ハドソンの著名シリーズの1つ、『桃太郎電鉄』シリーズの第1弾。
このゲーム制作のきっかけは、『桃太郎伝説』の開発者の1人で最高責任者であるさくまあきら氏と、ドラクエシリーズの最高責任者である堀井雄二氏が、新しいゲーム開発の話をしていたことによる。
この中で、「双六のようなゲームを作ってみたい。」という話題が出ることになった。
 元々この2人は、週刊少年ジャンプにおける各コーナーにとって大人物の存在であり(さくま氏は『ジャンプ放送局』の構成担当で、堀井氏は『ファミコン神拳110番』のレビュアーの1人『ゆう帝』という名で活躍した)、当然2人が出会うことも十分ありえた。
そして色々と雑談もしただろうし、2人もまたゲーム製作者でもあったから、雑談の中にゲームの話題もいくつかあっただろう。
その中から、双六風のゲーム誕生のきっかけが生まれたのである。
 だが、双六風ゲームというベースにしながらも、さくま・堀井両氏の考え(ベースに乗せる要素)は違っていた。
堀井氏の考えは、株や土地などといった資産を購入しトップを目指すという、いわば『モノポリー』的なものであった。
この後の1991年、それを若干アレンジした『いただきストリート』が、アスキーで発売され人気を得ることになった。
  一方のさくま氏は、資産を購入するという点で堀井氏の考えと変わっていないが、移動方式がマップをぐるぐる回るものではなく自由自在に動き回れるタイプを考えていた。
それでいて、日本列島をマップにすることで、あたかも日本を旅行している感覚にさせることも考えていた。
この構想が、1988年に『桃太郎電鉄』として実現することになるが、実は桃太郎シリーズとは当初、まったく関係ないものであった。
それが、前年発売の『桃太郎伝説』の大ヒットと、さくま氏構想のボードゲームのタイトル命名ということもあって、いつのまにか桃太郎シリーズに組み込まれていった。

 ルールは、初期資金を元に色々な目的地を回って、その道中にある各都市の資産を購入して、最終的に自分が設定した年数の間に、一番多くの資産を手に入れたものが勝ちとなる。
このあたりは、後の桃鉄シリーズとさほど変わりはないのだが、第1作目はさまざまな点で後のシリーズと違っている。
 まず、1ターンが1ヶ月であるのに対し、1作目が1ターン1季(3ヶ月)となっている。
バッテリーバックアップやパスワードがないのも、そのためなのだろう。
 2つ目は、都市にある購入資産が物件だけでなく、鉄道も加わっていること。
これは、桃鉄での物件購入の基礎が、まだ不十分だったということもあったのだろう。
事実、基礎が固まった続編以降は、都市での資産購入が物件のみとなっている。
 3つ目は、サイコロにおける収支。
続編以降では、青マスや赤マスでそのターンの収支を決めているが、1作目は2つのサイコロによって収支が決まる仕組みになっていた。
つまり、2つのサイコロを振って収支を決めるわけだが、サイコロの目が少ないほど収入が多くなり、逆に多いと支出のイベントが多くなる。
ちなみに秋は、収支イベントよりも都市の移動や物件購入などといったイベントが多い。
 4つ目は、海の移動が自動的だったこと。
第1作のフェリー乗り場は、長崎・千葉・釧路の3つで、一度フェリーに乗ると4ターン消費しなければならない。
続編以降のように、海上にもマスがあるわけではなかったので、秋のイベントの1部は若干違ったものになっている(すべて支出イベント)。
 5つ目は、一定期に訪れるインフレの時期。
続編以降は、年数を重ねるごとに少しずつ収支の量や目的地到達の資金が多くなっていくが、1作目はゲーム開始から10年の間に2回インフレが行われる。
その代わり量は2倍となり、2回目もさらに2倍になって合計4倍のインフレを味わうことになる。
 6つ目は、各プレイヤーの目的地がまったく違うこと。
つまり、自由気ままに擬似的に日本旅行を味わえることになる。
各都市をイメージした絵が、とてもバラエティ豊かになっているのも、無関係とはいえまい。
 7つ目は、借金の概念がないということ。
続編以降は、払えなくなった支出を借金としているが、1作目は全く払えなくなっても借金を背負わずにすむ。
これを、『天下無敵の無一文』ということになり、無一文の状態で支出イベントが起こっても全く払うことはない。
 8つ目は、プレイヤーの助けと足かせの存在がほとんどなかったということ。
相手を妨害したり、一気に30マス進めるなどといったカードの存在はなかったし、プレイヤーを悩ませる貧乏神もまだいなかった。
これらは、続編以降に登場するわけなのだが、言ってみれば第1作は資産を増やすより日本を旅するというイメージがより強くなっているとも言える。
ただし、プレイヤーの所持金を盗んでいくスリの銀次はすでに登場している。

桃太郎電鉄

ハドソン主催の鉄道旅行!?

発売日:1988年12月2日   発売元:ハドソン   ジャンル:ボードゲーム
値段:5800円   おすすめ度:4(面白いけど、セーブができない…)

 以上のように、続編以降との違いを書いたが、第1作目のみに登場している要素として、桃太郎ランド争奪戦と都市以外の通常マスでの特別イベントがある。
前者は、対人戦のみ選べるモードで、岡山にある桃太郎ランドを誰かが購入した時点で、ゲームが終了する仕組みとなっている。
これ以降、桃太郎ランドはプレイヤーにとって特別な存在となり、シリーズが進むごとに桃太郎ランド購入者のためのイベントも行われることになった。
1作目も、桃太郎ランド購入者のご褒美として、桃太郎ランド争奪戦のエンディングは、通常のエンディングと一味違ったものとなっている。
 後者は、一定以上の資金を持っている状態で特定のマスにとまると、物件が買えることがあり背景の絵もそれにふさわしい内容となっている。
場所によっては、コンサートが開かれるマスもあり、成功比率や収益はランダムとなっている。
さらに、季節やプレイヤーが所有する付近の都市の物件によっては、その土地柄によるイベントが発生することがある。
どれもこれも、特定マスによる特別物件同様、専用グラフィックも豊富になっている。
やはり、日本を旅するという側面がより強く押し出した格好となっているのだろう。
 これらとは少々外れるが、鉄道購入や桃太郎伝説でおなじみの女湯、那覇駅や裏技といった存在も話題となった。
鉄道購入は、先にも書いたが、この作品のみ鉄道も購入できるのだが、収入は物件より及ばない(物件収入が購入費の2分の1に対し、鉄道収入が4分の1)ものの、たとえ無一文になっても『国民のため』という理由で売ることができない。
逆に言えば、先に物件より鉄道を買っておけば、無一文になっても年の初めにより多くの収入が入ってくることになり、これを知った多くのプレイヤーが物件より鉄道を購入する事になった(CPUは、鉄道より物件を優先的に買うことが多い)。
 女湯は、桃伝から引き継がれた要素で、後の桃太郎シリーズでは定番となったものだが、続編以降の桃鉄シリーズのように簡単に見つけられるものではなく、各都市に存在する温泉を自分の物にしなければ見ることができないという、非常にシビアなものであった。
その分、ご褒美のCGは当時としてはなかなかに過激ではあったのだが。
 那覇駅は、当然ながら続編以降のように海路がないので、行くとすれば秋の緊急会議イベントを利用するしかないのだが、そのイベントもどこの都市に飛ばされるか全くのランダムなので、那覇に着く確率は非常に低い。
その分、物件はとても安い(線路はない)上に専用CGやBGMもついている。
 裏技も、半数ほどは桃伝から引き継がれ、そして以降のシリーズに継承していった。
『桃太郎美術室』と『桃太郎音楽室』がその主たるものだが(やり方は美術室の場合、1P「モモタロ」・2P「びじゅつ」・3P「しつ」と名前入力する)、自分がトイレに行ってる間はCPUに操作してもらうという『おトイレモード』や、最初から通常より大幅に多い所持金でスタートできるモードも、プレイヤーの話題の種となった。
だが、おトイレモードや大金スタートモードは、どちらも既に説明書に簡潔程度ぐらいは載っていたものの、肝心の方法までには載っていなかったが。
 

 桃鉄シリーズ最初の作品ということで、さくま氏による様々なアイデアが導入されたものの、セーブができないことや都市と路線(主に主要なJR系を使用していたため)があまりにも少なかったことといった、第1作による不完全さはあった。
特に、自分の住んでいる都市(もしくはその近く)がないことにショックを受けたプレイヤーもいた。
とはいえ、物件購入や本社(支社)がピンチなどのイベントというような、後のシリーズにおける基本的な要素はほぼ抑えてある。
 このゲーム発売後、桃伝をプレイした人はもちろん、鉄道を買えるということで鉄道ファンの人気を得ることとなった。
そして翌年には、PCエンジンで続編の『SUPER桃太郎電鉄』が発売されることになり、以降のシリーズの元となった。
だが、第1作こそが現在まで続くシリーズの人気を作ったことはいうまでもないだろう。
また、貧乏神を相手に擦り付けたり、一番早く目的地に着くために手段を選ばないといった殺風景を嫌って、いまだ第1作を愛する人もいることを考えると、まだまだ第1作も楽しみがいがあるものではないだろうか。

 桃鉄シリーズの中で、私が最も好きな作品は第1作である。
確かに、それ以外のシリーズも面白いのだが、先にも書いたように貧乏神の擦り付け合戦や目的地までの競争、相手の妨害などもありなかなかに心安らぐことができない。
もっとも、私の出身より近い都市が出ていないのはなんとも寂しい限りだが、それでも他のシリーズと比べたらゆったりとプレイすることができる。
しかも、特定の駅での特別物件や季節ごとのイベントCGを拝見したときは、とてもうれしい気分になった。
 やはり、セーブができないのはとてもつらいのだが、1年で4ターンである分2人プレイだと意外とあっさりと進んでいく。
私は、2人プレイで99年間に設定したのだが、続編以降と違って特におまけのエンディングはなかったのが残念だった。
 最後に、桃太郎ランドに関する私の思い出を書いておきたい。
桃太郎ランドという物件は、プレイして間もない私にとって既に特別の存在だという認識を持っていた。
何しろ、50億というとてつもなく高い代物だったので、なんとしても手に入れるんだという気持ちがあった。
ただ、プレイする人がいないので結局はCPUとプレイすることになっていたのだが。
 最初はほぼ互角の展開だったものの、いつの間にかCPUのほうが上にいってることが多くなった。
そして、CPUの桃太郎ランド購入をいつも見る羽目になり、そこでリセットを余儀なくされることが相次いだ。
 長きに渡るリセット地獄の末、ようやく私が思いついたことは、人間のみプレイという結論に落ち着いた。
それも、1人で2人プレイするという形であり、これによりCPUが桃太郎ランドを購入することもなく、自分の思い通りにゲームを変えることができる。
その手法をとったことにより、ついに私は桃太郎ランドを購入することができた。
そのときの私は、とてもうれしかったと同時にこんなことをしててよかったのかといった複雑な心境となっていた。
素晴らしい物は、楽して手に入れるよりも苦労して手に入れたほうが、手に入れたときの喜びがより大きくなる。
私のやった桃太郎ランド購入方は、あまりにも邪道過ぎたのだが、プレイする人が私しかいないこととCPUの調子が割といい方向に向いてることを考えると、この手のやり方も卑怯とはいえまいと思ってしまう。
とはいえ、これをやるとあまりにも虚しい気持ちが強くなることに変わりはないのだが。

(07/1/16修正)

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