ぼくたち、生まれてからずっと一緒だよね。
これからもずっと一緒に遊んで、一緒に笑って、一緒に大人になろう。






「・・・久しぶり」

ロイアの前に立っているのはシオン。
その後ろにフレイが立っていた。フレイの足元には猫サイズのレオもいる。

ちなみにマラカは別の部屋で休憩をとっている。
王族ということで丁重におもてなししてもらっているらしい。

「しばらくぶりだったなシオン。元気でやってるか?」

ロイアは片肘をついてシオンを見下ろしながら言った。
玉座がある場所は、ロイアと話に来る人たちの場所よりも高い位置にある。

「・・・まー、元気だけどさ」

手を後ろに回して視線を逸らした。
シオンは、どうもロイアの視線は苦手だった。

「用は何だ?」
「あ、まあ・・・馬を交換して欲しいってことだけど」
「他にあるんだろ?」
「・・・・・・。」

やっぱ読まれてた、とシオンは肩を落とした。
ロイアは手を上げて振り払うように動かして、人払いをした。

「悪いが席を外してくれ。」
「で、ですが王、客人だけ部屋に残すというのは・・・」
「剣は預かってるんだろ?第一ここで俺を殺したらシオンのコンチェルトとフレイのセレナードが、
どうなるかぐらいは想像がつくはずだ。そこまで馬鹿な真似はしないだろ」
「しかし・・・」
「二度は言わない。退室しろ」
「・・・・・・はい」

側近達は最後まで食い下がっていたが、しぶしぶ部屋から出て行った。
シオンとフレイは、自分たちの横を通っていく大臣達の視線が気になった。

「・・・俺はもう部外者だもんな」
「俺はシオンを信用してるぞ?メヌエットの前カペルマイスター殿」
「そりゃ光栄なことで・・・」

シオンは首を振りため息をついた。

「・・・じゃあお言葉に甘えて本題に入らせてもらうけど。」
「イリヤのことだろ」
「・・・・・・。」

お前は心の中を読めるのか、とシオンが心で悪態をついた。

「シオンはどう考えてるんだ?」
「どうもこうもねえけど・・・イリヤさんが一緒にコンチェルトに帰らなかったのは、
その・・・女の人と一緒にいるんだと思ってたし・・・」
「・・・まーな」

ロイアもはいはい、と頷いた。

「城の女官も何人も声をかけられたらしいからな・・・」
「でも、あんな死にそうな怪我して帰ってくるなんておかしい。イリス様も心配してる」
「イリスか・・・」

ロイアは両腕を足の上に置いた。

「秘密にしておく必要もないからな・・・シオンには、な」

そう言いながら、フレイを見下ろした。
目が合ったフレイは驚いて思わず目を逸らした。

「え?フレイ?」

ロイアが自分を見ていないことに疑問を抱いて振り返った。

「何でフレイにはダメなんだ?」
「別にダメって訳じゃないが。俺はイリヤにセレナードに書類を持って行けって言ったんだ」
「書類?なんの?」
「バルカローレがマラカ王女を招いたことに関する報告書。
セレナードがマラカ王女がバルカローレで殺されたって誤解を解くためにな」
「ロイアがっ!?」

シオンは派手に驚いた。

「・・・失礼だな」
「な、なんのためだよ?」
「だからセレナードの誤解を解くためだって言っただろ!」
「ああ・・・そうでした」

自分に言い聞かせるように何度も頷いた。

「バルカローレはそもそもセレナードの王女を招いていなかった、ということだ」
「じゃあ、初めから・・・?」
「バルカローレとセレナードを争わせるための策略だな」
「誰がそんなことを?」
「・・・それが分かりゃ苦労しないだろ」
「そーッスね・・・」

あはは、とシオンは軽く笑った。

「でもセレナードのカペルマイスターがここにいるなら話は早いな」
「あ、そっか。これからセレナードに行くんだし」
「そ、そうだね」

フレイは少し遅れて頷いた。

「どうした?」
「いや・・・」

言い出しづらそうにフレイは後ろで手を組んだ。

「なんだ?」
「いえ、その・・・どうして、ぼくが先日マラカ王女をここに引き取りにきた時に、
そのことを教えてくださらなかったのかなと・・・」
「あ」

シオンは手をぽん、と叩いた。

「確かに。そうだよな」
「教えたところでどうしようもないだろ?コンチェルトに向かわずにセレナードに戻って報告しに行くのか?」
「それはできませんが・・・」
「なら教えても意味がないだろ。」
「・・・・・・。」

フレイは少し恨みがましくロイアを見上げた。
それを知ってか知らずかロイアは気にしない様子で続けた。

「とにかく、イリヤにその報告を任せてセレナードに送り出したんだ。
途中で妨害されたか、セレナードで何かあったかのどっちかだな」
「ふーん・・・でもその報告がありゃ、今の戦争はなかっただろうな・・・」
「まあな・・・で、用件はそれだけか?」

そう言われて少しシオンは考え、もう一つの用事を思い出した。

「そうだそうだ忘れるところだった」
「まだあるのか」
「むしろこっちが本題だけ・・・ど・・・おい、レオ」

シオンは振り返ってフレイの足元にいるレオに呼びかけた。
ちょいちょい、と手招きをすると、レオが寄ってきた。

「あ、ようやく懐いたんだな」

シオンは嬉しそうにレオを見下ろした。

「・・・なんだそれは」
「こいつはホロスコープっていうんだってよ。その中の一つで」

抱き上げようとした瞬間、レオはシオンの手に噛み付こうとした。

「あっぶねえな!!噛むなって言ってるだろうが!!」
「・・・・・・。」

危ういところで手を引っ込め、レオの鋭い歯はシオンの手に当たることはなかった。
ロイアはため息をついて、足を組みなおした。

「・・・その凶暴な猫を俺に献上する気か?俺はいらんぞ」
「ちがーう!レオ、飲んでるやつ吐き出せ!」

抱っこすることはあきらめて、レオの前で促すように手を叩いた。
レオはシオンの言うことが分かったのか、突然飲み込んだ時と同じサイズになった。
つまり、見上げるほど巨大化した。

「・・・なんだこれは?」

猫だと思っていた生き物が突然象のサイズに変わり、ロイアは呆然とした。
ぽかん、とレオを見上げている。

「はい、吐き出して!」

リズム良くシオンが言うと、レオはごろん、と口からジェイドミロワールを吐き出した。
ロイアの目の前に、大きな鏡の枠が転がる。

ロイアは目を丸くした。

「・・・これは、何だ?」

なぜレオが巨大化したのかはあまり気にしていないらしい。
鏡の方を見て尋ねている。

「ジェイドミロワール。鏡同士で会話が出来るらしいぞ」
「鏡?会話が出来る・・・?」
「これがコンチェルトにもある。これからセレナードにも置きに行く。
これで、争いの前に話し合いで解決できるだろ。使節も送らなくて良いから便利だし」
「・・・・・・」

シオンの説明を聞いた後、ロイアはしばらく考えた。
いつの間にかレオは元の小さいサイズに縮んでいる。

ロイアは立ち上がって、ジェイドミロワールをじっと見つめた。

「・・・・・・必要ない」
「えっ?」
「話し合いで解決するだと?そんなことで国同士の不和が消えると思うのか」
「な・・・」
「あってもどうせ使わないだろう。どの国だって同じだ。
話し合いをしようという姿勢だと見せかけて、不意打ちを食らわせ相手を滅ぼす。
いつかのセレナードのようにな」

そう言って、ロイアはフレイを見た。
ぎょっとしてフレイは下を向き、目を閉じた。

それを見たシオンは慌ててロイアに向き直った。

「確かにフレイはセレナードのカペルマイスターだけど、
モデラートをセレナードが滅ぼしたのは100年も前のことだろ!?
フレイが不意打ちさせたんじゃないし、フレイは関係ない!」

ロイアに抗議してから、シオンはフレイの肩をそっと叩いた。

「ロイア、そんな風に言わなくたって良いだろ・・・」
「・・・・・・。」

面白くなさそうに ふう、とロイアは息を吐き出した。

「とにかくそんな鏡はいらん、ここの分をバルカローレに回してやれ。
セレナードに置くと言っても、バルカローレと交戦状態のセレナードがそんな物を受け入れるとは思えないがな」

ロイアは玉座に戻るために階段を上ろうとした。
その時、シオンは言わないで置こうと思っていたことをついに口に出した。

「・・・ロイア」
「・・・・・・なんだ」
「それ・・・」

ジェイドミロワールの表面は滑らかで、飾りの模様が彫られている。
何で出来ているのかは、シオンには良く分からなかった。

シオンはジェイドミロワールに近寄ってしゃがんでそれを両手で起こした。

「これ、ビアンカ様が作ったんだよ」

「なっ・・・」

ロイアは目を見開いた。
ばさっとマントが翻る音がするほど、突然振り返った。

「・・・兄上が・・・?」






「すっかり良くなったみたいですね」

シオンたちがセレナードに向けて出発してから数日が経過していた。
バイエルはアルスが作った大量のサラダをもりもりと食べていた。

アルスはアルスのベッドで、バイエルはシオンのベッドを使っている。
イルは良くこのシオンの部屋に顔を出し、バイエルの様子を見に来ていた。
現在はお昼ご飯の時間で、バイエルとアルスは向かい合って食事中だ。

「なにか必要な物はありませんか?」

イルはアルスに出してもらった紅茶を飲んでいる。

「なにかあれば持ってきてあげますけど」
「・・・・・・。」

バイエルはフォークを持っている手を止めて、少し考えた。

「・・・フレイに」

フレイに会いたい、と言おうとして顔を上げた時アルスの顔が視界に入り言葉を飲み込んだ。

「え?」
「・・・ううん」

首を横に振り、またバイエルは下を向いて食べ始めた。
アルスに比べるとかなりのスピードだ。

イルのとても遅い食べる速度に比べると数十倍の早さかもしれない。
胃の中どうなってるんだろう、とイルは考えた。

その時、扉がノックされた。

「誰です?」

イルが扉に向かって話しかけると同時に扉が開いた。









    





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