二人は今日フルートで起こったことを二人に話した。

「い、イリス様が・・・」
「天授力を持つ人を、狙ってたんだ・・・?」

シオンもフレイも驚いているようだ。
すると、二人の後ろからもう一人、その部屋の主が登場した。

「その刺客の二人は、どこから来たと言っていたんだ?」
「あ・・・」

それはロイアだった。
正面を向かずに、腕組みをしたまま鏡の方を見ないようにしている。

「イリヤが尋ねましたが、言いませんでした」
「・・・そうだろうな」

ロイアはまた鏡に映らない場所に歩いて行ってしまった。

「・・・おい、そこにビアンカ様いるのか?」
「ええ、いますよ・・・あれ?」

イルが振り返ると、その部屋に確かにいたはずのビアンカが消えていた。
それを確認して、またイルはジェイドミロワールに向き直った。

「いません・・・どこかへ行かれたみたいです」
「え・・・そうなのか」

シオンも鏡に写らない場所に行ってしまった。
遠くから声だけが聞こえてくる。

「おいロイア、ビアンカ様はあの部屋にはいないってよ」
「・・・それがどうしたんだ」
「いや・・・気にしてんのかと思って・・・ゴメン」

二人がそう言っている時に、フレイが話しかけてきた。

「あの・・・その人たち、テヌートだった?」
「刺客の二人ですか?いいえ、髪は白くありませんでしたよね」
「はい・・・薄い茶色でしたね、どこの国の人でしょう」
「薄い茶色・・・そっか、ありがと」

フレイは視線を逸らしながら何度も頷いた。
そうしている間に、ロイアがシオンに引っ張られてまた鏡の前に来た。

「シオン、お前な・・・」
「せっかく遠い国とコンタクト取れるんだからもっと何かしゃべれよ!」
「今は必要ないだろ・・・シオンが一番嬉しいんだろーが」
「そうかもしれないけど・・・」

そういいながら、またジェイドミロワールを覗き込んだ。
そしてアルスに向かって手を振っている。

「バイエルもフルートに一緒に行ったってことは風邪治ったんだな?」
「はい、もう元気だよねバイエル君」
「うん」

バイエルはこくりと頷いた。

「フレイ、いつ帰ってくるの?」
「あー・・・」

フレイは目を逸らした。
すぐにコンチェルトに行くことはできないからだ。

「マラカ様が、この王宮の庭を気に入られて・・・それでセレナードに帰ってから、
またコンチェルトに迎えに行かないといけないから・・・すぐには無理だよ」
「・・・・・・。」

バイエルは不貞腐れて下を向いた。
それを見てアルスが慌てた。

「あ、あの、バイエル君はもう元気になったし、こっちからも東に行けば早くフレイさんに会えるんじゃないですか?」

唐突なアルスの提案に、一同は一瞬停止した。

「・・・なるほど、バイエルをセレナードの方向に送っていけば良いということですか」
「そ、そうだけど・・・」

フレイが申し訳なさそうにしている。

「バイエルをそんな外に出して大丈夫かな」
「フレイ、大丈夫ですよ」

イルが意味ありげに微笑んだ。

「え?」
「バイエルは、あなたが思っているより成長していますよ。ね」

バイエルの頭に手を置いてイルが呼びかける。

「ぼく?」
「そうですよ、きっとフレイもビックリしますよ」
「そうなんだ・・・」

ほーっと息を吐き出しながらフレイは感心して頷いた。

「それは楽しみだな・・・でも、どうやってこっちに?」
「私が送って行ってあげます」
「え、イルが?」

シオンが意外そうな声を上げた。

「何か不満ですか?」
「お前一人で大丈夫なのか?」
「私が子供一人の面倒も見られないって言うんですか?」
「イル自身が面倒な奴なのに危ないに決まってるだろ」
「面倒とは何ですか!厄介なのはシオンの方じゃないですか!」
「厄介とは何だよっ!!」

また二人は吠え合い始めた。
鏡越しに、仲裁役の二人が苦笑した。

「ま、まあまあ二人とも・・・」

アルスとフレイを見て、二人はむすっとしながら鏡から一歩離れた。
そしてお互いぷいっと顔を背けた。

「とりあえず、バイエルは私がセレナードに連れて行きますよ。
フレイたちがメヌエットを出発する時に、またこの鏡で連絡をください」
「・・・なら、この鏡の係を作るか」

ロイアが小さく呟いた。
それを聞いたシオンが嬉しそうに振り返る。

「鏡係か、連絡があったら知らせる役だな?」
「・・・まあな」
「じゃあコンチェルトでもそれがいるな、検討しとけよ」
「言われなくてもやりますよっ!」
「イルに言ってねえよ!」

再び始まる言い合いにアルスとフレイはため息をついた。






コンチェルトとメヌエットの国境近く。
オルガンの街で、サビクはひたすら走っていた。

目的の店にたどり着くと、荒々しく扉を開けた。

「いらっしゃいませ・・・」

そこは飲食店で、店主のお兄さんがコップを拭きながら驚いた顔をしている。
サビクは全くそれを気にせずに、一番奥のテーブルへつかつかと歩いて行った。

「・・・ブラムさん」

本を読んでいるブラムは、下を向いていると布で隠れて顔は完全に見えない。
サビクは低い声で呼びかけた。

「ブラムさん。座りますよ」

ガタン、と音を立てて椅子に座った。
それでもブラムは気にする様子もなく本に視線を落としている。

痺れを切らして、サビクが机を叩いた。

「ブラムさん!」
「やあサビク。」

のほほんと顔を上げるブラムに、サビクは益々苛立った。

「やあじゃありませんよ!」
「お疲れ様。マラカ王女の一行は妨害できた?」
「・・・・・・。」

サビクはじろっ、とブラムを睨みつけた。

「どうしたの?」
「分かってるんでしょう?」
「なにが?」
「・・・・・・。」

このままでは、話が進まない。
サビクは冷静になるように自分に言い聞かせた。

「・・・マラカ王女は、メヌエットに入国しました」
「妨害できなかったの?」
「できないに決まってます」
「どうして?」

サビクは、ぎゅっと両手を握り締めた。
注文を取りにきたお姉さんは、そのテーブルの雰囲気に気づいて他のテーブルに行ってしまった。

「当たり前じゃないですか。どうしてあんなところに、王子がいるんですか!」






「あーあ、お城の中で見て良いところも全部見ちゃったしなぁ、暇だ〜」

メヌエットの王宮の中、窓から中庭をリムが眺めている。
その後ろには、フリルだらけのスカートをはいたラスアが立っている。

「ラスアがぼくの見張り役になるなんてねぇ、この国も抜けてるよね」
「あはは、そうだね」

ラスアは手を口に当てて笑った。

「ラスアを連れてきたカペルマイスターの・・・レインって人は?」
「レインさん・・・」

その名前を口にした瞬間、ラスアは少し頬を赤らめた。

「ラスア?」
「あ、ええと、今日は王様の視察のお供だって・・・早く帰っていらっしゃるらしいけど」
「そっかぁ〜・・・」

またつまらなそうに窓のふちにあごと腕を置いた。

今日は天気も良く、絶好のお散歩日和だ。
リムが捕まってから数日が経過している。

城内にいる分には問題ないということで、監視つきで牢から出された。
その監視役は、レインに連れてこられたラスアになっていた。

「ねぇ、ぼくたちいつバルカローレに行けば良いの?」
「王様次第らしいから・・・」
「運良くぼくも割と自由の身になってるけどさぁ、よくも可愛い弟を二人とも置いていったよねぇ・・・」
「そ、それはゴメンってば」

ラスアは苦笑しながら肩をすくめた。

「そのための脱出経路も確認してあったんだし・・・」
「あーもう!それはぼくが悪かったよぅ!」

やけっぱちにリムが叫んだ。

「で、サビクは今どこで何してんだろ?ラスア知ってる?」
「ええとね・・・ブラムさんと一緒にいるはずだけど」
「ふーん・・・ねえ、そのうちこのメヌエットも、派手に戦争始めるかな!」

リムはとんでもないことを嬉しそうに言った。

「どうだろうね・・・セレナードにちょっとした攻撃はしてるって、レインさんが言ってたけど」
「え、宣戦布告もしてないのに?」
「セレナードからの挑発に対する報復なんだって」
「へえ〜・・・セレナードは今バルカローレとの戦争で忙しいだろうから、今は手を出してこないだろーね」
「そうだね」

ラスアが頷きながら窓の外を見ると、王のお出迎えの人たちが整列するのが見えた。
どうやら視察からロイアたちが帰ってきたらしい。

「でも、メルディナの国々で戦争を起こさせるのがぼくたちがやるべきことでしょ?」
「うん、ブラムさんも今コンチェルトで何度か動いてくれてるみたい」
「コンチェルトかぁ、あそこずっと前から中立国だもんなー・・・」

そう言いながら、リムは頭の後ろで手を組んで廊下の奥を見た。
リムの見覚えのある人の後姿がそこにあった。

「サビクだ!」
「えっ?」

リムの嬉しそうな声に、ラスアは窓の外から視線を移した。

リムは素早くサビクに駆け寄り、跳び蹴りを浴びせた。

「えーいっ!」
「うあ?!」

ぱかん、と見事に蹴りが命中し、サビクはうつ伏せに床に派手に倒れた。

「いったたたた・・・!」
「え?」

頭をさすりながら起き上がった人物の声を聞いて、リムは凍りついた。

「い、今・・・何が起きたんだ・・・?」
「うわあ・・・」

よろよろと立ち上がったその人はゆっくりと周りを見回した。
リムは慌てて口を手で覆った。

「・・・お前!」
「は、はいっ!」

リムと目が合い、きっ、と睨みつけられた。

サビクやリムたちと同じ白い髪、そしてサビクと同じ青い服を着ている。
しかし、それはサビクではなく、シオンだった。

「いてーだろうが!突然何すんだよ!」
「ご、ゴメンなさい人違いで・・・!」
「人違い?」

シオンは頭から手を離して聞き返した。

「誰と間違えたんだよ?」
「あの、ぼくの兄と間違えて蹴っちゃったんですぅ・・・」
「お前は兄の頭を蹴り飛ばすのか?!」

シオンは驚いて大声を上げた。
それを見ていたラスアが慌てて走ってきた。

「ごめんなさい、この子が人違いしたみたいで・・・!」
「・・・あ?」

ラスアを見てシオンは目を瞬かせた。
そして小声でリムに尋ねた。

「・・・おい、お前の姉さんか?でかいな」
「お姉・・・まあそんな感じだけど・・・」

ラスアは頭を深々と下げた。

「本当にすみません、大丈夫でしたか?」
「いや、もう大丈夫だけど・・・あんたの弟、暴力的過ぎねーか・・・?」
「あはは・・・」

ラスアは苦笑した。
そして、シオンに尋ねた。

「失礼ですが、あなたは?」
「俺?俺はシオン。形としては一応コンチェルトの客人・・・かな」
「コンチェルトからいらしたんですか?」
「セレナードのマラカ姫の護衛。姫さんをセレナードに送り届ける途中なんだよ」

それを聞いた瞬間、ラスアとリムの表情が凍った。

「・・・え?どうした?」
「あ、いえ、それは大変なお仕事の途中で・・・」
「ね、ねえねえ!」

ラスアの後ろに隠れていたリムが顔を出した。

「なに?」
「セレナードの王女様、生きてたの?!」
「・・・・・・」

言っちゃまずかったかな、とシオンは視線を逸らせて黙った。

「ねえっ!?」
「いや・・・」
「バルカローレの使節に騙されて、殺されたんじゃなかったの?!」

リムの様子を見てシオンは首をかしげた。

「・・・お前、何でそこまで知ってんだ?」
「え?」









         





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