トウモロコシの購入数が1本ではなく3本だったことにフィルは驚愕したが、宿は何とか見つかり、 その直後にトウモロコシを食べた事実などなかったことのようにアリアはあちこちの店で食べ歩いた。 フィルもそこまで小食だという自負はなかったが、アリアにはどう考えても食べる量では負ける。 軽く10人前は食べ、宿へ向かう帰路でカップいっぱいにフルーツが入ったデザートまで購入し、それをまた幸せそうに頬張っていた。 「ああ、おいしかった〜」 「…まだ食べてない?」 「これは別腹でーす」 「お腹は一つしかないと思うんだ…」 デザートで両手がふさがっているため、ララシャルを抱っこする役目はフィルに…と思いきや、 周囲はすっかり暗くなっているのにララシャルは目が覚めているようでフィルの隣をてくてくと自力で歩いている。 周囲をキョロキョロ見回しては、通行人に可愛いわねー、と声をかけられて愛想よく手を振っていた。 「なんかさあ…」 カットされたグレープフルーツを口に放り込みながら、アリアが何気なく言った。なんだろ、とフィルは屋台の光に照らされた アリアの横顔を見る。 「こうやってお腹いっぱい食べられて、すーんごい幸せで…この世界のどこかで誰かがとんでもないことを考えてるなんて、 嘘みたいだよね…人間だったら、この平和がずっと続けばいいって、思うものなんじゃないのかな。どうしてこれを気に入らない人がいるんだろう」 そうぽつりと言い終えて、もぐもぐと咀嚼のために口を動かし始めたアリアに、フィルはなんと答えればいいのか分からなかった。 話しているアリアを、ララシャルも不思議そうに見上げている。 「あいねー…?」 「ん、ララちゃんにはちょっと難しかったかな。要は、おいしいもの食べられるのは嬉しいよねってことだよ〜。 ララちゃんは何が好きなんだっけ?」 そう問いかけられ、ララシャルは張り切って両手を挙げた。 「ぷいん!!」 「そうだね、ぷいんだね〜」 今度作ってあげるからね、と答えてからイチゴを口に入れる。お菓子のことが話題になり、フィルは先日までオヤツを作ってあげていた ニヒトのことが気にかかった。まあシェリオが今までどおり作るだろうし、エバもフォルテもいるから大丈夫かな…と思ったところで、 アリアが足を止めたのでフィルも立ち止まった。 「はいとうちゃーく。確か部屋は一つしか取ってないんだっけ?」 「う、うん、満室で…ベッドは二つあるから、ぼくは椅子か床で寝るよ」 「なんで。ララちゃんは私と一緒に寝るもんね?」 「あいねーとっしょに!」 「ねー?」 「せ、狭くない…?」 「だいじょぶだいじょぶ。さ、明日は早いよ!しっかり起きて、支度をして、朝御飯しっかり食べて、レッジ湖へレッツゴー!」 「あーい!」 「うん、まあ……そうだね」 あれだけ食べたのに朝御飯を食べるのか、とフィルは自分が食べたわけではないのに胃もたれしたような感覚に陥る。 さらに明朝、アリアの朝の弱さに頭を抱えることになるなど知る由もないのであった。 「ユフィア様ぁ〜、ジャムにするための木の実、摘んできましたよー」 ウサギの耳を揺らしながら、ラブレーが小さなカゴに摘みたての木苺をいっぱいに持って家の中へ入っていく。 「お加減はいかがですか?ハーブティーぐらいなら、ぼくにでもいれられますよ」 「余計なことをするんじゃないよ…」 「ユフィア様…」 ユーフォルビアの寝室から、力のない声が聞こえてきてラブレーはしょんぼりしながら部屋を覗いた。 レンガの壁の広い部屋には楕円型の絹の絨毯がひいてあり、その奥に大きなベッドが置かれている。 ラブレーはぴょんぴょんと奥まで跳ねるように歩いていった。 「何か召し上がった方がいいですよ」 「…遠出の支度をしな」 「えっ?」 起き上がったユーフォルビアは、視線を手元に落としたまま小声で呟く。ラブレーは緑色の目を瞬かせた。 「外出なさるんですか?!極度の引きこもりでいらっしゃったのに!」 「丸焼きにされたいの!それともここで一匹で留守番しとく!?」 「むっ…やです!置いてけぼりはやーですーぅ!」 「それなら今日中にセレナードに向けて出発するから準備しときなさいよ。できてなかったらカゴにつめて持ってくからね」 「ペット扱いも やです!」 「…ペットだろうが」 やれやれ、と不機嫌そうにユーフォルビアはベッドから降りて室内履きに足を通す。 お元気になられたのかな、と嬉しそうにラブレーが足元を飛び回っているが無視してカーテンと窓を開けた。 「ここに隠れててもダメみたいだからね…こいつをなんとかしなけりゃ」 「なんです?」 「ああ、空気を入れ替えようって言ったんだよ。何日の旅になるか分からないから収穫できる野菜は保存庫にしまっとくからね」 「はぁーい」 ラブレーから木苺が入ったカゴを受け取り、そして枕元に置いてある小さな箱に目をやる。 「これも持ってかないと…まあ、この家を誰かが荒らそうったって、また回り道と別の家作ればいいんだしね」 カゴを片手に取って小箱をもう片方の手に持ち、廊下からユフィア様ー、パンは何枚焼きますかーという声が聞こえてきたので 勝手に切るんじゃないよ、と大きめの声量で返事をした。 「おい、ベル!ベルってば!」 「ん……あれ?朝?」 「またうなされてたから…それにみんな起き出す頃だから、そろそろ行こう」 隣から苦しそうな寝言が聞こえてきたので目を覚まし、眠っていたベルを起こしたレック。 もう一つのベッドにはレンが一人で眠っており、まだ熟睡しているようである。 ベルは覚醒しきらない頭で目の前にあるレックの顔を認識し、次いで今日はレックをレッジ湖まで連れて行くんだ、 部屋に誰か来る前に出ないといけないんだ、その後レンを…ということを連鎖的に思い出した。 「ごめ…寝ぼけてて…行こっか」 「いや…疲れてるならもう少ししてからでもいいよ?俺がこの国の奴らになんと言われようと 自分の自由を主張して出ていけばいいだけだし。お姉ちゃん二人が健在なら、厳密に言えば俺なんていらないだろうしさ」 「そんなことはないだろ…レックこそ、大丈夫なのか?昨日あんだけかわるがわる人が来て大変だったじゃん」 「もー、いいんだあんま考えたくないっていうか、もう関わりたくないっていうか…多分この国は、お祭りが好きなんだろうな…」 昨日のことを思い出すと、レックは頭が痛くなりそうだった。セルシアが回復した式典を行うだの、 城を黙って抜け出した経緯は省略した上で冒険譚を発表しろだの、その日取りや衣装合わせだの、 山のように人が押し寄せてきたのである。もう遅いから明日にしろと叫んで、この部屋に逃げてきたのだった。 そしてもうそれに巻き込まれるつもりは毛頭なく、誰にも気づかれないうちに王宮を抜け出す算段である。 「にしても、ミラはちゃっかりキリエの婚約者として部屋もらっちゃうなんて…ホント複雑なんだけど…」 「ミラが幸せならそれでいいじゃん」 「それはそうなんですけど…弟という立場上、感情的に、その…」 「はは、俺は一人っ子だからあんまよくわかんないな」 「俺だってずっとそう思ってたよ!むしろ、ちっちゃい頃はフィルのことを弟みたいに思ってたし…今はすっかり対等だけど。 ホント、フィルはすんごいいい奴だから、ベルも絶対仲良くなれるよ。二人が会うのが今から楽しみだな〜」 「…そっか」 レックは楽しそうにフィルについて話しながら、レンに近づいていく。 「おーい、レン。起きられる?そろそろ出発しようと思うんだけど」 「うーん……」 「まだ眠いか?」 「おきる…」 肩を叩かれ、掛け布団の中でもぞもぞと動いた後、目を更にぎゅっと瞑ってから薄っすらと目蓋を持ち上げた。 レックを見上げて小さく おはよ、と呟く。 「おー、おはよ。朝食は道中何とかするとして、みんなが起きてくる前に出かけようと思うんだけど。いい?」 「いい…けど、その前にやりたいことがある…」 「やりたいこと?」 バルカローレの王宮内の、カリンの体が安置されている部屋に行きたいとレンが言ったのでそこへレックとレンの二人で向かった。 全くの無人というわけではないがまだ人の行き来は少なく、早朝の掃除や料理などの仕事がある人たちが忙しそうに走り回っている。 レックの部屋から3部屋離れた場所に寝かされている凍ったカリンに向かってレンはなにやらしていたようだが、 レックはカリンの姿をあまり直視できなくて部屋の出口で扉の方を向いていた。 もういいよ、と言われて部屋を出てまたレックの部屋に戻り、今度こそ窓から3人で城を脱出したのだった。 「バルコニーから逃げ出すかも、とは思わないんだな…城の人たち。監視が全然ついてないなんて」 「俺がコルミシャークからもらった「聖獣の息吹」も、どこで手に入れたかは話さなかったし どうやって城を抜け出したのかも全然詳しく言ってやらなかったからさ。それに言わなくていいって言われたし」 「なんで?」 「城の警備を潜り抜けて勝手に逃げ出せたなんてことは知られたくないんだろうな」 「なるほど…」 レックはベルと手を繋いでぶら下がって、ベルはファシールを背に乗せて飛んでいる。 その横をレンが大きな鷲に掴まってついてきているが、急に二人に向かって声をかけた。 「ちょっと!ねえ、レグルス!ベル!」 「なんだ?」 「一旦、地上に降りたいんだけど。いい?」 「いいけど…どの辺?」 「あの森の近く…かな。すぐに用事は済ませるから。あまり近寄らない方がいいよ、レグルスは」 「なっ、何でだよ」 何をするんだろう、と思いながらもベルは高度を下げていく。鷲も翼を畳んで急降下し、地面すれすれでまた羽ばたいてからレンを降ろした。 「ここなら木もあるし、水場もあるし…上から見たら、花畑も近かったから適当かな」 「おーい、何をするんだよ?」 「来ない方がいいって言ったでしょ。離れて」 「……」 レンに後れて地面に降り立ったレックとベルは、レンにきつめにそう言われて近寄るのをやめる。 「なんだろう?」 「カリンのところで何やってた?」 「いや、見てなかったんだよな…でも、特に何もしてなかったと思うぞ。大体、カリンは凍ってるからなにもできないし…」 と、二人で話していると突然、こちらに背を向けているレンの向こう側からなんともいえない音が聞こえてきた。 「な…なんだ?!」 「この音…」 ばさばさ、というか、ブーン、というか、とにかく大量の何かがうごめいているような、暴れているような、そんな音である。 レンの方を見てみると、黒くて濃いもやのようなものがいくつかの塊になり四方八方へ飛んでいるのが確認できた。 本能的にそれがなんなのかを悟ったレックはベルに飛びつき震え出す。 「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーッ!!あれ、あれ、む、む…虫だろ?!虫だろ?!ベル、早く飛んで!!逃げて!!何やってんだアレ!?早く!早くーッ!!」 「わか、わかったから!レック!苦しいって!!」 首にしがみつかれて身動きが取れなかったが、しっかりと掴まれていたのでベルは片手でファシールを握ったまま空へ急上昇した。 レンも二人の方へ走りながらマグノリアを出し、空へ舞い上がる。 「これで全部…かな。ベル、レグルスは大丈夫?」 「見ての通りだよ…」 ベルにしっかりと抱きついて半泣き状態のレックを見て、レンはやれやれとため息をついた。 「…来ない方がいいって言ったのに」 「ば、ば、馬鹿ッ…何やってたんだよ…!?あんな大量の虫を放流して…森を食い尽くさせる気か…!?」 「さすがにそれはないと思うよ。あれは全部、カリンが世話をしてた虫」 「…はっ…?!」 ベルの首にしがみついたまま、レンに顔だけ振り返る。 「ぼくたち…メイプルと、カリンと、ヴィオと、ぼくの4人は…使役しているマグノリアを譲渡できる力を共有していたんだ。 カリンからカリンのマグノリアを預かって、今ここでカリンが世話をしてた虫を全部地上に放したの。大きさは普通の状態で」 「全部って…あ、あんな量の虫を飼ってたっていうのかよ…正気の沙汰じゃない…」 「まあカリンはぼくたちの中でも所持していたマグノリアの数はずば抜けて多かったよ。すぐ増えちゃうしね」 「やめろ、想像しちゃうから…!」 「カリンが世話できない状態になっちゃったから、森や水場があるこの場所に逃がしにきたんだ。 全員が生き延びられるわけではないだろうけど、全部アッシュさまのお屋敷に置いてるよりはいいと思うから」 「そ、そうだけど…ちょっ、あれ、蜂の大群じゃね…?」 レックがそう言って見ている先で、黒い影のようなものが空中で静止している。ベルとレンもその視線の先を追って、それを確認して頷いた。 「蜂だな」 「スズメバチかな」 「攻撃前の警告音出してるな」 「すごい音だね、これだけいると」 「冷静に分析してる場合かッ!!早く逃げろーッ!!」 レックが叫ぶと同時に蜂たちが飛び掛ってきたので、それを上回るスピードでベルはファシールを旋回させ、 レンもその横を高速で飛び去ったのだった。 「おいしかったぁ〜」 「信じられない…」 「そこまでおいしかった?フィルくんの好みはケチャップ味かあ」 「そういう意味じゃない…」 ベッドの中で散々まだもう少し寝たいと駄々をこねていたアリアをフィルとララシャルが交互に起こし続けたものの一向に効果はなく、 もういい、先に朝御飯を食べに行こうというフィルの言葉にようやくアリアは反応してやっとベッドから這い出てきた。 そして身支度を整えたアリアは徐々に目がさえてきたかと思うと空腹を訴え出し、 宿屋の食堂で5人前はあろうかという巨大なオムライスをぺろりと平らげたのである。 フィルもララシャルも周囲の宿泊客や朝食をとりに来た泊り客ではない人たちと共に完全にギャラリーと化して アリアの食べっぷりを見届けたのだった。ちなみにフィルはサラダとピラフを、ララシャルはオムライスのおにぎりを半分食べた。 「…アリア、毎日あんな量を用意してもらって食べてるの…?」 「毎日ってワケじゃないけど…食べられるときはいっぱい食べちゃいます」 「周囲の目は気にならない?」 「おいしく食べて何が悪い!」 「…すがすがしいまでのポジティブさ」 コンチェルトの王宮内は愚か、タン・バリン学園の友人らですらここまで食べる人は見たことがない。 しかし、こんなことで驚いてはいけないのだろうとフィルは疲れそうになった精神を奮い立たせる。 今はアリアとシャープ姫のために闇の剣ランフォルセを探しに行くべきときであり、アリアの食事量にドン引いている場合ではないのだ。 「さてと、食事も終わったし特に他にすることなくなっちゃったけど…レックくんはどの辺りか分かる?連絡はあった?」 「出かけるとき、レックたちが出発するときに一言だけ声をかけてくれたよ。今から城を抜け出す、また後でなって言われた」 「便利だねえ、そのシフラベルって…私とシャープにもついてたらよかったのに…」 そう言って急にしゅん、となってしまったアリアにフィルは慌てる。 「えっと、シャープ姫とのこと、ぼくよく知らないんだけど…婚約って、どうやって決めたの?いつ頃?」 「んー…?3年前、白蛇と戦って…双子の妹のフラットがいなくなっちゃったからしばらくはシャープも元気がなかったんだけど、 まあ…私からプロポーズしちゃいました。「健やかなる時も病める時も、富める時も貧しき時も、シャープを愛し、敬い、慈しみたいんだけど、いい?」って」 「なにそれ、すごい…結婚式の前に誓っちゃってる…」 「顔真っ赤にしてOKしてくれたよ〜。ああ、可愛かったなあ…」 両手を指の先だけ合わせて空を見上げながら思い出し、ほう、とため息をついた。フィルの腕の中にいるララシャルは特に気にする様子もなく、 帽子のリボンの先を手でいじくって遊んでいる。 「…でも、私との婚約と結婚は公にできないから。セレスさんと相談して、セレスさんとシャープが結婚するってことにしたんだ。 そうすればシャープはセレナードの王宮で暮らせるし。本当は私がシャープを一番愛してるんだよ、って言って回りたいけど…ま、しょうがないよね」 「……」 「私とシャープの間に子供が生まれたら、それはセレスさんの子供として育てられることになってるの。セレスさんは結婚する気はないみたいだから」 「…そうなの?」 「うん」 よいしょ、と町の中を流れる川の上にかかっている橋にアリアは腰をかけた。広い橋なので通行の邪魔にはならないかな、 とフィルはアリアの正面に立つ。 「ずっと一緒に暮らしてたわけじゃないから…セレスさん、ちょっと私にも分からないことがあるんだ。あるっていうか、多いっていうか…。 絶対に弱ったところを見せようとしないし、余裕があるように振舞ってる。実際、弱ったりも余裕がなくなったりもしない、 すんごい優秀な人ではあるんだけど…完璧な人なんていないじゃない。少しは辛い事があったら教えて欲しいのに、そういう話はしたことないんだ」 「へえ…」 フィルは、セレナードの王宮の中でセレスと初めて会ったときのことを思い浮かべた。癒しの司を殺した犯人だと周囲に決め付けられていたときに ごく普通に接してくれたこと、カイとの7歳差という珍しい親子関係を気にせずに父を褒めてくれたこと、 そして過去を引きずっているのか、急に弱音を吐き出したことを思い出し、あれはとても珍しいことだったんだ、と思うと同時に可哀相になる。 「人よりできると大変なんだね…」 「なんていうか、ラクに生きるのがイヤなんじゃないのかな。私はラクであればあるほど大歓迎なんだけど」 「…それも、いいんじゃない?」 フィルとアリアが話している間、ララシャルは暇だったようだがふと顔を上げて赤い目を丸くさせフィルの胸を叩き出した。 「ふぃーゆ、ふぃーゆ!」 「なに、どうしたの?」 「てーふってゆーの、あっち」 「ん?」 ララシャルが指差す方を見ると、雑踏の奥から誰かがこちらへ走ってくるのが見えて二人は目を凝らす。 おーい、という声と手を振っているのが見えて、フィルは あっ、と声を上げた。 「レック!ちょっとアリア、ゴメン、ララを持ってて」 「え、うん」 フィルもレックに向かって駆け寄る。アリアもその後ろから追いかけていった。 「フィル!!わー、なんかすんごい久々な気がする!いつも声だけだったけど、フィルは変わってないなあ〜!」 「変わるほど離れてないって。でもレック…なんかちょっと、たくましくなったように見えるかも…」 「そお?そりゃあ、大冒険してお姉ちゃん二人を救ったんだもんな。男らしくもなりますよ」 久々の再会を喜んでいる二人の後ろから、フィルに追いついたアリアが周囲を見回している。 アリア王女、とレックが手を軽く振るがアリアはレックの後ろを見てばかりで気づいていなかった。 「…どうしたの?」 「レックくん、お久しぶり…あの、ベルは?一緒に来たんでしょ?」 「あ、そういえば。レンって子もいると思ってたんだけど。どうしたの?」 レックの周囲には、ベルとレンの姿がない。ああ、とレックは頷きながら頭の後ろで手を組んだ。 |