「理解できなかったかしら?要するに、人間がこんなに増え広がる前の太古に時を戻すの」 「それは、もはや神話の時代の世界じゃ…ええと、神様、そのときを経て今が在るということの確証がないと意味がないんじゃ…?」 唐突に飛躍した話に、カイは戸惑いながらも聞き返す。メルディナ大陸の起こりは神話に伝わってはいるが、あくまで神話であり誰も知らない時代のことである。 「…そこを説明する必要はないわ。時を戻せば戻すほど、人間は減っていく。神自ら手を下さずとも減らせるのよ。 そして最も減った時点で時の遡行を止め、ようやくそこで私が直接最初の人間を排除するの。誰も苦しまず、無駄がなく、確実な方法でしょ?」 「まあ…できるのなら…」 「それが人間として当然の反応でしょうね。神にしか操れない領域なんだもの」 「えと、手段はさておき…どうしてそんなに人間を滅ぼしたいのかな。過去に何かあったの?」 「過去にあったんじゃないわ。未来にあるのよ」 「みらい…」 今度はこの人は何を言うのやら、という心持でカイはローズマリーの言葉を反芻した。 「いいのよ、いきなり全てを解れという方が無理があるわ。でもあなたほどの人物ならきっと理解し、納得できるはず」 「それはどうだろ」 「私だって人間の心情は分かっているわ。人間を滅ぼそうとする存在は、いつの時代も悪だった。 死にたくない、生き続けたいと思うのが人間の本能。その二つを考慮するだけでも、私のしようとしていることは受け入れ難いものでしょうね」 ああ、自分でも分かってはいるのかとちょっと安心してカイは小さく何度も頷く。 「でも、それはあくまで人間の視点でしょう。人間こそが悪だとしたら、どうかしら」 「…つまり?」 「地と他の生き物の目線で考えれば、人間が不要なの。人間さえいなければ地は栄え美しい姿を保っていられる。分かる?」 「……。」 「人間はこれから争い続け、地の美しさを損なっていく。お互いを殺すあらゆる手段を見つけ、探求し、その競争に終わりはない。 ついには地を壊滅させ、何も残らないほどの力を手に入れる…あなたにも、心当たりがあるんじゃないかしら?」 ローズマリーはカイを見上げて不気味な笑顔を浮かべ目を細めた。カイは握った手を顎に当てて考える仕草をしている。 「…ま、ないわけではないよ。言わんとしていることもおおよその想像はつく。…だけどね、神様。 あなたは二つほど私に対して思い違いをしているみたいだよ」 「思い違い?」 眉をひそめてローズマリーが聞き返した。否定されることが気に入らないのか、声に不機嫌さが混じっている。 「そ。まず、私にとって一番大切なものがなんなのか分かってないようだね。 自分の命よりも、世界の平和よりも、大事なもの…それは、私の息子のフィルなんだよ」 「…なんですって?」 「ああ、あなたはあの子の産みの親らしいけど…自分に親権なんてもうないことは分かってるよね? 私はフィルを育て始めてから長期間親を探し続けたんだよ。それでも名乗り出てこなかったんだから、あの子の親を名乗れるのは私だけ。 で、まあ私にとって最も大切なのはフィルであり、あの子の意思であり、幸せであり、あの子との絆なんだ」 「……はあ」 すらすらしゃべるカイの様子に、ローズマリーはもはや呆れている様子だった。 「つまり、あなたが時を戻すことによってフィルとの出会いも生活も思い出も、全てなかったことにされるなんて論外だね。断固拒否するよ。 私があなたを阻止する力があるならば、全力でそうする。そのことによって長じて世が滅びようともね」 「なんてこと…あなたは天才だけど、究極の馬鹿だわ…所詮は人間ね。失望したわ」 頭を左右に振ってローズマリーはそう言った。落胆している様子はなく、カイを純粋に馬鹿にしているようである。 それを見てカイは、言ってあげようかどうしようかな、と少しだけ考えた。 「んーとね……大体、戻せばいいという考え方が間違ってるんだよ。ビデオゲームみたいにリセットしてしまえばいいっていう発想がね。 これからいくらでも変えられるし、変えようとする努力もせずに全てを否定するのは「神様」として間違ってるよ」 「…言ってくれるわね。人間の分際で。私にとっては今この場であなたを八つ裂きにするなど容易いのよ?」 「そうやってすぐに脅しにかかるんだから。無理だよ、私だってそこまで馬鹿じゃない。それなりの対策をしてここに来ているに決まってるでしょ」 「それでも、あなたを殺す者を地上に差し向けることだってできるわ」 内心やれやれと思いながらカイは少しでも穏やかな表情を向けるようにつとめる。そんなに怒らないでよ、と言ってみたが プライドを傷つけられたと感じたようでローズマリーの視線は刺々しいままだった。 「まあ、さっきのはちょっと言いすぎたよ。フィルのことは愛してるけど、世界が平和であることがフィルにとっての幸せでもある。 だから私の能力はそのために使いたいと思っているよ。あなたとは違うやり方で地を豊かにしたいんだ」 「そんなのは無理よ。私は知っているんだから」 ローズマリーの声には確信がこもっている。 「随分と自信ありげだね」 「当然じゃない…あなたたち人間は全く気づいていないようだけど…この今の時ですら、私が一度時を戻した世界なのよ?」 「……」 カイは少し目を見開いた。驚いたかしら、とローズマリーは誇らしげな笑顔を浮かべて笑っている。 しかしカイは、またなにやらうーん、と考えている様子を見せた。 「…まだ言ってなかったね。あなたが私に対して勘違いしているもう一つのこと」 「……」 いいから早く言いなさいよ、という視線を向けられ、カイは心の中で苦笑する。 「大体知ってるんだよ、あなたのことをね。ローズマリー…あなたがどこから来て、何をしてきたのかを」 「あ〜…よかったぁ〜…!!」 レックはベッドの上に仰向けに思い切り倒れこんだ。ぼふん、と体が跳ねてからまたシーツの上に沈む。 「間に合ってよかったな」 部屋に一緒に入ってきたベルが、レックを見下ろしながら言った。さらにその後ろからはレンが若干呆れ顔で立っている。 ダイアンサスの塔で、レンはランに「必ず帰ってくるから今は帰らせてほしい」と頼んだので、 コルミシャークが王宮まで凍ってしまったカリンの体を持って同行してくれたのだった。 帰ってきたレックはその足でセルシアとキリエが治療を受けている部屋まで走ったが、 偶然廊下にいたミラに会ったので彼にコルミシャークからもらった「聖獣の息吹」を渡してレックは病室の近くに隠れていた。 しばらくして部屋から歓声が響いてきたと同時に二人が回復したというような言葉も聞こえてきたので どうやら効果はあったらしいと判断して部屋へ戻ってきたのだった。安心したら急に疲れが押し寄せてきたためである。 「おーい、そのまま寝るなよ」 「はぇ〜…疲れた…」 「まだやることあるんだろ。カリンは凍ったままだし、あの人…ヴァイオレットのことも、探さないといけないし」 「そーだった…」 カリンは姿を消したコルミシャークが王宮の前で降ろしてくれたのでベルとレンの二人で王宮に運び込み、客人用の部屋にひとまず安置してもらった。 そのカリンの体を元に戻すことがレックの次の目標だった。それと、もう一つやらなければならないことをレックは思い出す。 「ミラにもっかい会いに行かないと…」 「病室にいたんだろ?」 「いたけどあの道具の説明しただけで…俺の姿の人間ならあの道具を使うことを許されるだろうし、 俺が入っていってミラに隠れててもらうよりもそっちの方がいいかなって思ってさ…」 「んー…なるほどな」 「カイさんが俺のために作ってくれた俺の姿を映した人形だけど、もはや俺とは別の人間だし… 二人を救うことしか考えてなかったけど、ミラのことをどうしたらいいのか、本人とも話し合わないと…」 「…そう思うと、なんかちょっと怖いな」 最初は意思を持たない人形だと思って気軽に使い始めたが、レックと同じ姿の知性を持った生き物として存在しているとなると 話はかなり変わってくる。レックの身代わりとしてここにいてくれることが最も大切なことだった頃と今は状況が違った。 「俺が一言声をかけたら、人形の姿に戻っちゃうんだもんな…でも、もうそんなことしたくないし…」 「ここにレックとしてこれまで通りいてもらえば?王子様としてさ」 「そ、そんなこと勝手に決めちゃダメだろ…人間とは体の構造が違うらしいってカイさん言ってたし………うん、やっぱ行ってこよ。 あの部屋、今すげーことになってそうだけど」 「あ〜…無事に帰って来いよ」 死にかけていた皇帝の命が助かったとなると、病室の中はどんな騒ぎになっているか想像もつかない。 最悪の場合を想定してあらゆる行動が起こされていただろうし、それらが全て不要のものになれば多方面に影響があるはずだった。 ずっと意識がなかったセルシアとレックは話せていなかったが、キリエはどうしているだろうということが気にかかる。 先ほどは人目につかないように小走りで通った廊下を、今度は堂々と一人でレックは歩いていく。 そして病室の左右にいる見張りにちょっと入るぞ、と言って扉を開けて中に入った。 「……うお」 中はセルシアを取り囲んでいる人たちでいっぱいで部屋の奥が見えない状態だった。 ざわざわと話し声がしていて、セルシアを中心に話し合いが行われているらしい。 ランの言葉を信じるならばあの道具は一瞬で体力が戻るような効果を持っていたはずなのでセルシアはあの人ごみの中で元気でいるのかもしれない。 人だかりから視線を逸らして、キリエのベッドの方を見た。 「ミラ…」 椅子に座ったミラが、起き上がっているキリエと共にレックに視線を向けている。部屋に入ったときから見てたんだろうか、と思いながら二人に歩み寄った。 「…ありがとな、ミラ。ちゃんと言ったとおりに道具を使ってくれて」 「いいえ……よかったよ、二人とも助かって」 「………。」 ここまで完璧に話せるのか、とレックは気が重くなる。 「あのさ…ミラ、軽い気持ちで役に立つ人形として使い始めて本当にゴメンな。二人を助けることしか、頭になくて…」 「あ、あの、そのことなんだけど」 ミラがレックの言葉をさえぎって立ち上がった。二人が並ぶとまるで双子のように背格好が同じだが表情の作り方は違う。 なんだろう、と、レックは全く同じ高さの目線のミラを見つめた。 「先日、キミが…レックが、出かけて行った日にレックの部屋に来客があって…」 「え、そうなの?カイさん?」 「ううん…その人は、ぼくを作ったもう片方の人、「リアン」という方で…」 「リアン…うん、知ってる人では、あるけど…?」 「その人が言うにはね…ぼ、ぼくが人形の姿に戻れるのはあと2週間ほど、なんだって」 「…え?」 「今はまだレックがぼくに言葉をかければ人形に戻れるし、もう自分の意思でレックの姿になることはない。 …だけど、あと少しでぼくはずっとこの姿のまま存在することになるんだ。だから、その…なるべく早く…」 「よかった!!」 レックの予想より大きな声に、ミラはぎょっとする。部屋がざわついているためレックの声を気にする人はいなかったが、キリエも驚いていた。 「なにが…」 「戻らなくていいよ!ミラがそのままでいることが嫌じゃなければ、だけど。もしこのまま俺たちと一緒に人間として暮らしていくことができるなら、 俺の一言のせいでまた人形に戻るんじゃないかって不安を抱えさせなきゃいけないのかもって心配だったんだよ〜…ミラも、戻りたいわけじゃないだろ?」 「そ、それは…そうだけど、うん…」 「私もよかったって思ってるのよ」 「…あ」 横からキリエの声が聞こえ、レックはそういえば挨拶もしてなかった、と焦る。 「あ、ええと、お姉ちゃん?よかったよ、元気になれて!だから言っただろ、絶対に助けるってさ」 「ええ、信じていたわ。…正直、セルシアはもう半分諦めていたんだけど…まさか、命が助かるだなんて」 「ああ、色んな人に助けてもらってさ。…うん、色々あったよ。あ、それで、ミラがこのままでいてくれたら嬉しいって?」 「そうよ。私と一緒にいてくれるって、約束したでしょう、ミラ?」 「あ…あの、その…」 えっ、という視線をレックから向けられてミラはしどろもどろになり顔を赤らめた。 おいおいちょっと待て、とレックはミラの両肩を持って自分に向き直らせる。 「…こら、何をいい感じになってんだよ」 「えっと…」 「だってレグルスは私の傍にいてくれなかったじゃない。ミラは私の容態が危ないときも、いつだってここで励ましてくれていたのよ?」 そういたずらっぽく言うキリエに、レックはむっとして言い返した。 「そりゃー、俺がここにいちゃダメだろ!も〜……そんだけ、気遣ってくれてたってことか…やれやれ」 ミラとキリエの急進展に複雑ではあったが、これはこれでいいかと無理矢理納得することにする。 しかし周囲にはどう説明するつもりなんだろう、ということが気にかかった。 「でもさ、俺と同じ顔なわけじゃん。みんなにはなんて言うわけ?」 「カイ王子が用意した、あなたの影武者…とでも、いえばいいんじゃない?実際そうだったわけだし」 「あ〜…それなら、血は繋がってない赤の他人であり、他人の空似か……ま、二人がいいならそれでいいけどさ」 「それで、レグルスは今後どうするの?」 レックがバルカローレへ呼ばれたのはセルシアとキリエが死に掛かっており皇帝一族の血が途絶えそうになっていたからである。 その心配がまあまあなくなった今、レックは自由の身になったはずだった。 それでもカリンのことを何とかしたいし、だがそのことをキリエに言うのも気を遣わせそうなのでどうしたものかと思案する。 「んー…まあ、もうちょい調べたいことがあるからなあ…もう少しここにいさせてもらいたい、かな。 この国が俺に用無しだから出てけって言わない限りな」 「まあ…私たちを救ってくれたレグルスに、そんなことを言うわけがないわ」 「それはどうかなあ〜…」 あそこまで自分の意思を無視したことを押し付けてきたこの国の高官たちのことはレックは信用していない。 そして、そのままの態度でいた方がいいだろうとも思っていた。 そのことを考えると気が滅入りそうになってくるので無理矢理思考を止めて、ミラから手を離してくるりと向きを変える。 「じゃ、ちょっとばあちゃんに会ってくる。病み上がりなんだから無理しちゃダメだぞ」 「はーい、ありがとうね」 「い、いってらっしゃい……」 ミラは緊張した面持ちでぎこちなく手を振っている。キリエはかなりよくなった顔色で、笑顔を作ってレックを見送った。 レックが部屋から出て行ったのを確認すると、キリエはミラに小さく手招きをする。そしてミラの耳に口を寄せた。 えっ、と小さく声を上げつつも、ミラはそっと顔を近づける。 「…あなたが本当は人間だって、言いそびれちゃったわね」 「おーい、フィル」 「え…と、父さんっ!?」 ソルディーネ家の客人用の寝室で、フィルはあまりにも聴きなれた声がしてベッドから飛び起きた。 見れば目の前には、カイが至極嬉しそうな顔をして立っていたのだった。 「わーい、久しぶりっ!やっぱり離れてるものじゃないなあ〜…ああ、フィルを充電しとこ」 「じ、じゅうでんってなに…?」 うろたえているフィルの頭をお構いなしに抱きしめて、カイは幸せそうにしている。 レックから「シフラベル」でカイがバルカローレに来ているということは聞いていたのに、 海を隔てた遠いところに、しかも家の中にピンポイントで現れた父親にフィルは戸惑うばかりだった。 「ちょっと、苦しいってば…」 「あ、ゴメンゴメン。どう?人を使って色々調べていたみたいだけど」 「う、内緒にしてたのに、父さんは全部お見通しかぁ…」 「賢いフィルのすることだ、何も心配はしてないよ?」 フィルは常に自分を見張らせて、アッシュに入れ替わられるときのタイミングやそのときに何をしているかを調べている。 しかし最近はあまりそれが起こっていないようで、二日前にほとんどの見張りをコンチェルトに帰したばかりだった。 「ところで、どうして私がここにいるのかは聞かないの?」 「…父さんがすることだもん、何をやってても不思議はないよ。ぼくには理解できない技術を駆使してここにワープしてきた、とかでしょ?」 「おー、半分合ってるよ。よしよし」 そう言いながら今度はフィルの頭を撫でる。久々の息子との再会を堪能しておこう、といつもより入念である。 「…父さん、離れて」 「え゛ッ……」 「ち、違う違う、そうじゃない」 いつぞやのフィル豹変罵り事件の悪夢が一気に蘇ったカイは声を裏返らせて凍りついたが、 予想以上の衝撃を受けた父親の様子にフィルは慌てて手を振った。 「嫌だとかそういうことじゃなくて。ぼくが一人でいるときは見張りは部屋の外にいてもらってるんだよ。 どうせ父さん、扉から入ってこなかったでしょ?誰も見張ってないときにぼくと二人きりになったら危ないよ」 「それは…アッシュに、入れ替わられるから?」 「…そ。父さんもよく知ってるでしょ、アッシュがどれだけ粗暴で危険な人間か。父さんに考えられないような言葉を浴びせ、 シェリオを氷のナイフで刺そうとしたり、シャープ姫を連れ去ったり…今だって何かを企んでいるはずだよ。 いつぼくがこの体を乗っ取られるかは分からないんだ、近くにいたらどれほど危険か…特にぼくは、 父さんにだけは絶対に危害を加えたくない」 きっぱりとそう言い切ったフィルの決意は、口調からして相当のものだとカイは察する。 話された内容は嬉しくて飛びつきそうになるほどのものであったが、アッシュについて今まであったこと、会話したことを話すべきかと少し考えた。 しかし、アッシュのことを他言しないと約束をしていたため、それはできないかと思いなおす。 アッシュに言ってもいいか聞かないとな、と一人で納得して小さく頷いた。 「…ちょっと。何か隠してるんでしょ」 「んー…」 「本当に危険なんだよ。多分、アッシュは誰かを探してるみたいなんだ」 「探してる?」 「ぼくがするであろう自然なやり取り、口調もうまく真似して…人に話しかけているって、報告を受けてる。 シェリオですら、最初は気づかなかったって言ってた。だからもっと警戒してよ。今父さんと話してるぼくだって、もしかしたらアッシュのなりすましかもしれないんだよ?」 あのアッシュが。無愛想で不器用でぶっきらぼうなあの子が。フィルの口調を真似して他人に話しかけて…と、想像してカイは思わず笑いそうになる。 明らかに笑いを堪えている様子のカイを見て、フィルは不機嫌そうに頬を膨らませた。 「真面目に聞いてよっ!だからね、今はアッシュを泳がせて誰を探しているのかを特定しようとしているところなの! まだ話の内容を分析してる段階で、絞り込むには時間がかかりそうなんだけど…」 「フィル、そんなことするよりもさ…」 「なに?」 一生懸命説明をしていたフィルだったが、カイの妙にうきうきした声に遮られ首を傾げる。 フィルに顔を近づけたカイは、いたずらっぽく言った。 「…本人に、尋ねてみたら?」 「ああ、不愉快だわぁ…。これはもう、癒しの司の候補者を抹殺して安全を図るよりも永世遡行の準備を進めた方がいいようね…と、いうわけで、アッシュ?」 「……はい」 「いい返事ね。次の使命を与えるわ。…「未来の記憶」を受け継ぎし者…コンチェルト国のカイ王子を、消していらっしゃい。 連れてこなくていいわ。殺すか凍らせてくるのよ。必ずね」 「……わかりました」 |