族の家系の中でもずば抜けている。地の聖玉だってきっと扱えるでしょう」
「…そうなの?いや、そうなんでしょうか…」
「あなたは聖墓キュラアルティにある「なだめの花ラクリマ」を再生する力がある。今は癒しの司が不在だから日に日に枯れていっているはず… それが完全に枯れてしまったら、アイテールを包む「海」は消滅してしまう。そうしたらあの子は好きなだけ地上に己の配下を送り込んでくることでしょう… あの子自身が地上に降りてきたら、それこそおしまいだわ…」

深刻そうにそう言うクレールを見て、もうこれはやるしかないと心に決めてフィルとレックは目を合わせた。

「大丈夫ですよ、クレールさん」
「俺たちに任せてください」






フィルは本を体の前で持ち、レックと二人並んで扉の前で大きく礼をしてから部屋から静かに出て行った。 クレールは召使たちを呼び戻そうと立ち上がったがその瞬間、妙な違和感を覚えて体を硬直させる。

「なに…?」

部屋を注意深く見回し、カーテンが閉められている窓、壁を埋めるように立ち並ぶ巨大な本棚、絵画、裁縫道具や筆記用具が入っている棚…と、 順番に視線を向けていき、最後に今まで自分が手を置いていた丸い金色のテーブルに置かれている花瓶に目を向ける。 それと同時に、花瓶に活けられていた白い薔薇が笑い出した。

「ふふふ…あははははははは!!お姉様、聞こえていらっしゃる?」
「マリー…!!」

部屋中に笑い声が響き渡る。クレールは花瓶に鋭い視線を向けた。それを知ってか知らずか、花は嬉しそうに揺れている。

「うっふふふ…ああ、おかしい…。ぜーんぶ聞かせてもらったわよ、お姉様。あれから随分と技術が進歩してね、以前は私の声しか発信できなかったけれど、 今は花に聞こえてくる音は全て私が聞くことができるようになったのよねえ〜…まだ、音だけですけど。いつかは映像も送れるようになるかしら。 それとも、永世遡行が成功して言葉を話す人間がいなくなるのが先かしら?ふふふ…」

クレールは一度扉を見て閉まっていることを確認してから花に向き直った。

「…永世遡行は、絶対にメルディナの理に反する行いよ。私たちがここへ来る以前に時を戻したら、必ず大地の崩壊を引き起こすわ」
「またそれなの。理、理って…私はもう神なのよ、理に縛られるような存在じゃない。理の解読だって進めているわ。いつか私こそがメルディナに理を付すことになるでしょうよ」
「理に逆らった結果、エルバンは死んだんじゃないの…!」
「…知らないわ、そんな人」

ローズマリーの返答に、クレールは衝撃で目を見開く。

「なにを…あの人は、あなたの…」
「さあ。私が覚えてないということは、神に不要な記憶だったんでしょう。それよりも。随分と悪あがきをなさっているようじゃない。 今話していた二人のうち、フィルというのがアシュリィのことね。あの子がオラトリオをこちらへ持ってきてくれるのならば、 アッシュを向かわせる手間が省ける。お礼申し上げるわ、お姉様」
「いいえ…あなたに永世遡行はさせません。フィルはあなたの聖玉を壊し、今度こそ世界を救ってくれるわ」
「ふふふふ…やだわお姉様、これ以上笑わせないでくださる?」

まるで花が感情を持っているかのように小刻みに震え、くすくす笑っている。

「まったく、お姉様がなさろうとすることは昔から矛盾に満ちているわ…破った伝承書を広めたり、 お気に入りの人間を集めちゃったり、お義兄さまには異様な執着をお向けになるし、 ちょっとそのお義兄さまが死ぬように仕向けたら激昂なさって私を騙してこんなところに閉じ込めたり。それに…」

ローズマリーはつらつらと楽しそうに語り、クレールはきつく白薔薇を睨みつけた。

「そもそも白蛇を使って人を滅ぼすことを提案なさったの、お姉様じゃなくて?」






「よおおおーしっ!!シャープ、待っててね!!」
「てっててねー!」
「…え?」

ラベル家の屋敷の外に、今度はちゃんと門から出てきたアリアは人目につかない草原まで移動してきて気合を入れたのだが、 足元から高い声が聞こえてきて拍子抜けした。

「…ら、ララちゃん!?ちょっと、お家に帰ったんじゃなかったの?!」

そこにはララシャルがちょこんと立っており、アリアと同じように空に向かって拳を突き出すポーズを決めている。 普段は長い袖で見えない小さな手がしっかりと握られていた。

「ダメだよララちゃん、お父さんとお母さんが心配するよ?」
「あいねー、しゃーにいとこ、くーの?」
「そうだけど…」
「ララもくーの!あいねーと、くーの!!」
「ええ〜…」

ララシャルを連れて行っていいのか、いやダメだろう、とアリアは頭を抱える。 しかしララシャルは元気に飛び跳ねながらアリアに向かって抗議を始めた。

「あいねー、くーのに、ララは、めーなの?!めーなの、やーなの!!あいねーと、くーの!!」
「………。」

舌足らずではあるが、ララシャルは必死にアリアに訴えている。ララシャルが話すのと同時に揺れるリボンを見つめ、 アリアは何度か頷いた。

「…うん、シャープのことが心配で、シャープに会いたいのは私もララちゃんも同じだもんね。 私が一人で色んな人にムリ言って行こうっていうのに、ララちゃんだけダメだなんてそんなのおかしいよね。 いいよ…一緒に行こう、ララちゃん。その代わり、私は覚悟を決めて行くからララちゃんも同じだけ覚悟しておいてね!」
「はーい!しゃーにいとこ、くー!!」
「よおし!!」

ララシャルはリボンを使ってアリアの体をひょいひょいと上っていき、首の後ろに収まる。

「シャープがどこにいるか、どっちの方向か、分かる?」
「あーち」
「そうだよね。私もそう思う」

ララシャルはアリアの顔の横から空を指差した。それは西の方向で、今いる高台からは広大な草原と森が広がっている。 そして、大きな夕日がゆっくりと地平線に沈んでいくところだった。






フィルとレックはアリアから2時間ほどおくれてラベル家の屋敷から出てきた。 建物の中からでは気づかなかったがすっかり陽が傾いており道行く人もまばらになっている。 今日中に聖墓キュラアルティに向かうことは出来なさそうであり、つまりは今夜の宿が必要になってしまっていた。

「アリアはもう行っちゃったかなあ…召使の人に「先に行ってる」って伝言だけはもらったけど…」
「…ま、多分もう空に向かって飛んでっちゃってるよな、あの行動力のカタマリは…」
「レックも大概じゃない?」
「俺はちゃんと冷静に行動するもん」
「どうかなあ」

フィルはクレールからもらった本を抱えなおし、トランの町並みに目をやった。 階層の多い建物もいくつかある上にまだ開いている店もかなりの数が見えており、これなら何とかなりそうかなと考える。 道の突き当たりに見えている三角屋根の宿屋らしき建物を指差し、じゃああそこに行ってみようかとフィルが歩き出した瞬間。

「だーれだっ」
「わー!?」

突然視界が真っ暗になり、フィルは思わず叫び声を上げた。

「か、カイさん!?」
「あーレック、言っちゃダメじゃない」

フィルの目を背後から両手で覆っていたのはカイで、レックはお供の人がいるのかと周囲を見回すが近くにも見える範囲にも誰もいないので このカイさん、本物かなとちょっと心配になる。しかしこの息子への溺愛っぷりはそうそう真似できるものじゃないかと納得し、傍観することにした。

「えっ…父さん?ちょっと、離してよ!」
「はーい、正解はお父さんでしたー!!」
「…カイさんってホント、フィルが関わると…知能が下がるというか…」

フィルの体を開放してくるりとひっくり返し、今度は正面から勢いよくむぎゅーっと抱きしめる。

「父さん…もうあんまり驚かないけどさ、どうしてここに…?」
「そんなの、フィルを探してたに決まってるでしょ。レックも無事にバルカローレから出られたみたいだし私もまあまあ調べ物が終わって、 そろそろコンチェルトに腰を落ち着けて政務に当たろうかなって思ってね。ジェイドミロワールで私は各国を移動できるといえばできるんだけど、 やっぱり急に国に帰ってたまってた仕事片付けてまたいなくなるっていうのはあんまりよくないかなと。主にみんなの心臓に」
「…そりゃ、父さんが神出鬼没だったらみんな驚くよ」
「まあまあ、つもる話は部屋で落ち着いてからにしよ。レック、3人一緒の部屋でいい?」
「い、いいですけど…」

お邪魔じゃないですか、と言い掛けたがそれを察してかカイはいち早く じゃあ決まり〜、とフィルの背を叩いて前進を始めた。 部屋ならもうとってあるんだ、と遠くに見えるひときわ大きな宿屋らしき建物を指差す。

道中、フィルとレックはカイに先ほどラベル家であったことを話した。時の聖玉オラトリオを聖墓キュラアルティに取りに行くよう言われたこと、 アリアがランフォルセを持ってアイテールへ向かったであろうこと。最後に、クレールから告げられた「永世遡行を阻害する「未来の記憶」を持つ者」の ことをいよいよ言おうとしたときに宿屋に到着をし、入り口の前と受付の前の広間を見て唖然とした。


    






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